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風の系譜  作者: 豊島忠義
6/14

協力者

 昨夜の激しい雨も上がり、清々しい朝を迎えていた。鳥たちもそれを歓迎するかのようにさえずりあっていた。

 そうした大都の中、中流階層の人々が住む住宅街の一角に一軒だけ、一晩中灯りを点している家があった。その家では、碁盤を挟んでふたりの男が睨み合っていた。風蓮と陳万年である。風蓮は陳万年を紹介され、話をしてからというもの、この男の知識量の多さと志の高さに驚いた。そして、考えた末、陳万年に自分の頭脳となってほしいと頼んだのだ。つまり、燕刀派の一員となることを懇願したのだった。

 風蓮は、自分の考えだけで、判断することに危うさを感じたのだ。世には、自分より、武術に長けた者、頭脳明晰な者、世事長けた者等、数多くいるのである。そうした中で、未知の相手と対峙しなければならない。李三は危機を察するという点では、確かに頼りにはなる。だが、今の燕刀派には頭脳が足りないと感じていたのだ。そこに、この陳万年を紹介されたのである。手にしないわけにはいかなかった。

 一方の陳万年は武術に興味がなかったようだ。そのため、固辞したのだが、風蓮は囲碁の勝負で決めようと詰め寄った。そして、それから、もう、10日あまりも対局が続いていたのだった。

 はじめは、陳万年が風蓮に囲碁の面白さを教えるため、対局していたのだったが、それが、陳万年にとっては抜き差しならない対局と変わった。風蓮は要領を得ると、水を得た魚のように上達した。そして、陳万年に挑んでいったのだ。

「風蓮殿、これで、詰みましたよ。私の勝です。で、もう、そろそろ諦めていただけませんか?」

「いや、まだだ。もう一局お願いする」

 風蓮は陳万年という男に惚れていた。自分では貧乏貴族だと、卑下してはいるが、その志は高い。風蓮がみたところ、この男の知識量から考えて、直ぐにでも士官の口はあるはずであったが、本人は泰然としていた。理由を聞くと、今の世、どこに士官しても人々の暮らしは良くならないと言うのだ。一時は郡吏として、地方官の役に就いていたこともあるようだが、上司と諍いを起こし辞職したのであった。その実績があるからこそ、言えるのかもしれない。そして、どこかに有望な人物を見付けて、その人物を助けることで、今の世に貢献する道を模索しているということらしい。

 そこへ、訪問者が現れた。陳万年はしめたとばかりに、応対に出たが、訪問者を見てがっくりうなだれた。その訪問者は黄瑛と李玉だったのだ。

「陳万年様、決着は着いたのですか? もう10日も風蓮様が戻って来ないのですよ。そろそろ、何とか結論を出していただかないと困りますね」

 陳万年は頭を抱え込んでいた。それを、風蓮は微笑んで見ていた。陳万年は「黄」から資金援助を受けていた。また、黄瑛の美しさに惹かれてもいるようで、頭が上がらないでいた。それを、風蓮は楽しんで見ていたのだ。

「黄瑛殿、俺の荷物は持って来てくれましたか?」

「風蓮様、いい加減にしていただきたいものです。許平君様にお願いされている私にすれば、10日も帰って来ないなんて、許平君様に何と言いわけしたものか、困ってしまいます」

 風蓮は陳万年に助け舟を出したつもりだったが、藪蛇だったようだ。

「まぁ、陳万年様を紹介したのは、私ですけれどね。ですから、陳万年様に朗報を持って来ましたよ」

「そうですか。良かった。風蓮殿を諦めさせる何か妙案でもありますか?」

「いいえ、陳万年様。貴方に諦めてもらう妙案ですよ」

 陳万年は天を仰いだ。ところが、黄瑛の話を聞くうちに、その顔は青ざめて来た。

 黄瑛は、自分の仮説を話しはじめたのであった。つまり、燕王の話である。燕王の陰謀から匈奴との連携、百蛇教や妖術を得た金旋の動き等つぶさに話した。そして、風蓮たち燕刀派はそれを阻止するために活動していることも付け加えた。

「陳万年様、貴方は民の安寧をその理想としていると言いましたね。貴方の学友である杜延年トエイネン様、于定国ウテイコク様、金安上キンアンジョウ様の3人は漢帝国を支えることで、そして、貴方は民間から支えることで4人は誓い合ったとも言いました。私たち「黄」は、貴方のその志に投資したのです。風蓮様を助けることが貴方の志に沿うことだと思いませんか?」

 陳万年は黙って何かを考え込んでいた。まだ、決心がつかない様子に、黄瑛は追い打ちをかけるように話を続けた。

「陳万年様、風蓮様には、これから、武術門派の一つ、燕刀門、掌門ショウモンとして立っていただくことになりました。陳万年様には、その燕刀門の経営をお任せ致します。そして、資金は私たち「黄」が出資致します。いかがでしょうか?」

 これに驚いたのは風蓮であった。そんな話は聞いてはいないし、自分が掌門なんてできるはずもないと思った。

「黄瑛殿、俺が掌門とはどういうことでしょうか?」

 風蓮の問いに、黄瑛が微笑んだ。

「風蓮様、燕刀派をもって燕刀門とすれば良いのです。実際に、技は風蓮様が開祖と言って良いわけですしね。それに、金旋は風蓮様に個人的な遺恨を持っているようです。きちんと、門派を組織して対応しなければなりません。それで、いかがですか陳万年様」

 聞かれた陳万年は決意したように顔を上げ、風蓮を見た。

「分かりました。燕刀門の一員として努力しましょう」

「宜しい。それでは、新たに得た情報をお伝え致します。ご懸念の毒術への対抗策です。「金蛇キンダの玉石」というモノがあります。あらゆる毒を浄化するという玉石ですが、現在、正一真教蘭鳳派が所有しているという情報です。金旋が得たらしい妖術への対抗にも道教の門派である正一真教の協力は必要かと思います。正一真教の本山は益州エキシュウ巴蜀ハショクの地です。風蓮様、行かれますか?」

「行こう。巴蜀へ」

「そう言うだろうと思いました。李三様が既に旅の準備を整えております。それから、李玉様も許平君様より同行するよう言い使っているようです。陳万年様、初仕事です。頭脳を働かせてくださいね」

 風蓮は相変わらずの準備の良さに舌を巻く思いだった。一方の陳万年は頭を抱えていた。

「困りました。頭脳を働かせるとは言っても、道教とは無縁なのですよ」

「俺に伝手がある。正一真教、風清之真人様を訪ねて行こう」

 風蓮は童顔鬼の義兄である風清之を足掛かりにしようと思ったのである。

 翌早朝、風蓮たちは、旅立った。正一真教の本山、益州、巴蜀の地にある峨眉山ガビザンをめざす旅であった。

 旅は、馬で移動したのだが、途中で険しい渓谷を越えなければならず、難航した。結局、巴蜀に入るまで思った以上に日数がかかり、既に2ヵ月程が経っていた。

 馬で先行していた李三が笑顔で戻ってきた。その李三が言うにはこの先に飯店があるので、しばらく、休憩しようと言うのだ。

「何言ってるの。三兄の手際の悪さから、もう2ヵ月が過ぎてるのよ」

 李玉は李三に苛ついているようだ。それが、言葉となって出て来る。風蓮としては、そんなに急ぐ旅ではないのだが、李玉は何か急ぐ理由があるのだろうか。そう思いつつも、ちらっと、横を見ると、陳万年が何やら考えていた。

「李玉殿、李三殿が見付けた飯店で休みましょう。風蓮殿、飯店で少し、正一真教の情報がないか聞いてみましょう」

 風蓮が頷くと、李三は喜んだ。もう20日あまりも野宿が続いていて、辟易していたのだった。李玉は風蓮が認めたので、文句を言う機会を奪われた形となった。

 それから、しばらくして飯店に着いた。そのとき、道服を着た男がふたり入って来た。

「風真人様は、どうしても庵から出るのを承知してくださらないのか?」

「はい、そうなんです。童顔鬼の所業に責任を感じて、ひとり、庵での謹慎を続けております」

「そうか……過去に、蘭鳳派の剣譜を盗見て、そして今度は、神剣、魔封マフウ剣をも盗もうとしたのだからな。挙げ句に捕まり、監禁されているわけだから、風真人様もご心痛のことだろうがな。いかに、支派、蘭鳳派に義理立てるとは言っても、過去に、破門した童顔鬼の所業に責任を取る必要はないはず。今や、正一真教の掌門代理となっているのだから、立場を考えてほしいのだが……」

 道服を着たふたりは小声でそんな話をしていた。

 内功、真骨筋大経を修得している風蓮には、意識を集中することで、ふたりの話は聞き取れた。そこで、一計を考え付いた風蓮は、道服を着たふたりに話しかけた。

「失礼ですが、おふたりは、正一真教の道士様ではありませんか?」

「その通り、我らは正一真教の道士ですが、そちらは?」

「はい。私は超蓮チョウレンと申します。実はあそこにおります妹が病から立ち上がれなくなりました。そこで、風真人様に伝手がありましたので、お願いしまして、お札をいただきました。それからというもの、メキメキと元気になり、ついには、歩けるようにまでなりました。そこで、ぜひ、風真人様にお礼と細やかながら寄進をと、思いまして、この巴蜀の地まで、旅をしてまいりました。もし、ご迷惑でなければ、真人様にお取次ぎいただけませんか?」

 風蓮は偽名を使った。先程のふたりの話から、風真人というのは、童顔鬼の兄弟子、風清之のことであろうと推測したのだ。だから、「風」姓を避けたのである。

「そうですか。ならば、あそこの川沿いに進みますと、庵が見えて来ますので、そこにおります。ですが、お会い下さるかどうか……」

「いいえ、お会い下さらなくてもかまいません。私どもの気が済めば良いのですから」

 風蓮はそう言うと道士ふたりに挨拶をして皆のところに戻り、早々に飯店を出発した。

 途中、李玉が、いつ、私が立ち上がれなくなったの等ブツブツと文句を言ったが、風蓮は笑いながら謝り、川沿いを進んだ。

 しばらく、進むと庵が見えて来た。そこで、風蓮を先頭に庵を訪ねた。

「もし、どなたかおりませんか? もし……」

 呼びかけに応えるものはいない。風蓮はしばらく、耳を澄ました。すると、裏手の方から薪を割る音が聞こえて来た。

 風連は裏手に回ってみて、驚いた。

 ひとりの粗末な道服を着た白髪の老人が剣で薪を割っていた。風蓮は、その剣捌きに舌を巻く。目にも止まらぬ速さで、剣を一閃させる毎に、丸太が見る見る薪と化すのである。

「これは、どなたでしょうか?」

 その白髪の老人が風蓮に気付いて声を掛けた。

「私は風蓮と申します。童兄……つまり、風清毅の義弟となり、「風」姓を名乗らせていただいております」

 風蓮は童顔鬼との氷底での暮らしから、真摯に接することが信用を得るために必要だということを学んだのだ。だから、風清之とも真摯に話すことにした。

「風蓮……つまり、私の義弟でもあるということですな」

 剣技の凄まじさとは逆に温厚そうな顔をしていた。風蓮は童顔鬼が義兄と慕うその理由がなんとなく理解できた。そして、今までの話を、童顔鬼との出会いから、燕王の陰謀、百蛇教や妖術を得た金旋の動き等、包み隠さず話した。

「それで、私を訪ねて来たのですな。分かりました。できる範囲で協力しましょう。ですが、一つだけ、お願いがあります。その剣を抜いて見せていただけますか?」

「分かりました」

 風蓮は手に持っていた蒼龍剣を抜いて、風清之へ捧げた。風清之は蒼龍剣を手に取り、青白い輝きをじっと見入っていた。

「やはり、蒼龍剣でしたか。この剣から霊気が漂っていましたので、そうではないかと思っておりました」

「風清之殿には、この剣の由来をご存じなのですか?」

「この蒼龍剣は、別名、斬仙剣ザンセンケンとも呼ばれています。玉鼎ギョクテイ真人様が開発したと言われる剣です。その剣を持つ者は、音速の速さを発揮し、例え仙人と言えども、この剣で斬れば、死に至しめることができるという宝剣ですな。これは、この400年あまり、「陶氏」の首領の証とされてきました。若き首領、風蓮殿。貴方は蘭鳳派との絆を深めねばなりません。私がそのお手伝いをさせていただきましょう。さぁ、私について来てください」

 風清之はそう言うなり、いきなり、宙を舞った。風蓮たちは慌ててその後を追ったのだ。だが、風清之の軽功は速く、なかなか、追い付けなかった。特に陳万年は軽功がまだ、上手く発揮できないので、両脇から李三と李玉に抱えられながら、宙を舞ったのだ。

 風清之は峨眉山をそれこそ、音速のような速さで登って行った。そして、滝の前で立ち止まると、風蓮たちにニッと笑い、その滝へと飛び込んだ。

 風蓮は迷わず、その後に続いた。その後に続こうとする李三と李玉に向かって、両脇を抱えられている陳万年は悲鳴を上げた。

 滝の中は空洞で、奥へと続いていた。そこを走りぬけると、御堂がある広い場所に出た。

 そこで、風清之は止まった。風蓮たちは息を切らせながらやっと追い付いたのであった。と、そこへ、道服を着た女性の道士たちが集まって来た。

「これは、風真人様ではありませんか。ひとり、庵での生活をはじめたと聞いていましたが……」

紅心コウシン殿はおいでか? 紅心殿に面会したいという客を連れて来ました。客間で待っていますので、そうお伝えください」

 風清之は風蓮たちを促して、歩き出した。その前を塞いだのは年嵩の道士だった。

「風真人様、ご用件は何でございますか? そのお客様たちはどなたでしょうか?」

「蒼龍剣の持ち主をお連れしたと伝えていただきますか。それだけで通じるはずです。それから、案内は不要。勝手は知っておりますから」

 風清之は年嵩の道士を避け、先を進んだ。風蓮は、ここは風清之に任せた方が無難だと考え、黙ってその後をついていった。風清之は御堂内に入ると、一室の前で止まった。

「風蓮殿、ここが客間です。中に入って、待つことにしましょう」

 風蓮は客間に入ると、やっと落ち着いたと思い、風清之の誤解を解こうと思った。

「風清之殿、誤解があるようです。私は「陶氏」の首領ではありません」

「風蓮殿はご存じないようですな。その蒼龍剣は人を選ぶのです。真に「陶氏」の首領を選ぶのです。つまり、間違いなく、貴方が首領なのです。仮に、今、首領がいるとしてもそれは、仮初めか、偽りかのいずれかなのです。分かりますか?」

「この剣は、偶然、手にしたものなのです。ですから、誤解だと思いますが……」

「いいえ、偶然ではありません。偶然のように見せて、実は必然だったということですな」

 風蓮は改めて、蒼龍剣を見た。

 ――これが、必然だったというのか。が、そうなのかもしれない……

 確かに、伯毅の兄である前首領、伯洸の意志かもしれない。だが、子浪や超老師等の幹部がいるのだ。ましてや、黄瑛の頭の回転の速さ等、自分より優れている人々が多いのである。そんな幹部たちを率いて民を護る等自分にできるはずがない。そう考えた。

「風清之殿、私は陳万年と申します。今、貴方が話したことは「陶氏」の人々はご存じなのでしょうか?」

 これまで、目を回し、李三と李玉に抱えられていた陳万年はようやく、気が落ち着いたのだろう、風清之に改めて聞いた。

「「陶氏」の幹部たちは知っているでしょうな」

「とすれば、もし、風蓮殿が、蒼龍剣を提示すれば、幹部たちは風蓮殿を首領と仰ぐということになりますか?」

 風清之は頷いた。

 風蓮は陳万年の言ったことを考えてみた。確かに、理屈では理解するだろうが、感情がそれを許さないだろう。人とは、そういうものだと思った。それに、伯毅が捕えられている。子浪もそのことがあるから、首領、韓玄に従っているのだ。

 そうやって、話をしていたとき、客間にひとりの道士が入ってきた。白髪の老女である。こちらも温和な顔をしていた。

「風清之殿、「陶氏」の首領を案内してきたと聞きましたが、韓玄殿はいずこにおりますか?」

「紅心殿、私は蒼龍剣の持ち主をお連れしたと言いました。ここにおります風蓮殿が蒼龍剣の持ち主です」

 紅心は目を剥き、風蓮をまじまじと見た。そして、納得したように頷いた。

「帝王の相ですね。すると、韓玄殿は簒奪したということになります。それで、我らとの連携を拒んだことも納得できます。風蓮殿は「風」姓ですから、風清之殿所縁の者ですか?」

「はい。私の義弟ということになります。まぁ、私と言うよりはむしろ、童顔鬼に所縁があるようです。「風」姓は童顔鬼から風蓮殿に譲ったということのようです」

「破天荒な童顔鬼殿のやることは、我ら凡人には理解不能なのですね」

「ところで、紅心殿。事態は思わぬ方向に進んでいるようです。陳万年殿の方が説明が上手そうです。ご説明願えますか?」

 陳万年は期待通り、これまでの経緯を要領良く話した。そして、百蛇教の毒術への対抗策として、正一真教蘭鳳派が所持している「金蛇の玉石」が必要だということも言い添えた。だが、紅心が気にしたのは妖術を得た金旋のことだった。

「陳万年殿、本当に、その金旋なる者が持っていた剣の一振りで落命したのですね」

「そう聞いております。故事に詳しい者はその剣は奪命剣だと言っていましたが……」

「その金旋なる者は百来に操られているのかもしれません。元々、奪命剣は、妖仙、左滋の念が篭ったものです。ですから、佐滋の僕である百来しか扱えないのです」

 新事実に風蓮は驚愕すると同時に、金旋を憐れに思った。

 ――人外の者に操られてまで、何がしたいのだ、金旋よ。

 紅心は何やら考えていたが、そこにいる皆に、しばらく待っていてほしいと言い、退室した。それから、どれくらい待ったか、半日に近い程の時間が過ぎた。

 再び客間に入って来た紅心はひとりの女性を連れていた。そして、その女性の後をついて童顔鬼が現れた。童顔鬼はニッと笑うなり、風蓮に抱き付いてきた。

「童顔鬼殿は、今後、風蓮殿を手助けすることでその罪を許すことに致しました。風清之殿、これで、貴方の顔も立ちましょう」

「これは、ご配慮痛み入ります」

 風清之は立ち上がり深々と頭を下げた。それに、軽く会釈を返した紅心は、風蓮を見た。

「この者は紅鈴コウレイと申します。紅鈴に「金蛇の玉石」を渡しておりますので、ともにお連れください。それが、「金蛇の玉石」をお貸しする条件です。宜しいですか?」

 風蓮は紅鈴を見た。年齢は自分とそうは変わらないように思えた。だが、その体躯は大きく、身体から発する気から、剣法への熟達さが伝わってきた。

「それから、当派の宝剣、魔封剣も、紅鈴に託します。それでは、風蓮殿、宜しくお導きください」

 紅心は風蓮に向かって、深々と頭を下げた。風蓮は、それに供手で応えた。

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