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【第三章 第六話 軍団都市騒乱②】

南門の上から見下ろすと、黒い波が地を覆っていた。

魔王軍の先遣隊――人型の鬼兵や、牙を剥いた獣魔たちが鬨の声を上げ、土煙を巻き上げて迫ってくる。


「――来るぞ!」

鋼殻騎士団が盾を構え、槍を前へと突き出す。

重厚な鉄壁が一列に並び、陽光を反射して眩く光った。


第一陣、矢が放たれる。

数百の矢が空を覆い、降り注いだ黒い雨が敵の先頭を削る。

倒れ伏す魔物に足を取られながらも、後続は止まらない。


だがその直後、騎士団の重盾が一斉に突き出され、衝突の衝撃を受け止めた。


「押し返せぇッ!」


掛け声と共に槍の列が突き出され、前列の鬼兵がまとめて串刺しにされる。


――鋼殻騎士団。堅牢なる盾と槍の波。軍団都市の表玄関を守る守護者。



続いて城壁上から魔術師団の詠唱が響いた。


「――〈雷槌の奔流〉!」


閃光が走り、轟音と共に前列の魔物を薙ぎ払う。

焼け焦げた臭いが風に乗り、叫び声が散った。


さらに別の詠唱が重なり、火柱や氷槍が次々と突き刺さる。

炎に包まれた獣がのたうち、氷に貫かれた鬼兵が倒れる。

精密に区画を焼き払い、騎士団の防壁に近づけさせない。


――蒼焔会。知識と術式の粋を尽くし、空から鉄槌を下す者たち。



別の区画では、蒸気の噴き出す音と共に巨大な弩砲が放たれた。

職人工房の兵器だ。

金属の矢が唸りを上げ、巨躯の獣を貫いて土煙を巻き上げる。

歯車仕掛けの投石器が石弾を飛ばし、敵陣に亀裂を刻んだ。


彼らは前線には出ず、背後から確実に数を減らす。

工具を握る手は震えず、彼らにとって戦場は「巨大な作業場」の延長にすぎなかった。


――機巧連盟。火と技術を武器に変える者たち。



市街地では別の影が動いていた。

裏通りを駆ける黒装束。

人々を誘導し、恐慌に陥った群衆を冷徹に整列させていく。

時折、潜り込んだ小型の魔物が市街に紛れ込むが、闇から伸びた刃が一瞬で首を刎ねていた。


――影葬衆。表に出ぬまま、裏から都市を支える影。



「……すごい」

誠人は南門の上から、広がる光景を呆然と見下ろした。


数に勝る魔王軍が押し寄せるたび、軍団がそれぞれの役割を果たし、完璧に押し返している。

騎士団が壁を作り、魔術師が焼き払い、工房が砲撃を加え、影葬衆が市街を守る。

歯車のように噛み合い、都市全体が一つの兵器と化していた。


誠人の胸は熱くなる。

――これが軍団都市。

前世のどんなゲームでも見たことのない、本物の総力戦だ。


彼は無意識に手を握りしめた。掌に光が集まり、戦場へ飛び出そうと体が前に出る。


「待って」


リルの手が腕を掴んだ。

彼女の瞳は戦場を射抜きながら、強い声で告げる。


「今はまだ出るときじゃないわ。見て。軍団は優勢よ」


「でも、このままじゃ……!」

「違うの。これは始まりにすぎない。先遣隊や前衛を倒しても、本隊はまだ来ていないの」


リルの言葉に、誠人は息を呑む。

確かに、黒い波は次々と押し寄せるが、それは都市の防衛で十分に処理できている。

まだ軍団長たちすら戦場に立っていない。


「……俺が出るべき時は、必ず来る」

「そう。だから焦らないで」


二人は言葉を交わしながらも視線を戦場に戻した。



戦はなおも続く。

槍が突き、炎が燃え、石弾が飛ぶ。

魔王軍の咆哮と人々の掛け声が入り混じり、南門前は修羅場と化していた。


だが、城壁の上にはまだ余裕があった。

軍団の規律は乱れず、兵たちは恐怖を押さえて陣を保っている。


それは――本隊が現れるまでの、短い安息のような優勢だった。


誠人はその光景を目に焼き付けながら、拳を握りしめる。

胸の奥で何かがざわめいているのを感じながらも、まだ動くことはできない。


リルの声が耳元で囁く。

「……戦乱は、今ようやく始まったばかりよ」


そしてその言葉の通り、遠い地平線の向こうに――まだ全容を見せぬ魔王軍本隊と“四天将”が控えているのだった。

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