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白百合の姫君は、狼の王への献上品となる。〜蛮族に囚われた私と従者たちの、長く屈辱的な夜〜  作者: 猫野 にくきゅう
泥に咲く受難:薄幸の侍女と獣たちの共食い

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第2話 祈りなき夜の兵舎

 夜の兵舎は、昼間の喧騒が嘘のように重苦しい沈黙に包まれていた。  


 リナに与えられた寝床は、兵舎の最端にある物置小屋のような一室だ。

 隙間風がカビ臭い藁を揺らし、遠くで聞こえる野犬の遠吠えが、彼女の孤独をより一層際立たせていた。


 リナは、冷たくなった自らの手を握りしめ、暗闇の中で祈っていた。


「神様……どうか、エリアーナ様をお守りください。そして、私に明日を生きる力を……」


 その呟きが消えぬうちに、粗末な木扉が低い音を立てて開いた。  


 入ってきたのは、夕刻に出会った大柄な兵士――

 バルカスだった。


 その後ろには、さらに二人の男が影のように続いている。


「……あ……っ」


 リナは跳ね起き、部屋の隅へと後ずさった。

 祈りの言葉は恐怖に塗り潰され、喉の奥で震える吐息に変わる。


「言っただろう。お前が働いている姿を、ずっと見ていたと」


 バルカスが歩み寄る。


 彼の身体からは、安酒の臭いと、獣のような野卑な体臭が漂っていた。彼は手にした松明を壁の受け皿に差し込み、赤黒い炎でリナの姿を炙り出した。


「バド、ゲル。こいつが例の侍女だ。泥を被っても、この震える姿は極上だろう?」


「へえ、確かに。帝都の女は、俺たちの村の女とは骨組みからして違うな。壊しがいがありそうだ」


 男たちの視線が、リナの薄汚れた着衣を舐めるように動く。  

 リナは必死に首を振った。


「お願い……。やめてください……。私はただ、お洗濯を……お仕事を……っ」


「仕事なら、今からさせてやるさ。俺たちの『慰み』という、重要極まりない仕事をな」


 バルカスが大きな手で、リナの細い手首を掴み上げた。

 あかぎれが走る彼女の手首を、力任せに握りしめる。


「痛い! 痛いです……離してください!」


「痛いか。いいな、その声。お前が泣けば泣くほど、俺たちの昂ぶりは抑えられなくなるんだ」


 リナは地面に叩きつけられた。

 背中に走る衝撃。冷たい床と、男たちの荒い呼吸が彼女を囲む。  


 彼女がかつて学んだ礼儀作法も、主人のために磨いた知恵も、この暴力的な熱の前では何の防壁にもならなかった。


 蹂躙が始まった。  


 それは一方的で、泥臭く、何の慈悲もない略奪だった。  

 男たちは代わる代わる彼女を犯し、その華奢な肉体に自分たちの支配を刻み込んでいく。リナが泣き叫ぶたびに、彼らは愉悦に目を細め、さらに激しく彼女を揺さぶった。


「あ……ああ……神様……助けて……っ」


 リナは虚空に手を伸ばした。

 だが、指先に触れるのは、埃っぽい兵舎の空気と、自分を組み敷く男たちの硬い鱗のような鎧の感触だけだ。  


 バルカスは彼女の耳元で、嘲笑うように囁いた。


「神様、か。……リナ、覚えておけ。バルバドの夜に、そんなものはいない。お前の声を聴いているのは、俺たちだけだ。お前の身を案じているのも、俺たちだけなんだよ」


 その言葉と共に、激しい衝撃が彼女の意識を白く飛ばす。  


 明け方近く、男たちが満足げに去っていった後、リナは物言わぬ人形のように床に横たわっていた。身体のあちこちに、赤黒い指の痕が残り、柔らかな肌は泥と体液で汚されていた。


 リナは震える手で、千切れた衣服をかき集めた。  


 絶望に心臓が潰されそうになりながらも、彼女は気づいてしまった。  

 男たちが去り際に見せた、あの歪な満足感。そしてバルカスが最後に、彼女の髪を無造作に、だが「所有物」を愛でるように撫でた時の感触。


 彼女の「弱さ」と「不憫さ」は、彼らの獣性を鎮めるどころか、それを増幅させ、彼らに「俺がこの女を支配している」という異常な万能感を与えてしまったのだ。


 窓の外から、冷たい夜明けの光が差し込む。  

 数刻後には、またあの極寒の洗濯場へ行かなければならない。  


 泥をすすり、辱めを受け、それでも死ぬことさえ許されない、長く屈辱的な日々。


 リナは、昨夜まで捧げていた祈りの言葉を、二度と口にすることはなかった。

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