【第三章 第十一話 秘められた力―真の解放②】
――真っ白な世界。
音がない。
風もない。
光だけが永遠に降り注ぐ、どこまでも空虚な空間だった。
誠人はその中心に立ち尽くしていた。
「ここは……どこだ?」
声を発しても、反響はない。
虚無に吸い込まれるだけだ。
しかし次の瞬間、背後から懐かしい響きが届いた。
「……やっと来たか」
振り向いた先にいたのは、自分と同じ顔をした青年だった。
いや――厳密には、似ているようで全く違う。
彼の瞳は幾千もの戦いを超えた者のものだった。
鋭さと哀しみ、そして揺るぎない決意が宿っている。
「お前は……誰だ?」誠人は思わず問いかける。
「お前自身だよ。だが“前の世界での俺”でもある」
その言葉に、誠人の心臓がどくりと跳ねた。
ずっと心の奥底で感じていた違和感―― それが今、答えを得ようとしていた。
「前世の……俺?」
「ああ。俺は……」青年はそこで口を閉ざす。
そして言葉を慎重に紡ぐように低く告げた。
「――“マクシミル・ロアン・ゼロフィールド”」
耳に届いたその名は、確かに自分の中に刻まれていたものだった。
誠人の視界に、前世の自分の記憶が流れ込んでくる。
血煙の戦場、仲間たちの笑顔、そして魔王の冷酷な瞳。
最後の瞬間、転生の秘法で意識を断ち切った自分の姿。
「……あれが、前世の俺の最期」誠人は呟いた。
「そうだ。俺は魔王は倒した。だが俺もそこに倒れてしまった。だから転生を選んだ。記憶を封印して託した。未来で再び立ち上がれるように」
「でも……俺はただの日本人として生きてきた。前世なんて知らずに、普通に……」
「それでいい。封印していたからこそ、お前は“佐竹誠人”として積み上げてきた。経験も、痛みも、喜びも……その全てが俺にはなかった力だ」
前世の“彼”は微笑んだ。
「お前は俺ではない。だが、俺の続きでもある」
誠人の胸に熱が走った。
それは理解ではなく、確信だった。
今まで繋がらなかった二つの自分――前世と現世が重なり合い、一つの輪郭を描き始めている。
「……俺に、何をしろっていうんだ?」
「立ち上がれ。ここからが本当の始まりだ。俺とお前、二つの人生を重ねた存在として」
青年は一歩、誠人に近づく。
その瞳は炎のように燃えていた。
「その力の名を……『マコト・ゼロ・カリギュレーション』としろ。
ゼロから調律し直し、全てを再構築する力だ。お前にしかできない」
その瞬間、白の世界に亀裂が走った。
光が奔流となって誠人を呑み込み、体の隅々にまで熱と衝撃が走る。
「うあああああああっ!!!」
叫びと共に、意識は現実へと引き戻され――
気がつけば、誠人は城壁の上で膝をついていた。
だが彼の体からは、以前の比ではない魔力が噴き出している。
周囲の空気が震え、石畳がひび割れる。
「……誠人」
リルの声が震えていた。
彼女の視線には恐怖ではなく、圧倒的な畏怖と――喜びがあった。
「ついに……目覚めたのね」
誠人は肩で息をしながら顔を上げた。
その瞳は蒼く燃え、今までの”佐竹誠人”ではない輝きを宿していた。
「俺は……佐竹誠人........いや....」彼は息を整え、低く告げる。
「俺は――“マクシミル・ロアン・ゼルフィード”だ!!!」
その名を告げた瞬間、戦場全体の魔力の流れが一変した。
敵も味方も息を呑み、見えない力が全てを支配する。
リルが一歩近づき、静かに微笑む。
「お帰り、ロアン」
誠人――いや、ロアンはその言葉を聞いた瞬間、胸の奥から込み上げるものを抑えきれず、小さく笑った。
「ただいま、リル」
そして彼の背後に、眩い光の翼が広がった。
それは戦場の空を切り裂き、絶望を希望に塗り替える象徴だった。
新たな力――“マコト・ゼロ・カリギュレーション”。
それは誠人が前世と現世、二つの人生を重ねた末に辿り着いた、唯一無二のバグじみた力の誕生だった。




