37. お茶会です
「……毒は、もう嫌」
心惹かれている自分に気付いたのか、ふるふると首を振って警戒し直す王女様。
仲良くなったら紅茶やお菓子に毒を盛られていたという話は聞いたし、オスカー様も基本飲まない。でも。
「紅茶は王女様の目の前で私がおつぎして、先に飲みます。お菓子も、私が先に食べます」
「そんなこと、できるの?」
貴族のご令嬢、それも王子殿下の妻がすることではない。
「私は元々村娘で、侯爵邸のメイドもしておりましたから」
色々振り回されてきたけど、その中で学んだことは大きいと実感する。
「あたたかい場所で、美味しいものを食べませんか?」
やっとチェストの影から出てきてくれた王女様にしゃがんで目線を合わせる。害はないと伝えるために、おでこを見るようにして目は合わせないようにする。
「王女様は、侯爵のどこがお好きなのですか?」
決して私から近づいてはいけない。向こうが出てくるのを待つ。
「……ぁの人は、あたたかいの」
「そうなのですね」
冷たいの間違いだと思ったけども、否定はするまい。やっと、手を取って立ち上がってくれたのだから。
王女様のペースを崩さないように、すでにセットされたテーブルに座る。室内とはいえ日の当たって明るい窓際で、ティーセットが煌めく。
「料理長に頼んで茶器を煮沸消毒してもらいました」
そもそも、私がここで死んだらオスカー様が大変なことになる。実行犯を一族郎党どころか関わってる者皆殺しにする可能性がある。
ほかほかなティーポットを見せると、王女様は首を傾げた。
「本来は保存食を作る時に瓶にするものなのですが、鍋の中で煮ると長く保存できる、つまり腐敗を抑えてくれます。熱に弱い毒も消してくれるかと思いまして」
これで少しは安心してもらえると息巻いていたものの、保存食なんて作るわけもない王女様はまだわかっていない様子だった。
「ま、まあとにかく、先に私が飲みますし……どの茶葉にしますか?」
「……」
「お好きなものを選んでください」
おずおずと指差した紅茶を淹れて、先に飲む。全く異常がない。いじめなどで変な味がする可能性もあるかと思ったけど、信用のおける使用人を選んでくれたのだろう。サンドイッチやスコーンも料理長が腕を奮ってくれたようで、やはり美味しい。
「大丈夫です。美味しいですよ」
こちらが死なないか怯えていた王女様ににこりと笑いかける。至って健康です、と。
「……おいしい」
口角の端がほんの少し上がるような、そんな儚気な笑みだったけど、もうそれだけで十分だった。
「よかった」
さすが料理長。紅茶の淹れ方を教えてくれたメイド長。
「さぁ、好きな人のお話をしましょう」
オスカー様との生活をそのまま話したら、口元を押さえて赤面されてしまった。恥ずかしいやら……た、爛れたやら……ちょっとそこまで言われるほどなのだろうか。私にとっての夫婦像がお父ちゃんとお母ちゃんだから、わからない。
「うぃ、うぃる様も、もしかして、ほんとうは……わたくしが、子供だから……?」
「え?」
どうやら王女様はこの国に換算するとまだ十八歳らしく、侯爵とは一回りほど年が違うことが判明した。なんとなく侯爵の頭をはたきたくなった。
「違います、我慢させているのではなく、向こうが王女様を大切にしたいだけです」
「たいせつに……」
「そうですよ」
元々プレゼントや接し方に迷っていたのは知っているし、そうでなければ蹴り倒すのみ。
ひとしきり話を聞くと、撫でたり手を握ったりなどの触れ合いしかないようで一安心した。確かに怖いけどもっと一緒にいたいとかいう話は、後で教えて差し上げよう。
もうすっかり日が落ちてきて、王女様の心の負担も考えてそろそろお暇しようとした時。
「あのね、王女様は怖いから、サーラと呼んで」
と、お願いするように上目遣いで言われて、密かに拳を握りしめて喜んだ。
「良いのですか?」
「あなたはどこか、ウィル様に似ているから」
気を許してくれたのは嬉しいけど、人でなしと似ていると言われるとモヤつくものは、ある。なんとなく遠くを見た。




