17. サロンに行きました
「では、行って参ります」
「うん。毒や暗殺には気をつけてくれよ〜」
「そんなにこやかに言うことではないのですけども」
いよいよ、サロンの招待状が来てしまった。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
刺してくるような視線。マナーは体に叩き込んだし、間違えるとは思わないけれど、これは粗相してはいけない。ガゼボの中で優雅なガーデンパーティ。その腹の内は、さっさと吐け、でなければ殺す。なんて恐ろしい。おかげで紅茶を口元に運んでも、カップの中身は一滴も減らない。
……そろそろ、頃合いか。
「皆様お察しの通り、私は元は平民です」
静かに告げれば、扇子の裏でヒソヒソと聞こえてくる。静かな村で育ちましたから、耳が良くてですね、丸聞こえです。虐めようとする前に、続きを聞いてください。
「幼馴染に婚約破棄され、商人に婚約破棄され、騎士様に婚約破棄されて、今は侯爵と婚約を結んでおります」
ピタリ。ある人はティーカップを持ったまま、お菓子を口に運ぼうとしたまま、扇子を閉じかけで、固まる。理解不能、と言ったところか。私はこの隙に紅茶を飲むふりをして捨てて、リップがついたからといった程でカップの淵を拭いた。これで毒殺はないだろう。
「は?」
ワンテンポ遅れての令嬢たち。うん、予想通り。
「あ、なた、何を、仰っているの?」
「婚約破棄を三度繰り返されまして、今この場におります」
さあ、ニッコリと笑おう。あわよくば、この衝撃で後の尋問が和らぐように。
「好きな人ができたから代わりを用意した、と言われ続けまして」
至極明るく告げると、令嬢方は絶句した。蝶よ花よ、金のなる木よ、と育てられた彼女たちにはパンチが強すぎただろうか。でも、これが村娘の現実である。
「か、代わりって!?」
「代わりの婚約者ということです」
「勝手に!?」
「ええ、勝手に」
自分に決定権がある彼女たちにとっては、耐えられないことなのだろう。何もない村娘としては、代わりがない方が路頭に迷う羽目になるのだけれども。守ってくれる家族はいないから、村には帰れないし。仕事もないから街にいられないし。平民と貴族の感覚の違いというのは凄い。
「侯爵も同情したのね……」
「流石に、これは……」
うさぎの角ならぬ、侯爵の同情。
美化というのは、顔がいいだけで有効らしい。確かに物腰は柔らかだし、スマートに見えるけど、それだけの人がいるわけないのに。
「単に私が都合よかっただけです」
彼女たちが結婚したい理由って、お父様に言われてるし、美形だし、優しいし……と言ったところだろうか。だとしたらとんだ勘違い。
「後ろ盾もなく、政治的関係もなく、騎士様の婚約者だった頃にメイドとして侯爵邸を理解しておりましたから」
あの人は食えない人だ。
淑女教育をどうにか一年で終えた話を詳しく話した後には、
「お、お姉様……!」
と呼ばれていた。なんでだ。私はクリフのお姉ちゃんなんだけども。
お菓子を持っていけば美味しいと目を輝かせ、各々の好きな花の刺繍を施したハンカチをプレゼントすれば刺繍を教えて欲しいと言う彼女たちは、なんだか子供みたいで、私も絆されてしまった。
「……随分とうまくやったね」
「女性の共感性とは凄まじいものです」
「くくっ。君も女性だろう?」
と侯爵には笑われた。流石私の勘……とか言っていたけど、やっぱりか。騎士様が進んで私を売ったとは考えられなかったけども。
「味方なだけマシか……」
サロンにはしょっちゅう呼ばれるようになり、今日も明日持っていくクッキーを焼いている。侯爵家の料理長のアドバイスを受けて精進しているから、もはや菓子職人としても働ける気がする。
「うん、このくらいの焼き加減で」
「……ここにいたのか」
振り向くと、そこには王子殿下がいた。
読んでいただきありがとうございます。ブクマ、リアクションなど励みになります。
次回は今日の昼頃更新です。




