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風の系譜  作者: 豊島忠義
12/14

対決

「風弟……風弟……」

 どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえた。この声は……童顔鬼?

 風蓮が目を開けると、そこに童顔鬼の笑顔があった。

「おお、目が開いたぞ。良かった、良かった。風弟、わしが分かるか?」

 風蓮はどうしたのか思い出そうとした。

 ――そうか、俺は落ちたのだった。

 そして、背後から来た童顔鬼が自分を抱き抱えたのだ。

「童兄、ここは地底なのか? 死んでいないのか?」

 風蓮は身体を動かそうとしたが、激痛が走った。

「動くな、風弟よ。お前は身体を壁に打ち付けられたのだ」

 童顔鬼の話によると、童顔鬼は、あのとき、落ちていく風蓮を背後から抱き抱えると、鍵縄を投じたらしい。

 鍵縄は、しっかりと壁を捉えたのだが、そのために、風蓮と童顔鬼は、振り子のように振られ、壁に打ち付けられたという。

 その後、童顔鬼が横穴を見付け、そこで、風蓮を介抱していたのであった。

「皆はどうしたのだろう」

 風蓮は気になったので聞いてみた。

 確か、陳万年がいた場所の床石が崩れただけだと思った。であるなら、皆は無事だということになる。

 童顔鬼は風蓮にニッと笑いかけた。

「大丈夫だ。皆は無事だよ。ここへの道を探すと言っていたから、もう少し、休んでおこう」

 風蓮は、秘密組織「陶氏」の首領だとしても、そして、絶技を会得しているとしても、結局は、自分は助けられて、存在するのだと思った。

 この童顔鬼の笑顔は良い。心を軽くしてくれる。

 風蓮がそう思っていたとき、声が聞こえてきた。それは李三たちの声だった。

「童顔鬼、風蓮は無事か?」

「ああ、大丈夫だ。ちょっと打ち身があるが骨は折れていない」

 童顔鬼の答に一同、胸を撫でおろしたのだが、ひとり、陳万年だけは、慚愧に耐えない様子だった。ついに、陳万年は、思い余って、横たわっている風蓮の横に両手を付いた。

「風蓮殿、何故、私を助けたのですか? 貴方は皇族なのですから……ご自愛いただかないといけません」

 陳万年の言葉に風蓮は微笑み返した。

「陳万年、命に上下はないんだ。皇族だろうが、奴隷だろうが、等しく命は尊いのだ。それに、お前が落ちるより、俺が落ちた方が助かる可能性があったからな」

 風蓮は童顔鬼のように、邪気のない笑顔を向けた。

「風蓮、気持ちは、分かるけど、無茶であることには変わりないわよ。もう少し、考えて行動してもらわないとね」

 横から、子蘭が割って入り、風蓮に注意を促しながら、何やらに薬らしき練状のモノを取り出した。

 子蘭は、風蓮が無茶ばかりして、生傷が絶えないことを心配していた。それで、超老師の指導を受けながら医薬の数々を開発していたのだ。

 この練り状のモノもその一つだった。

「風蓮、これは、麻膏散マコウサンといって、痛みを麻痺させる薬よ。今は緊急のときだから、これを塗布するけど、後で、きちんと休養しなければ傷は癒えませんからね」

 風蓮は子蘭に微笑みながら頷いた。そして、子蘭の治療が終わり、痛みを感じなくなると立ち上がった。

「子蘭、後、どのくらい進むんだ?」

「もうちょっとよ。ここから、半日程進むと、妖仙、佐滋を封印している楼の裏に出るはずだから、その楼を守護している者に紅鈴を呼んでもらいましょう」

 風蓮たちは再び、子蘭の案内で進んだ。依然として、子蘭の後について、遊逍歩で進むのである。

 陳万年は責任を感じてか、若しくは慣れたのか、その歩みに破綻は見えない。

 そして、言われた通り約半日あまり進むと、地上に出た。楼の裏手なのだろう。

 そこに待っていたのは、紅鈴だった。

「紅鈴殿、どうした? まるで、我らがここに来るのを知っていたようだが……」

 風蓮が尋ねると、紅鈴ははじめて風蓮の目を見た。それまでの紅鈴は何かを思い悩んでいたのだろう。風蓮が声をかけるまで、上の空だったようだ。

「風蓮殿、私はどうすべきなのか悩んでいました。ですが、いくら考えても結論は出ません。そして、今、風蓮殿の顔を見て決めました。全ては、風蓮殿に委ねるのが一番良いと……」

 紅鈴が話すには、こういうことだった。

 昨日、百蛇教の集団が我眉山の周りを取り囲み、その教祖である伯麗が正一真教蘭鳳派、掌門である紅心に面談を求めてきた。

 紅心はまずは話を聞いてみようと、その面談に応じたのであるが、そこには、伯麗とともに、金旋の姿をした百来がいた。

 そこで、百来は提案をしたのである。

 二択だった。

 一つは、このまま、正一真教対多蛇教の乱闘とすることであるが、双方に多くの死傷者が出るため望まないだろう。

 もう一つは、四方陣で代表者が対決することである。自分と伯麗は神仙、佐滋が封印された火石がほしいのであるから、正一真教の者たちの血を望んでいるわけではないという。

 そして、風蓮が既にこの楼に向かっているから、揃えば四方陣も可能となると言ったのだった。

 当然、紅心は後者を選択したのであった。

 そして、風蓮たちを迎えるために、紅鈴をここで待たせていたという。

 四方陣とは、4人が東西南北を位置して対面し、神剣を手に印を結ぶのである。

 そして、結果的には意志が強い者がその陣を支配するのである。

 つまり、百来か、伯麗かのどちらかの意志が強ければ、すなわち、妖仙、佐滋は解放されるということになる。

 だが、逆に、紅心か、風蓮かのどちらかの意志が強ければ、百来と伯麗を捕らえることができるということであった。犠牲を最小限に留めるためには紅心は有効な選択をしたと言えた。

 風蓮は紅鈴の説明を聞いて頷き、案内をお願いした。その間、疑問に思った神剣について尋ねた。

「紅鈴殿、一つ聞きたいのだが、神剣というのは、一つは正一教蘭鳳派が所有する魔封剣、もう一つは、童兄に預けている蒼龍剣だと思う。後二つは、百来と伯麗が所有しているということか?」

「はい、百来が所有するのは、奪命剣です。妖仙、左滋がその念を込めて作ったという剣は、実は、神剣、水雷スイライ剣を鍛え直したモノなのです。それから、伯麗が所有するのは、金蛇双剣と言い、多蛇教、開祖である紅玉女禍コウギョクジョカが神仙から授けられたと言われています」

 風蓮はある考えが閃いた。

 ――ひょっとすると、百来ははじめから、この機会を狙っていたのではないか?

 であるならば、もう一つ聞かねばならないと思った。

「もう一つ聞きたい。紅鈴殿は、先程、意志が強い方が勝つと言っていたが、意志とは何だ?」

「分かりません……ですが、これだけは言えます。意志は風蓮殿そのものだということです。百来は、世を恨み、そして、現世に混沌を招こうとする妖仙、左滋に傾倒、崇拝しています。伯麗は、父親である伯毅殿への恨み、そして、風蓮殿への恨みで凝り固まっています。紅心様は、世を憂い、慈悲の心を持ちながらも、仙境へと導かれようとしているように思われます。風蓮殿は何ですか? 何を成してきて、何を成そうとしているのですか? それが、意志だと思います」

 風蓮は童顔鬼を見た。そして、微笑んだ。

 ――俺の心は決まっている。そうだよな、童兄。

 妖仙、左滋が封印されている楼の中へと案内された風蓮は、位置を確認した。中央に火石を乗せた台が置かれ、それを囲んで、北方に、金旋の姿をした百来が、対する南方には、正一真教蘭鳳派、掌門である紅心がいた。そして、西方にいるのが、伯麗なのだろう。自分は東方への位置へと付くことになると確認したのだ。そして、童顔鬼から蒼龍剣を受け取り、その位置へと付いた。

「風蓮、久しいですね。今日は、決着を付ける日ですよ。伯麗殿もこのときを待っていたのですよ」

 百来は、風蓮に微笑みかけた。だが、風蓮は、それを無視した。そして、伯麗を見た。その目は風蓮を捉えて離さないという強い目をしていた。

 風蓮に無視された百来は苦笑しながら続けた。

「まぁ、良いでしょう。それでは、皆さん、神剣を抜き、印を結んでください……そうです。それでは、四方陣を発令しますよ」

 百来はそう言うと、自らも印を結び、呪文を唱えはじめた。

 すると、辺りが、暗くなり、遂には、何も見えない暗闇となった。

 風蓮は、しばらく、佇んでいると、向こう側に幼い少女が見えた。泣いているようだった。

 近寄って、声をかけてみた。

「どうしたんだい? 何故、泣いているのかな?」

「お父さんがいない……お父さんが……」

 少女は泣きながら、そう話した。

 風蓮は思わず歩み寄り、少女の肩に手を置こうとしたその瞬間、その少女は風蓮に斬りかかってきた。

 風蓮は素早く、飛び退いて、少女を見た。その少女の両手には、金蛇双剣があった。

 風蓮はそういうことかと、この状況がどういうことなのか分かってきた。

 これは心の姿が現れているのである。

 つまり、この少女は伯麗の心なのだろう。少女の姿のまま、父親を探し求めているのだろう。その一方で、父親を奪った自分を憎みもしているということなのだ。

「伯麗殿……いや、伯姉と敢えて呼ばせてほしい。俺も、幼少の頃、いなくなった伯爺……伯毅を慕って泣いた。つまり、俺たちは伯毅を通じて、姉弟の間柄だということだと思う。そう思わないか? 伯姉」

「いや、違う。お前さえいなければ、お父さんは私を捨てなかった。お前さえいなければな」

「まるで、子供の……弟に父親を取られたと泣く幼子のたわごとだな」

「やかましい! お前に奪われたときを、返せ!」

 伯麗は金蛇双剣を左右から同時に振り下してきた。だが、風蓮はそれを躱さずに、一歩前へ出て、伯麗を両側から抱きしめる形で、身体を受け止めた。

「伯姉、本当は分かっているのだろう? 俺がいるといないとにかかわらず、伯毅は一ヵ所に留まるような人ではないことを」

「離せ! 離さぬか!」

 伯麗はもがくものの、その目には涙が溢れていた。

「伯姉、今、伯毅は俺のところにいる。だから、一緒に来ないか? 一緒に来て、恨み言の一つでも言えば良い。そして、今後は、共に、家族として過ごさないか?」

 もがいていた伯麗の手が止まった。

「分かった。分かったから、離せ」

 伯麗の言う通り風蓮は離した。そこに、一瞬の隙が生まれた。

 伯麗の双剣が風蓮の両脇を刺したのだった。風蓮は再び、伯麗を抱いた形となった。

「伯姉……伯毅は後悔しているのだと思う……もし、俺がここで死んでも……俺の仲間が案内してくれるから、会ってくれないか? それで……」

 風蓮はそのまま崩れ、倒れた。それを抱き抱える形となった伯麗は涙に濡れた目で見ていた。

「死ぬな、風……風弟。死んではならぬ!」

 どのくらい時間が経ったのか、分からなかったが、風蓮の意識が戻ったとき、どこからか声が聞こえてきた。

「風蓮……風蓮……」

 この声は……金旋か。

 風蓮は目を開けた。刺された両脇を確認すると、傷はなかった。身体を起こして前を見ると、金旋がいた。

「風蓮、俺を殺してくれるはずだろう……百来に囚われて生きることも、死ぬこともできないのだ。憐れだと思って、俺を殺してくれ……風蓮」

 風蓮は右手を見ると、その手には蒼龍剣が握られていた。

 ――金旋もまた、俺の業の犠牲者なのだ。

 そして、金旋を救うためには、殺すしかない、そう思った。

 風蓮は蒼龍剣を金旋に向けた。

「風蓮、この手には奪命剣がありますよ。そう簡単には金旋は殺れませんよ」

 金旋から発せられる声であるが、明らかに口調が違う。これは、百来の言なのだろう。そう思った瞬間に、金旋……いや、百来が奪命剣を繰り出してきた。

 チンッ

 風蓮はやっとの思いで弾き返すことができたが、その速さは、紛れもなく、孤影剣法だった。

 風蓮は愕然とした。剣技は明らかに相手の方が上であったからだ。百来の顔が微笑んだ。

 百来が再び動こうとした瞬間、その両側から、百来に向けて刺突が繰り出された。繰り出したのは、正一教蘭鳳派、紅心と、多蛇教、伯麗だった。

「風蓮殿、軽功、逍遥遊を駆使するのじゃ」

 風蓮は紅心に言われるままに、逍遥遊で攻めた。三者で攻め続けたことで、百来は劣勢となり、大きく飛び退いて、間合いを取った。

「ハッハッハッ、これは驚きました。伯麗までが攻めてくるとは、少し、計算違いでしたね。ですが、佐滋様の火石が近くにあることで、こんなこともできるのですよ」

 百来はそう言うと何か呪文を唱えた。すると、百来がぼやけていくと、3人へと分身したのである。

「風蓮殿、北聖真掌じゃ。剣気を蒼龍剣に乗せ、発するのじゃ」

 風蓮は、紅心の言う通り、剣気を練り、蒼龍剣を持つ右手に剣気を集めた。

 そして、大きく取った間合いから、3人の百来が、迫ってきたその瞬間、風蓮は剣気を放った。放たれた剣気は3人の百来の胸を貫き、百来の動きを止めたのだ。

 3人だった百来は再び、ぼやけていき、一つになり倒れた。だが、その背後にもうひとり、別の男が立っていた。これが、百来本人なのだろう。

「風蓮、お見事でした。よくぞ、金旋を殺りましたね。目的を果たしました。ですが、風蓮、貴方は疑問に思っていたでしょう。何故、私が、ここに現れたのか……そして、四方陣を望んだのか……今日は、立夏の日だったからです。そこに、四つの神剣の気を集めたことによって、ほら、この通り、佐滋様も力を得ましたよ」

 百来がそう言っている間に、いつの間にか、百来の胸元に火石が浮かんでいた。そして、火石は百来の胸にめり込んでいった。

「左滋様はいただきました。後は、この世に戦乱を生じさせ、満たされた負の気により佐滋様を復活させるのみ。風蓮、また、会いましょう」

 その百来は暗闇に解けて消えていった。

 すると、暗闇が晴れた。自分がはじめに位置に付いた場所にいたのだった。

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