44. 王家は闇です
オスカー様は付いてこなくていいと言った。嫌いというのは案外すぐ伝わるし、空気が悪くなると言ったらそこそこ納得してくれた。
幼少期を語られて照れるオスカー様も見たかったけど、隠し事の方が優先だ。
「本当に会うのか?」
「逆に公務とかどうするおつもりだったので?」
なのに当日、オスカー様はすごく嫌そうな顔をしていた。そもそも人嫌いを拗らせてるけど、ここまでとは。
「紅茶は飲むな。菓子は口にするな。嫌になったら何も考えずに帰ってきてくれ」
命令口調の癖して弱ったように言うものだから適当に返事して流すこともできず、どうにかあしらって部屋を出た。国王夫妻ならぬ義両親が住む棟は、なんというか温度感のない場所だった。
ドアが開いたらすぐに立ち上がって頭を下げる。もはや地に着くんじゃないかというほどに体を張って、最大の敬意を表現した。
「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません」
「……顔を上げて。いいのよ、あの子のせいでしょう?」
田舎すぎて新聞も見たこともなく、侯爵はなぜかオスカー様以外の王族に近づこうともしなかったから、近くで見るのは初めてだ。王妃様はどこか憂いのある美人だった。長いまつ毛の伏せ目で、艶のある黒髪を結い上げていた。
「私の方こそごめんなさい。……陛下は、お忙しいようなの」
どうやら夫婦仲があまり良くないというのは本当らしい。産んだ子が一人を残して全員死んでいるとなれば、そうなるのも当たり前と言えるけども。
「ブランドンの血筋なんですってね」
「……はい。母は平民ですが」
王妃様は窓の外を見た。
「羨ましいわ」
生命力が強いから、家族仲がいいから、殺し合いが起きないから……いろんな意味がこもった一言だった。
あまりに重い環境になんとも言えない。
「あの、オスカー様はどんな子供でしたか?」
けど逆に考えれば、残った子供を可愛がるのではないだろうか。オスカー様は嫌いだと言っていたけど、親もそうとは限らない。
王妃様は目を少し見開いた。
「ごめんなさい、私は何も知らないのよ」
「え?」
そして自嘲するように笑った。
「子は乳母に預けるのが習わしなの。……私は、あの子を抱いたこともない」
私はまだまだ、王族を知らなかった。
私が子供を産んだ時も、そんなことが起こるのだろうか。オスカー様が阻止するだろうけども、想像するだけで恐ろしい。
「あの子の幼少期は、乳母の方がよく知っていると思うわ。……その乳母も、死んでしまったけれど」
オスカー様の悪評は、乳母の死を偶然だとは思わせない。
「その話、聞かせていただけませんか?」
王妃様は口元に手を当てて、視線を泳がせた。言うつもりはなかったのだと思う。
「妻として、知る必要があると思うのです」
乳母は侯爵の母で、王妃様の幼馴染だった。王家の継承権争いと侯爵領の圧政。一人だけどの派閥にも取り入られず、毒を飲んでも生還したオスカー様。侯爵は自分の親を殺して若くして侯爵の地位につき、オスカー様はその後ろ盾についた。侯爵領は豊かになり、甘い汁を吸っていた貴族たちはオスカー様を殺そうとした。しかしオスカー様は何をされても死なず、実力でねじ伏せた。
「私は、あの子を不気味に思うわ」
王妃様の手が震えている。どうしてあの子だけ、と口だけが小さく動いた。
「国葬の時、涙すら流さなかったの。ただ冷たい目で、墓を見下ろしていた」
人間不信で、殺しても死なない天才で、この世界の何かを知っている人。結婚して倒れたあの時に感じた、謎の大きな力。
オスカー様は、常人では気付けない何かを背負っている。
「王妃様。私は、自分の手で子を育てようと思います」
でも大丈夫。
「その不気味なオスカー様は、慣習であろうとなんだろうと私を守ってくれるはずですから」
私はあの人の可愛さを知っている。根が悪い人ではないし、何より私を愛している。
「王妃様も、祖母として私の子を抱いてください」
お父ちゃんの血筋にかけて、私が全てを守ろう。家族仲も、オスカー様も、子供も全部。
「でも……」
「オスカー様は私に弱いんです。案外可愛いところもあるんですよ」
ブランドンなら、きっと全てを筋肉と光度で吹き飛ばす。




