戦士と魔法使いは死んでいました
目を開けた私が見たのは立派な門に、煉瓦造りの綺麗な城下町、その奥にそびえる美しい城……つまり移動魔法は発動した……。
それがどんな感情かわからないけど、何かがこみあげ、生暖かい雫が頬を伝った。
体力も魔力も限界に近い、でも、ここまで来れたのだから、真実を伝えるまでは倒れられない。
「おい、止まれ!何者だ?顔を見せろ」
ああ、生まれ故郷の門番に何者だと聞かれるなんて…私はそこまで変わってしまったのか。
「おい、顔を見せろと言って………!?まさか、あ、貴女様は勇者様の仲間の…リフィア様…ですか?」
「はい…リフィアです…」
「し、失礼しました!格好も、髪も、ずいぶんと…あ、いえ、その……」
「ふふっ」
誰かわからないのも当たり前ね。
服は汚く破れていて、髪もお世辞にも綺麗と
は言えない…顔をしっかり見なければ誰も私と気づかないでしょう。
「ど、どうされました?」
「いえ、なんでも、ありません…それより、王様にお会いしたいのですが…」
「では、城までご案内します!」
「ありがとうござ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「すみません…少し眩暈……が…」
視界が暗く狭まって……
ーーーーーーー
ーーーー
ーー
ー
「ん……?」
「………僧侶殿!」
「……王、様……?あっ……」
そうだ、私は眩暈で倒れて…服も身体も綺麗になっている……
「おお、よく目を覚ましてくれた……体の調子はどうだ?」
「ええ、もう大丈夫です。何から何まで申し訳ありません。」
「気にするな。それより、魔王討伐ご苦労だ
ったな。」
魔王……。ああ、瘴気が消えたからわかるのか。
「はい、ありがとうございます。あっ」
お腹が鳴ってしまった…恥ずかしい
「む、そうだな、お腹も減っているだろう…調度昼時だ、食事をとろう」
「あ、ありがとうございます。」
「気にするな。立てるか?」
「はい」
「先に通ってよいぞ」
「ありがとうございます」
王様は、やはりどの国でもずる賢い人だ…
旅立つときはいきなり呼び出し、たった5000円と回復薬だけで1日以内に旅立てと言ったのに、魔王を倒したらここまで丁寧な対応をしてくれるなんて…
「それにしても、瘴気のない空とは実に綺麗だな……生きているうちに見れるとは……本当に良くやってくれた」
「ありがとうございます…」
「どうした?元気がないが…まだ体調が優れないようなら休んでいてもよいぞ?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか、ならいいが…ついたぞ、そなたはそちらに座りなさい」
「はい」
ああ、凄くいい匂い……早く食べたいけど、その前に祈らなければ……こんな私に祈ることが許されるのかわからないけど。
「……」
「………では、食べようか」
「はい……いただきます」
「どうだ?」
「……とても、とても美味しいです」
涙がでそうになった。
暖かく、美味しい。
こんなに美味しいもの……いつぶりだろう。
レン様たちにも食べさせたいな。
「それはよかった。」
「ありがとうございます」
「……、質問してもよいか?」
「あ、はい」
「勇者、戦士、魔法使い殿がいないのは……やはり……」
まぁ当然、この質問はされるか。
「私を除き……勇者パーティーは全滅しました」
「それは……さぞ辛かったろう。しかし、何故……」
「聞きたいですか?」
聞こえないくらいの声でつぶやいた。
「ん?何か言ったか?」
「……いえ、すみません。なんでもないです。」
「あ、ああ…それで?」
「そうですね…まず、誰が最初に亡くなったかわかりますか?」
「………魔法使い……か?」
「なぜ?」
「いや、その……」
「すみません、嫌な質問でした…正解は、戦士のカイリです。」
「戦士がか?」
「まぁ、魔法使いのライアは…色々な
面で弱かったですし、普通に考えてそうなりますよね」
「……」
「……ライアとカイリのちがいは簡単にいったら、カイリは戦士でも女の子で、ライアはやっぱり男だったということと……武器の違いですね」
「それはどういう…」
「最初のスライムや、獣に近い魔物は知能も低いし、感情も乏しいのはご存知ですよね?」
「ああ……」
「そこから、だんだん人型に近づき、感情も増えて、比較的平和なこの王国と、魔王城の中間地点では、そうですね…幼児ぐらいの知能、感情があるんです。いたい、やめて
、とか言うんです」
「……」
「でも、殺すしかないんです……戦士も、魔法使いも、暗い顔つきをしていました。勇者様はみんなを励まそうと、元気にふるまって笑顔がとても痛々しかったです。ふふ、私も、自分が聖職者なのか自信がなくなって来てました。」
「そ、それは仕方が」
「ええ、わかっていました……だからこそ……」
「……すまない、続きを話してくれ」
「……それで、魔王城近くになってくると、更に知能が高くなり、魔物にも家族、友人という意識が出来ます。だから、守ろうとするし、命乞いもします。この子だけは助けて、お願いやめて……ってね」
「……」
「それで、だんだんカイリは狂っていきまし
た……魔物を殺したあと、今のは魔物だよね?人じゃないよね?って、聞いてくるんです。私たちは、そうだとしか言えませんでした。それに、剣で切った感覚が離れないと私に相談してきましたね。」
「……」
「それで、ある朝勇者が戦士を起こしにいったら…………すみ、ません」
今更悲し涙が出てくるなんて、不思議なものだなぁ……。
「だ、大丈夫か?」
「はい……話を続けます。えっと、そう、勇者が戦士を起こしにいったら、戦士は死んでいました。」
「っ……まさか、魔物に」
「いえ、違います。自殺していました。首を吊って……周りには、友人だったのか夫婦だったのか……よりそった二匹の魔物の死体がありました。酷い有様でした…魔物の血の、腐ったような匂い、戦士が首を吊った時にでた排泄物の匂い……」
「ぅ…」
「あっ……すみません」
「か、構わず続けてくれ」
「……それに、勇者の叫び声で私が駆けつけた時、勇者も吐いていたのでその匂いもありました。それで、私も吐きそうになったとき、魔物のよこに手紙があったのに気づいたんです。」
「遺書…か?」
「ええ、そうです。それには、書きなぐった様な字で、私は人を殺してしまった。ごめんなさい。レン、リフィア、ライア、わたしは
人殺し。ごめんなさい。感覚が消えない。もう生きていけない。ごめんなさい。許して。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ってずっと謝っていました」
「でも、戦士が殺したのは魔物だったはず」
「ええ、魔物でした。多分、戦士は精神的に限界がきて魔物を殺したあと、幻覚か何かで、そう見えたのでしょう。」
「……何故、戦士だけが?」
「ああ、そうですね…カイリには、聖職者である私や勇者であるレン様のように魔物の邪悪を感じとる事ができません。それに魔法使いと違い、直接、殺していたからでしょう。そのうえ、その魔物を食べないといけない状況でしたので……」
「ま、魔物を食べる?」
「言ってませんでしたね……そうですね、王様は魔王城の近くに城や町を作ろうとおもいます?」
「……いや」
「ふつう、そうですよね。それに、もし作っても余程強い兵士たちがいないとすぐ魔物に壊されでしまいますしね」
「……」
「ということは魔王城に近づくにつれ町がなくなり、必要な物資を買えなくなる……もうわかりますよね?」
「……食料がなくなる」
「正解です。なので、魔物を食べるしかないんです。魔物って不味いんですよ。毒や麻痺の特性がある魔物はどうしようもないから諦めますが、ない魔物は人型でも、たべます。」
「……すまない」
「王様が謝ることではありません。仕方のないことなのですから」
「……」
「話が脱線してしまいましたね。それで次に亡くなったのは、ライアでした」
「……」
「カイリが亡くなってライアは壊れてしまいました。感情がないとはあのことを言うのでしょうね。ライアは本当に淡々と、淡々と魔物を殺して行きました。」
二人ともとっても幸せそうで、勇者様と暑い暑いってからかったら顔を真っ赤にしてカイリは怒って、ライアは黙りこくっちゃったっけ。
でもカイリが亡くなった時からのあの無機質な、曇った目は恐ろしかった……けど、それよりずっとずっと悲しい目だったな。
「愛するものを失う痛みは想像を絶しますね……」
「……」
返事くらい、してくれてもいいのに。
「それで、ライアはどんどんどんどん冷酷になって行きました。襲ってこようとこなかろうと、魔物は全部爆裂魔法でぐちゃぐちゃになりました。どんどんえげつない殺し方になって……そう、私たち物資がなくなって魔物の集落を襲うことがありました」
「集落……」
「もう人と形しか変わらないものを殺しました。その時ライアはとても冷酷で……爆裂魔法を使うと食べ物に血がつくからと……毒をその集落の井戸に混入させました」
「なんと、そのような……」
「ふふ、もう勇者達のやることじゃあありませんよね。それで、集落は阿鼻叫喚の地獄絵図……そうしたらライアは狂ったようにケタケタと笑いだしました。それで私たちの存在に気がついた生き残りの魔物が襲ってきました」
「……」
「私たちが剣や杖を構えようとした瞬間、魔物たちはバラバラになりました。ライアが爆裂魔法を使ったのです…………」
あの光景はたまにフラッシュバックする。
目の前にいた生物が破裂し、その血が私にかかり、血生臭いにおいが充満して……やめよう。
「それで、その夜は集落の家をおかりして、久しぶりにまともなご飯を食べることができました。美味しいねってレン様も、ライアも幸せそうな顔をしていて、冗談をいったり、笑ったり、本当に楽しい夜でした」
「……」
「そして、次の朝、ライアは死んでいました。私たちのいた家から少し離れた井戸で毒水を飲んで、自殺していました」
「