【第一章 第八話 村での異変と既視感の始まり】
誠人がしばらく村を散策していると
のんびりした空気感とは微妙に違った場所が。
誠人が畑の脇を歩くと、茎が妙に折れ曲がっている麦の列が目に入る。
「誰か…いや、これは獣の仕業か?」
しかし村人の老人は首を傾げ、何も言わない。
畑の葉先には、霜のような小さな光が瞬き、微かに白い霧が立ち込めているようにも見える。
空からは鳥たちが一斉に飛び立ち、羽音がざわめく風と混ざって不自然な音を立てた。
誠人は思わず立ち止まり、辺りを見回す。
村人たちは作業をやめ、空を見上げたり、視線をそらしたりしている。
「いったい、何が…」
遠くの祠の前でも、光が揺らぎ、石像の顔がほんの一瞬だけ微笑んだように見えた。
誠人は目を凝らし、思わず目を擦る――その顔は、どこか見覚えがある気がした。
「地蔵…いや、でもこの形じゃない。どこで見たのか……」
脳裏に浮かぶのは、日本の夏祭りの風景。だが、藁葺き屋根の家や村人の顔とも重なる気もする、現実感は次第に曖昧になる。
夜が近づくと、子供たちの笑い声が丘の向こうから響く。
しかし、一人の子が突然姿を消した。
その瞬間、風がざわめき、川の水面が揺れて奇妙な光が走った。
数分後、無事戻ってきた子供は、青白い光の中に誰かが立っていたと言う。
誠人は、自分も同じような光に導かれて歩いた記憶がある気がしてならない。
――だが、その記憶の場所も、人の顔も、はっきりしない。
小さな断片だけが脳裏に浮かぶ。
金属の匂い、砕ける声、火の熱――まるで戦場の光景のようであり、しかし場所は見覚えのある村の景色に混ざっている。
さらに、村の鐘が誰の手も触れずに鳴り響いた。
誠人にはその音が、遠い国の学校の下校チャイムのようにも聞こえる。
同時に、どこか戦場の号令のようにも感じられ、胸が高鳴った。
妖精が小さく笑いながら、からかうように言った。
「ほら、思い出してきたでしょう?」
誠人は首を傾げる。
「いや…見たことがあるような…でも、どこで?」
その言葉に、胸の奥で何かが微かにざわめき、力の気配を感じ始めた。