表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白百合の姫君は、狼の王への献上品となる。〜蛮族に囚われた私と従者たちの、長く屈辱的な夜〜  作者: 猫野 にくきゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

第7話 闇に溶ける誇り

 狭い塔の一室を支配するのは、壁に掛けられた松明が発する微かなパチパチという音と、二人の重なり合う呼吸の音だけだった。  


 ヴォルグの放つ圧倒的な熱量に、エリアーナの肺は焼かれるような錯覚を覚える。 

 彼の大きな手が首筋から鎖骨へ、そして麻布の襟元へと無造作に指を掛けた。


「……っ」


 エリアーナは思わず目蓋を閉じた。  

 無機質な麻の布が、鋭い音を立てて肩から滑り落ちる。


 夜の冷気が、今まで誰の目にも触れさせることのなかった、陶器のように滑らかな肩と背中に直接触れた。  


 その瞬間、彼女を襲ったのは、寒さよりも激しい「露出の屈辱」だった。

 帝国で最も高貴な存在として育てられた彼女にとって、この剥き出しの状態は、精神的な死にも等しい。


「見ろ、エリアーナ。目を逸らすな」


 ヴォルグの低く、抗いがたい声が耳元で響く。  

 強引に顎を持ち上げられ、彼女は潤んだ瞳を開かされた。目の前には、自分を文字通り「解体」しようとしている男の、黄金の瞳が据えられていた。


「これが、貴様が守ろうとしていたものの正体だ。一枚の布を剥がせば、そこにあるのは無力な、ただの女の肉体だ」


 ヴォルグの分厚い掌が、エリアーナの脇腹を強く、指が食い込むほどに掴んだ。

 帝国の宮廷画家たちが「神の傑作」と謳った曲線が、男の無骨な力によって歪められる。


 痛み。

 そして、それに続く痺れるような熱。  


 ヴォルグは彼女を寝台へと押し込み、その上に覆い被さった。


「く……、ぁ……っ! 陛下、私は……私はグランドリアの……」


「まだその名を口にするか。今の貴様に、あの腐った帝国の名はそぐわない」


 ヴォルグは、エリアーナの言葉を唇で塞ぐことはしなかった。  

 代わりに、彼は彼女の耳たぶを、獲物の肉を確かめる獣のように鋭い歯で噛んだ。鮮烈な痛みが全身を駆け抜け、エリアーナの背筋が弓なりに反る。


「あ……っ、ぁあ……っ!」


 指先が震え、彼女の手は無意識のうちにヴォルグの逞しい腕を掴んでいた。  


 拒絶するために。

 あるいは、離したくないと願うあまりに。  


 彼女の理性は、必死に警鐘を鳴らし続けている。


 ――あなたは王女だ。

 こんな野蛮な男に、獣のように扱われてはいけない。  


 しかし、その理性の壁を、ヴォルグの野蛮な寵愛が容赦なく粉砕していく。


 ヴォルグの指先は、彼女の柔らかな肌の上を、まるで領土を検分する王のように、執拗に、かつ暴力的に這い回る。  


 彼が触れる場所すべてが、焼印を押されたように熱を持ち、自律を失っていく。  


 エリアーナは、自分の身体が自分のものではなくなっていく恐怖と、それを上回るほどの、今まで味わったことのない「所有される喜び」に溺れそうになっていた。


(ああ……壊されてしまう。私の誇りも、記憶も……すべて……!)


 涙が頬を伝い、寝台の硬い枕を濡らす。  


 ヴォルグはその涙を拭うこともせず、ただ彼女の反応を楽しむかのように、さらに深く、彼女の聖域へと侵入していく。  


 彼の指先が、彼女の内に秘められた「女」としての芯に触れるたびに、エリアーナの口からは、王女としての品位をかなぐり捨てた、掠れた悲鳴がこぼれ落ちた。


「……良い声だ。帝国では、そんな風に鳴くことも許されなかったのだろう」


 ヴォルグが満足げに唇を歪める。  

 彼は彼女の細い手首を掴み、頭上の壁に力任せに押し付けた。


「恐怖か、悦びか。貴様のその瞳に宿る熱がどちらなのか、身体で証明してみせろ」


「あ……ふ、ぅ……っ。私は……私は、あなた様の……」


 エリアーナの言葉は、熱い吐息と共に闇に消えた。  


 彼女はもはや、自分が何者であるかさえ定かではなかった。  

 ただ、この荒々しい手触りだけが真実。自分を「物」として扱い、魂の底から服従を強いるこの男の重みだけが、今の彼女にとっての救いだった。


 夜は、まだ始まったばかりだ。  

 バルバドの冷たい塔の中で、白百合の王女は、狼の王が刻む深い傷跡を、自ら望むようにして受け入れ続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ