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【第三章 第七話 軍団長 戦場に現る】

城壁の上、午後の光が戦場に斜めに射し込む中、誠人とリルは石の手すりに手をかけて見下ろしていた。

眼下では、魔王軍の先遣隊の歩兵型や飛行型部隊が押し寄せていた。

矢が空を裂き、槍が振るわれ、魔術の閃光が火花のように散った。

地鳴りのような咆哮とともに、前線の兵士たちは必死に防衛線を支えていた。


だが、数の優位は明らかだ。

押し寄せる敵の波は、僅かずつ前線を削っていく。

誠人は拳を握りしめる。

胸の奥がざわつく――しかし隣のリルは冷静に彼の肩に手を置いた。


「まだよ、誠人。兵たちは崩れていない。ここで私たちが前に出れば、軍団全体の均衡を乱すことになるわ」


「……わかってる」


誠人は答えながらも、胸の昂ぶりを抑えきれなかった。

あの数を前にしてなお、整然と戦う兵たち。

その背後に立つ、街を支える柱たちが現れるのを、誰もが待っている。


その時、重々しい号令が戦場に響いた。

石造りの城壁の下、魔物たちの喧騒をかき消すように、鋼の巨壁が前線へと歩み出る。


鋼殻騎士団アイギス・オブ・ダスク


前線の視界が一変した。

城門を背にして現れたのは、巨大な黒銀の甲冑に身を包んだ男――

『鋼殻騎士団軍団長ガウェイン・ドレイクハート』

銀灰色の髭を蓄え、肩幅の広い壮年の体躯は圧倒的な存在感を放つ。

背には大盾を二枚背負い、右手には長剣を携えている。

歩みは重く、それでいて戦場の軌道を完全に支配するかのような安定感があった。


「恐れるな! 我ら鋼殻騎士団が前線を守る! 進め、ファルザリアの勇士たちよ!」


彼の声は雷鳴のごとく戦場に響き、兵士たちの士気が一気に高まる。

剛毅そのものの姿に、魔物たちも一瞬、押し戻されるかのように揺れた。


誠人は目を細める。


「……なんという鉄壁感。まさに動く城壁だ」


リルは小さく息をつき、観察する。


「防御に特化した存在ほど戦線を安定させられる。単に攻撃力が高いだけでは、これほどの安心感は生まれないわ」


ガウェインは歩を進め、盾を地面に叩きつけると、周囲に強大な衝撃波が広がり、直前まで押し寄せていた敵歩兵隊を吹き飛ばした。その圧力に押され、魔物たちは列を乱し、防衛線は瞬間的に持ち直す。


「剣も、盾も……この巨体で扱えるのか?」


誠人は目を見張る。

敵が突撃するたび、大剣を振るい、盾で受け止める。

打撃の衝撃は戦場の地面を震わせ、幾重もの魔物が一斉に跳ね飛ばされる。


「前線の兵たちが守られているのが、よくわかるわね」

リルは言葉少なに続けた。

「鋼殻騎士団は、ただ攻撃するのではなく、味方を守る“動く壁”なのね」


ガウェインはさらに歩を進め、盾を大地に突き立てると、衝撃波が地面を這い、敵の突撃を寸断する。

剣を振るえば、間合いに入った魔物たちは一掃される。

彼の動きはまるで戦場全体を操っているかのようで、兵士たちはその背中を頼りに陣形を維持できた。


「……圧倒的だな。俺がここに加わったら、むしろ邪魔になりそうだ」誠人は苦笑する。


リルは横目で見つめ、「戦況を見極めるのも重要よ。今は学ぶ時間」と静かに諫める。


蒼焔会ブルーフレイム


ガウェインの前線安定に続き、後方から蒼青のローブを纏った女性が現れた。

『蒼焔会軍団長セラフィナ・ルーメン』

蒼炎が杖先で踊り、銀糸の刺繍が戦場の光を反射する。

蒼い瞳は冷静に戦況を捉え、周囲の魔術師たちに指示を出す。


「燃えよ、熾焔。凍てよ、峻氷。二律の大賢に従え!」


杖を掲げると、炎と氷が絡み合う魔法陣が前方に展開される。

灼熱と極寒が同時に生まれ、魔物たちは焼き尽くされ、凍てつき、粉砕される。

前線はガウェインの盾と相まって、魔王軍の進撃が鈍化した。


誠人は息を呑む。

「……詠唱をほぼ破棄して、あの規模の魔法を出すのか」


リルは説明する。

「二つの属性を同時に操るのは極めて稀有な才能よ。蒼焔会の魔術は、単体の力よりも戦線全体を制御する支援力が圧倒的なの」


セラフィナは杖を振るい、広範囲に渡る魔法弾を前方に放つ。

魔物の群れは逃げ場を失い、焼き裂かれた者は吹き飛ばされる。

氷槍が突き出され、敵の重装隊は凍結で足止めされ、前線の兵士たちの安全に戦えるスペースを確保していった。


「……なるほど。前線の安定と攻撃力の両立か」

誠人は感嘆する。


リルは頷く。

「二律の大賢――それが蒼焔会のリーダー。前線と後方を繋ぐ存在ね。鋼殻騎士団が物理的な盾なら、彼女は魔法で戦場全体を守る盾と言えるわ」


戦場は徐々に静寂を取り戻すかのように見えた。

魔物の波は止まり、押し込まれていた歩兵たちが再び前進できるようになった。

だが、誠人の視界の奥には、まだ動かぬ黒い影が揺れている。


「……あれが本陣か」

誠人が呟く。


リルは唇を引き結ぶ。

「四天将たちは、まだ遠く。私たちは今、観察者でいるべき段階よ」


二人は城壁から視線を動かさず、次なる展開を見極める。

前線は安定し、鋼殻騎士団と蒼焔会が戦況を引き寄せている。

しかし、真の嵐――魔王軍本体と四天将――は、まだ動き出していないのだ。

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