第6話 戦神の操り人形(マリオネット)
とある小国の城門が、轟音と共に崩れ落ちた。
立ち込める煙の中から現れたのは、返り血を全身に浴び、鬼神の如き形相で双剣を振るうゾラだった。
「ひ、退くな! ゾラ姐さんに続けッ! バルバドの栄光は我らと共にあり!」
部下たちの歓喜の叫びが響く。
城壁の上、矢の雨を潜り抜け、敵の精鋭騎士団を一人で蹂躙していく彼女の姿は、まさに戦場に舞い降りた女神そのものだった。だが、彼女の動きは以前の野性味溢れるものとは、決定的に異なっていた。
(……右、三歩。……次は、呼吸を止めて、潜り込む……)
ゾラの脳裏には、常にアベルの声が響いていた。
彼女の四肢は、もはや彼女自身の意志ではなく、アベルが数夜かけて彼女の肉体に刻み込んだ「反射」と「快楽の記憶」によって駆動していた。
無駄のない軌道。冷徹なまでの急所攻撃。
それは、アベルという知略家が、ゾラという最強の肉体を「武装」として使いこなしている結果だった。
「……はぁっ、はぁっ、あ……ッ!」
敵の喉元を掻き切った瞬間、ゾラの背筋を、アベルの指先に弄られた時と同じ甘い痺れが駆け抜けた。
戦場での殺戮が、そのまま彼への奉仕となる。勝利の美酒よりも、彼に与えられた「躾」の重みが彼女を昂ぶらせた。
王城の玉座の間。
小国の王をその足元に組み伏せたゾラは、全軍が見守る中で咆哮した。
この瞬間、敵国は陥落。
バルバド国にとって歴史的な勝利。
その立役者は間違いなく、この褐色肌の女戦士長であった。
だが、祝宴の夜。
勝利の英雄として迎えられたゾラが、真っ先に向かったのは自身の天幕だった。
そこには、戦勝の喧騒から離れ、冷めた顔で書物をめくるアベルが待っていた。
「……アベル。勝ったよ。貴様の、言う通りに……」
ゾラは天幕に入るなり、自ら鎧を脱ぎ捨てた。
部下たちの前で見せる威風堂々とした姿はどこにもない。
彼女は、力も武力も持たないこの軟弱な男の足元に、震える肉体を投げ出し、忠実な猟犬のように跪いた。
「よくやりましたね、ゾラ。……君の剣は、実に美しかった」
アベルが本を置き、ゾラの顎を細い指で持ち上げる。
ゾラはその感触に、陶酔したような吐息を漏らした。
「……貴様がいなければ、私は……あんな風には、戦えなかった。……私の身体も、私の剣も、もう貴様のものだ。……だから、早く……『褒美』を……」
ゾラは自ら、アベルの手を自身の秘部へと導いた。
屈強な戦士たちを束ねる戦士長が、名もない新兵の指先一つで、無様に腰を振って鳴いている。この背徳的な光景こそが、彼女にとっての真の勝利の瞬間だった。
「認めますか? ゾラ。君を支配しているのは、力ではなく、僕の『知恵』であることを」
「……あ……っ、はい……。認め……る。貴様は、私の……本当の、主人だ……っ」
数刻後、アベルは満足げに、疲れ果てて眠るゾラの首筋をなぞった。
明日になれば、彼女は再び「最強の戦士長」として、軍団の先頭に立つだろう。
部下たちは彼女を崇拝し、恐れる。
だが、その勇猛な鎧の内側には、常にアベルの支配という名の楔が打ち込まれている。
バルバドの武力が、知略という脳を得た。
それは、バルバドという国が、単なる略奪者の集団から、帝国をも食らい尽くす真の怪物へと進化したことを意味していた。
ゾラは夢の中で、アベルの指に繋がれたまま、次の戦場を駆けていた。
英雄として称えられながら、操り人形として生きる。
その歪な「幸福」に酔いしれながら、雌獅子の眠りはどこまでも深く、暗い快楽の海へと沈んでいった。




