あと10年
「シンジ? お前、壁にへばりついて何やってんの?」
「あー……なんかさ、このアパートちょっと変でさ。こうやってここの壁に耳を当てると音が聞こえてくんだよね」
「はぁ? お前ちょっと酔いすぎなんじゃねえの? そっち側って空き部屋だろ? 聞こえる訳ないだろ」
「いやいやマジなんだって! 壁に耳を当てないと聞こえないけど、毎日ずっと聞こえてくるんだって! ほら、カケルもちょっと耳当ててみろよ」
「んー……あ〜。確かに聞こえるか。ちゃんとは聞き取れないけど、話してる声とか効果音?みたいなのが聞こえるな」
「だろ? だから何が聞こえてるんだろうなって結構気になって暇な時は聞いちゃうんだよな〜」
「やめとけよお前。趣味悪いぞ。どうせ下とか上の階の音が壁を伝って聞こえてきてるだけなんだからさ」
「それがさぁ〜そうでもないんだわ。毎日聞いてる盗み聞きマスターの俺によるとな? なんと聞こえてくる内容は10年後のニュース番組なんだわ。お、タイミングいいな。ちょっと今聞いてみろよ」
「……確かに。ちゃんと言ってるわ。2036年これから流行るグルメ……タピオカァ〜? また流行るのかよ。本当に好きだな〜」
「な? ちゃんと10年後のニュース番組だろ?」
「はいはい、そうですね。でもどうせこれこのアパートにYouTuberとかがいて企画で、10年後のニュース番組やってみた! みたいなことやってるのが音漏れで聞こえてきてるだけだろ」
「それバズるか?」
「俺が知るかよ。最近はそういう変なYouTuberいるし変な奴がバズりがちじゃん」
「確かに。でもこれはガチモンのニュースだと思うけどな〜。今聞こえてる声も、ザ・ニュースキャスターって感じだし」
「なんだそりゃ。言いたいことはわかるけど。……ん? どした? いきなりスマホ出して」
「……いや。気のせいだわ。なんでもねえ。地震速報みたいな音が聞こえた気がしたんだけど全然鳴ってなかったわ。あのテロリロンテロリロンみたいな音」
「お前やっぱ酔いすぎなんじゃね? 幻聴聞こえてるぞ」
「かもな〜。……あれ、なんも聞こえなくなった」
「壁の音?」
「うん。おっかしいな〜今まで音が止まったことなかったんだけど」
「じゃあ多分YouTuberの企画が頓挫したんだろ。バズらねえから」
「草。可哀想すぎだろ」
その日から、壁にいくら耳を当てても、音が聞こえてくることはなかった。




