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白百合の姫君は、狼の王への献上品となる。〜蛮族に囚われた私と従者たちの、長く屈辱的な夜〜  作者: 猫野 にくきゅう
雌獅子の陥落:軟弱な伏兵と戦場の調教授業

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第3話 強がりの盾、崩落の予感

「……いいか、野郎ども! 今回の敵は小国だが、森の地形を熟知している。油断する奴から順に、首と胴体が泣き別れになると思え!」


 軍議の場、ゾラは声を張り上げた。  


 机を叩き、鋭い眼光で部下たちを威圧する。

 昨夜の屈辱を振り払うかのように、彼女の態度はいつも以上に攻撃的だった。


 周囲の兵士たちは「姐さんは今日も絶好調だ」と笑っているが、ゾラ自身の背中には冷や汗が流れていた。


 視界の端に、アベルがいる。  


 彼は末席で、所在なげに筆を走らせていた。昨夜、彼女を絶頂の果てに気絶させた男とは思えないほど、その姿は頼りなく、弱々しい。


(……そうだ。あれは、何かの間違いだ。酒の勢いと、あいつが小細工を知っていただけのこと……)


 自分に言い聞かせ、ゾラは軍議を終えた。  


 部隊が移動を開始する。

 馬に跨り、一番槍として先頭を駆けるゾラの姿は、勇猛な女戦士そのものだった。


 だが、進軍の合間、給水のために立ち止まった際、背後から音もなく「それ」は近づいてきた。


「……戦士長。少し、鎧の紐が緩んでいるようです」


 耳元で囁かれた声に、ゾラの心臓が跳ねた。  

 振り返ると、アベルがいつの間にか彼女のすぐ後ろに立っていた。


「……アベル! 勝手に近づきやがって。紐くらい自分で直せるよ!」


「いえ。ここは、僕が『躾けた』場所ですから」


 アベルの手が、ゾラの脇腹にある革鎧の継ぎ目に滑り込んだ。  


 分厚い手袋越しではない。

 彼の素肌の指先が、昨夜執拗に弄られた「一点」を的確に圧迫する。


「っ、あ……ぅ……!?」


 白昼の、しかも部下たちがすぐ傍にいる状況で。  


 ゾラの膝から、ふっと力が抜けた。

 アベルは倒れそうになった彼女の腰を、支えるふりをしてさらに深く指を沈める。


「昨夜、教えましたよね。ここを突かれると、君の強靭な脚力はただの重荷になる……と」


「や、め……。誰かに……見ら……っ」


「誰も見ていませんよ。皆、あなたの勇猛な背中を信じていますから」


 アベルの指先が、ゾラの肌の上で円を描く。  


 ただの愛撫ではない。

 それは神経の走行を熟知した者による、暴力的なまでの感覚への介入だった。  


 ゾラは必死に声を殺し、アベルの肩を掴んで耐えた。

 周囲からは、戦士長が新兵に何か指示を出しているようにしか見えない。だが、彼女の鎧の下では、熱い密が溢れ、足元が小刻みに震えていた。


「……ふぅ、ふぅ……ッ! 貴様……っ、殺すよ……本当に……」


 ようやく指が離れたとき、ゾラは肩で息をしていた。  

 アベルは何食わぬ顔で一礼し、自らの持ち場へと戻っていく。


 ゾラは震える手で剣の柄を握りしめた。  


 殺すべきだ。

 今すぐ、この生意気な男の首を刎ね飛ばすべきだ。  


 戦士としての本能がそう告げている。だが、それ以上に強烈な感覚が、彼女の脳を支配していた。


(……もっと。……あいつの指が、もっと奥まで……)


 そんな破滅的な欲求が、戦場へ向かう彼女の闘争心に混じり始めていた。  


 アベルは、ゾラを力で支配しようとはしなかった。  

 ただ、彼女が「指揮官」として振る舞おうとする瞬間に、その「肉体の弱点」を突く。誇りが高ければ高いほど、その裏側に刻まれた快楽のくさびは深く、鋭く食い込んでいく。


「……姐さん? どうかしましたか? 顔が赤いですが……」


 部下の問いかけに、ゾラは激しく動揺した。


「な、なんでもないよ! 暑いだけだ! ほら、さっさと進むよ!」


 叫ぶ声が、わずかに上ずっていた。  


 ゾラの「強がりの盾」には、既に無数の亀裂が入っていた。  

 そしてその亀裂から、アベルという名の毒が、彼女の全身へと回り始めていた。

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