【第三章 第八話 軍団長 続々と戦場へ】
城壁の上から戦場を見下ろす誠人とリルの視界には、果てしなく押し寄せる魔王軍の大群が広がっていた。
鋼殻騎士団と蒼焔会が前線を支え、兵たちの士気はかろうじて回復していたものの、圧倒的な魔力と数で押し寄せる魔王軍に、防衛線は依然として波打っている。
前線の歩兵は疲労の色を隠せず、飛行型の魔物が旋回し、獣型が突進するたび、兵士たちの足元が乱れる。
「……数が多いな」
誠人は前線を埋め尽くす魔物の群れを見つめ、息を詰める。
まるで終わりのない波のように、敵は押し寄せ、城下の土地を覆い尽くさんとする勢いだった。
「まだ崩れてはいないわ。前線は押され気味でも、兵たちは粘っている」
リルは冷静に告げる。
「ここで不用意に参戦すれば、軍団の作戦が乱れる。私たちはまだ、観察する段階よ」
誠人は拳を握り、深く息を吸う。
兵たちが踏ん張る力の源――五大軍団長たちの力を信じるのだ。
機巧連盟
戦場の一角に、金属音と蒸気の唸りが響き渡る。
巨大な機構の存在が、戦線の後方から前線へと迫ってくる。
『機巧連盟軍団長イグナーツ・クロイツ。』
片眼鏡の奥で光る瞳は鋭く、義手には複雑な魔導機械が組み込まれている
鋼鉄の鎧に蒸気管が絡み、歯車とピストンが連動して膨大な火力を支える。
まるで戦場を歩く砲台のような存在だ。
「各砲門、作動! 圧縮蒸気、開放!」
彼の号令と同時に、砲門から轟音が響き渡る。
圧縮蒸気と魔力弾が敵歩兵中隊を直撃し、吹き飛んだ魔物の群れが地面を叩き、衝撃波が前線の兵士たちに伝わる。
士気は押され気味から再び昂ぶり、前線に緊張と秩序が戻る。
さらにイグナーツは手元の操作盤を操り、歯車仕掛けの兵器人形を戦場に放つ。
鋼の腕が魔物を叩き潰し、蒸気と魔力の爆発が連鎖して周囲の敵を巻き込む。
後衛の蒼焔会の魔術師たちも、この砲火の背に隠れて戦いやすくなる。
戦場は一気に戦術の主軸が移動し、敵の連携は乱れ始めた。
誠人は目を丸くする。
「まるで工房そのものが戦場に来ているようだ……」
リルは静かに頷く。
「機巧連盟の真価は、戦場を“歩く工房”に変えること。前線を守るだけでなく、後衛の攻撃支援まで担う。兵士たちの負担は格段に減るはずよ」
イグナーツは砲撃と兵器人形の連携を巧みに調整し、魔物の攻撃ルートを次々に封鎖する。
その動きは計算し尽くされ、戦場の混沌を整理するように整然と進む。
兵士たちは彼の背中を見ながら前進し、戦列は押されながらも崩れずに持ちこたえていた。
影葬衆
城壁の陰から、音もなく黒衣の影が滑り出す。
長身の青年、『影葬衆軍団長クロウ・ナイトレイヴン』
漆黒の外套に仮面をつけ、両手には光を吸い込む漆黒の短剣を携える。
低く抑揚のない声で、静かに囁いた。
「騒がしいのは好みじゃないが……舞台は整ったようだ」
その瞬間、クロウは消え、敵陣の中央に忽然と出現する。
短剣が閃き、魔物の首が次々に宙を舞う。
跳躍し、回転し、瞬間移動のように戦場を駆けるその姿は、人間の動きとは思えぬ俊敏さだった。
仲間の暗殺者たちも散開し、煙幕や幻術で敵陣を混乱させる。
指揮系統を失った魔王軍の中隊は瞬く間に統制を失い、押され気味だった前線は少しずつ安定していく。
誠人は息を詰める。
「……人間なのか、あれ」
リルが冷静に説明する。
「影葬衆は“影の死神”。正面戦力よりも、敵の士気や指揮系統を崩すのが得意よ」
クロウは単に敵将を狙うだけでなく、戦場の死角を把握して仲間の暗殺者を誘導する。
数秒ごとに戦況が変わり、敵陣の混乱は瞬く間に広がる。
誠人は戦場を凝視し、クロウの冷酷さと計算高さに圧倒される。
翠風団
戦場の空気が緑に揺れ、森の香りが混じる。
長弓を携えた獣人族の女性。
『翠風団軍団長リオナ・ウィンドフェザー』が現れた。
笛の音が風に乗り、狼、鷹、熊といった獣たちが戦場に駆け出す。
弓から放たれる矢は空から降り注ぎ、地上では獣たちが敵の進軍ルートを次々に攪乱する。
「風よ、我らと共に!」
リオナの声が戦場を駆け抜ける。
疾風が巻き起こり、魔物たちは翻弄される。
空と地の連動した攻撃は、前線の兵士たちに戦術的余裕を与え、押されていた前線は次第に持ち直していった。
誠人は目を細める。
「……この力があるから、都市に憩いの空気感が生まれるのか」
リルは微かに微笑む。
「戦うだけじゃない。生かすための戦い――翠風団の誇りよ」
リオナは獣たちと共に、敵の隙間を見逃さずに攻撃を加える。
森のように展開する戦場の緑の中で、敵は目まぐるしく追い回され、戦線の安定は徐々に兵士たちの意識の中にも浸透していった。
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