言いたいことも言えないこんな世の中で
1話です。
二次元ってなんだろう。
アニメってなんだろう、ライトノベルってなんだろう。
可愛い美少女がいっぱい出てきてさ、主人公はイケメンでさ、派手でかっこよくてさ。
でも、俺が過去にアニメに抱いていたものってさ……。
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「うんだめ!どれもありきたりで最近のはやりに乗せて書いてるだけじゃねぇかこのカス野郎が!」
今、俺は同じ小説好きの友達に説教を喰らっているところだ。
このセリフを説教というレベルで納めていいもんなのかはわからないけどな。
俺の名前は日橋竹男。夢はライトノベル作家の冴えない大学生だ。
メガネをかけたボサボサ頭、彼女いない歴20年で20歳って俺完全に終わってんじゃねぇか。
おまけに大学に進学したはいいがライトノベル作家夢見てるとかまずハロワ行けとか言われても仕方ねぇわ。
そして、俺の書いた小説に駄目出ししているのが、同じ大学にいる友達の古場由加里だ。
ぶっちゃけ容姿は中の上くらいだ。でも性格が他の男より男らしいのがネック。前なんか男二人に囲まれて蹴りで応戦してた。めっちゃ強いんだわ。ローキックで相手のすばやさ下げられるんだわ。
男らしい性格に反してイラストが得意で小説好き。おいお前どうして黒髪ロングの美少女じゃねぇんだよ?なに髪赤く染めてんだよ。
こんな冴えない俺と赤い毛並みのサ○ヤ人4のこの女との出会いは、俺が小説書いてるところをたまたま見られて知り合ったとこれまた大した接点でもないんだわ。
その時書いていた小説は、たまたま俺の中ではかなりの出来だったようでこの時はこの女も『中々面白そうじゃねぇか』と褒めてくれたんだわ。
これが縁で俺は由加里に書いた小説を見てもらえるまでの仲になった。だがそれ以上の関係は求めねぇ。だって怖いんだもん。俺弱っちいんだもん。
「お前なぁ、最近は変な部活やら集まりだかをやってる日常系が流行ってるからって便乗したつもりだろうけどな。面白くねぇし個性ないしお前のようにぶっさぁなラノベだわ!謝れよそこらの作家志望さん達によ!!」
「そこまで言うか由加里よ……」
なんか泣けてきたわ。あ、涙が赤い……。
「あたしだって暇じゃないんで、次はもっとマシな、せめて読めるようなやつ持ってきてくれや」
「そこまでボコボコ言うならもう読まなくてもいいんだぞ」
「んだとてんめぇ!!」
反抗すると殴られた。一方的な暴力反対だ。
「今までのあたしのご厚意をただ評価されないで捨てるたぁ、だからお前は面白い作品書けねぇんだよ!!くだらない人生のお前よりは面白いけどな!!」
ごめんなさい、もう泣くを通り越して破裂していいですか?てか天の国へダイビングしていいですか?
と、由加里は散々言い散らした後、ふぅとため息をつき、助言めいたように話しだした。
「なぁ日橋よぉ、こう流行りに乗るとか売れようと欲を出すんじゃなくてよ。もっと自分の好きなように書いてみたらどうよ?」
「好きなようにか、俺は二次元にしか興味ないしな」
「なに死語口にしてんだよきっも!じゃなくてよ、ファンタジーとか王道でもいい。初心に戻れよ。お前だって小学校の頃好きな女の子とかいたろ?」
「由加里はどうなんぐふっ!!」
質問を質問で返すと腹パンくらった。あ、昼食ったメロンパンが飛び出そう。
「つうわけでよ、たまには家でネットとかゲーセンでフィギュアとってばかりじゃなくて公園で瞑想とかしてみろよ。じゃあな」
由加里は俺のことを心配してくれているようだ。え?それは幻想だって?その通りです。
でも、確かに由加里に見せた原稿を再度見直すと、ぱっとしねぇ。
こんなちっぽけなラノベ書いてて何がプロ目指すだよ。サイトでも250部書いてお気に入り登録3件しかない男がよ。
たそがれる俺。一人都会の町をさまよう俺。あ、向こうから怖い兄ちゃん達が……すいませんっした。
兄ちゃん達に睨まれすくむちっぽけなラノベ作家志望。高校卒業して就職できそうにないのでとにかく大学行って夢追いかけますと入ったはいいがこんなんじゃ普通の仕事もできそうにねぇ。
友達はさっきの赤ゴリラくらいだ。本人の前で言ったら地平線の彼方まで吹き飛ばされそうだな。
気が付くと、俺は公園まで来ていた。まさか由加里に言われるがまま公園なんて来ちまうとはな情けない。
後はそこで瞑想しろってか?じゃあこんな公園で小説のネタ考えてみるか。
お、あそこに幼稚園児の女の子がっていかんいかん!!だめだそうやって子供見るだけでお兄ちゃんって呼ばれたい病発動は死亡フラグだって!!
やっぱだめかな。砂場で遊ぶ女の子がいるとすぐ妄想に入っちまう。俺近いうちに捕まるんじゃね?
「……いったい面白い物語って、なんなんだろうなぁ」
「面白さは人それぞれ、って偉い大人が言ってたよ」
そうだな、いいことを言うなぁ。面白さは人によって違うって言うもんなぁ。
……って誰!?どっから声聞こえた?まさか精霊界からの使いか!?って大学生にもなって言わないってわかってるって。
声がした方を見ると、パーカーに半ズボンの少々顔の整った小さい男の子がいた。髪の毛は少しばかり紫がかっている黒色だ。
悪いな、俺はショタには興味ない……と、言わずもがなその少年は語りかけてきた。
「おじさんなにやってるの?」
おじさんじゃねぇってまだお兄さん。20になったばっかりだってこのジャリボーイが。
にしてもこんな俺に話しかけてくるのはこんな子供くらいとは、子供に好かれる属性を持った覚えはないぞ。
「お兄さんはな、人生に迷ってるんだよ」
さりげなくお兄さんを強調して見た。
「あ、ってことはおじさんも駄目な大人街道まっしぐらなんだね?」
殺してぇなこのガキ。
「駄目な大人?お兄さんは立派に夢を持った健全な若者です」
やっぱ未成熟な男の子はむかつくだけだ。幼女ならまだ愛嬌があるってのに。
見たところ小学生のようだ。一番むかつく年頃ってわけだな。
「へぇ、夢ってなに?」
「物書きだよ。それで人に希望を与えるのが夢」
ラノベ作家で~す。そんな大それた物じゃありまっせ~ん!!
「あぁなるほど。お兄さんもいい歳こいてアニメ見てはぁはぁしてる類の大人だね」
よぉし、次なんか言ったら殺すぞ☆
「お前みたいな小さい子供に、物語の奥底にある良さなんて理解できねぇよ。帰ってヨーデルでもしゃぶってろよ」
と、俺が反論気味に(大人げないって言わないでね)言い返すと。そのガキは答えた。
「ふ~ん、僕のような小学生にはアニメは漫画のよさなんてわからないって言いたいわけ?」
「あぁそうだよ。お前らなんてただかっこよくて派手なだけでうけるだけ……」
「……それのなにがいけないの?」
……。
少年のその一言に、俺は少しばかり硬直した。
「確かに僕はまだ小学生で、深夜アニメや読みやすい小説に出てくるような表現の良さなんて理解できない。けど……僕ら子供が見るべき空想の物語にそれらを強要していったから、"僕らが見れる"娯楽作品が減っていってるわけじゃん」
な、なんだこの……重苦しい感覚。
少年から発せられる言葉に、思わず耳を傾けてしまう俺。
「魔法少女系の作品だって。小さな女の子はかわいくかっこいい少女の姿に見惚れ純粋に楽しみたいのに。あなたたち大人が変な目を向けるから子供が置き去りになってるんだよ」
日曜朝にやってるやつか、すまないが毎週録画予約してるぜ。
「戦隊物だってライダーだってそう。子供が純粋に楽しんでいる中にイケメンだのBLだの割りこませて違う楽しみ方をしてる大人達がいるから、主題歌からすべてが大人向けだよ」
悪い、そっちは見てねぇな。
「そこであなたみたいに作家を夢見る大人に聞くけどさ……面白い娯楽作品って……なんなのさ?」
「ぐふぉ!!」
「純粋にそれらを楽しむ幼稚園児や小学生達を置き去りにしてまで求めるエロスってあるの?お母さん達と一緒に見て楽しむ時間を奪ってまで求めるハーレム要素って必要なの?」
「ぐっふぉ!!が……」
な、なんだこのガキぃ……。
子供なりの純粋な意見に、大人っぽさのテイスティングが混じる絶妙なトーク。
こんな子供に対し、俺は……なにも言い返せないのか。
いや、言い返すのを恐れていると言うのか……。
「こんなちっぽけな子供一人が、ちっぽけな大人一人に言うのもどうかと思うんだけどさ……」
「――僕ら子供から夢と希望を奪っているのは、あなた達大人の欲望なんだよね」
ぐ、ぐはぁ!!
だ、だめだ。それ以上俺に言わないでくれ。こんなちっぽけな俺に。
俺なんて力もない。面白いラノベも書けねぇ。故に何も主張できず、言い張ることすらできねぇ。
なのにこのガキは――少年は、純粋さを利用して、子供なりに考えたことを……。
「……すいません」
な~に謝ってんだよ俺!!誰の代わりにこの少年に頭下げてんだよ!!
「それで、お兄さんはどんな作品を書こうとしてるの?」
さりげなくお兄さんに戻して……そうやって優しく俺を導こうとしてんのかやりやがる!!
「……お前がさっき否定したような、ハーレムな日常系さ」
「やっぱり。それで面白い作品書けるならいいけどさ、どうせ失敗するんだから……戻ってみればいいじゃん?」
戻る……?
そう言って少年は、言葉を続ける。
「子供の心に、昔自分達が見た夢や希望の世界を思い浮かべてみようよ。それなら僕たちも協力するよ」
「……少年、名を聞かせてくれ」
「雛森明良。ただのしがない小学生だよ」
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俺たちにとっての二次元ってなんだ。
かわいい女の子に囲まれる世界に、何を夢焦がれているんだ。
昔は違った。かっこいいマシンやキャラクターに心躍った。
ただ純粋に派手に酔いしれ、技名とか叫びまくった。
今時のかっこいい技名とかじゃねぇ、単純で派手でちょっぴりいかした名前だ。
そんな時に戻り、今一度俺は……娯楽と言うものを見つめ直してみようと思った。
自分自身と、小学生共と一緒に。