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【第三章 第五話 軍団都市とは】

朝の探索を終えた誠人とリルは、宿屋の食堂に腰を下ろしていた。

窓から射す午後の光がテーブルを照らし、賑わう通りの音が遠くに響く。

木製の机の上には、宿の娘が運んできたパンとスープが湯気を立てていた。


「ふぅ……やっぱり歩き回ると腹が減るな」


誠人が匙を口に運ぶと、リルは本を開いたまま頷いた。

市場で手に入れた簡易な地誌――軍団都市ファルザリアの歴史が記された書物だ。


「どうやら、この街の始まりは《大崩壊》つまり前世の誠人たちが魔王と戦った直後みたいね。魔王軍の侵攻に耐えるために、各地の生存者がここに集まったのがきっかけだと」


「なるほど……だから軍団ごとに特色が分かれてるのか」


誠人は頷きながら、パンをちぎる。

リルは指先でページをなぞりながら続けた。


「もともとは一つの国家ではなく、避難民が自分たちの得意分野を持ち寄って協力しだして。騎士たちは防衛を、魔術師たちは知識を、職人は技術を、影の者たちは裏から治安を……そして自然を敬う者たちは物資の供給を。互いが互いを必要とする関係が、この都市を支えているのよ」


誠人は窓の外に視線を投げた。

街路を行き交う人々――鎧を着た兵士、魔導書を抱えた学徒、油で汚れた手の職人、路地裏をすり抜ける影のような人影、そして荷車を押す獣人の商人。

その全てが、街を一つの生命体のように動かしている。


「前世の世界でいえば……なんだろうな。都市国家が同盟を結んでる、みたいな感じか」


「でも完全に平和ってわけじゃないわ」

リルが声を落とす。

「均衡を保つために中立区域を設けて、互いのエリアを侵さないようにしている。だからこそ、この街は『軍団都市』と呼ばれているの」


誠人は思わず笑みを浮かべた。

「なんだかゲームの設定資料集を読んでる気分だな」


「ふふっ。でも油断しちゃだめよ。――ここ、過去に何度も魔王軍に狙われているわ」


リルの言葉に、誠人の表情が引き締まる。

「やっぱり、そうか」


彼女は書物の後半をめくり、古びた記録を読み上げた。


「十年前、魔王軍の大規模な進軍があったらしいわ。軍団都市はそのとき、協力して撃退したけれど……街の南側はほとんど焼け落ちたって」


「その跡地が……今の影葬衆の裏市場になってるのかもしれないな」


誠人の脳裏に、昼間に歩いたあの区域の風景が蘇る。

表向きは静かでも、どこか荒んだ匂いが漂っていた。


「そして――」

リルはさらに指を滑らせ、声を落とす。

「記録には “魔王四天将” の存在がちらりと触れられているの。人智を超えた怪物で、各軍団の団長が束になっても敵わなかった、と」


誠人は眉を寄せる。

「四天将……か。ゲームや物語じゃ定番の肩書きだな。だけど、現実に現れたら笑えない」


スープの熱が冷めていくのを忘れ、彼は思考に沈んだ。

魔王軍の襲撃。四天将。前世の記憶を抱えた自分の立ち位置。

それらが頭の中で絡まり合い、不穏な未来像を結んでいく。


「……でも、それを退けたのも事実なんだろ?」


「ええ。軍団が一致団結して。けれど勝利の代償は大きかった。だからこそ今もこの都市は、均衡を守ることを最優先にしているの」


リルの言葉は静かだったが、その奥には緊張が漂っていた。

誠人は拳を握りしめる。


「なら、俺たちがここに来たのも……無関係じゃないのかもな」


「そうかもしれないわね」


二人は互いに視線を交わした。

そのとき、外から鐘の音が響いた。遠くの広場で鳴らされる警鐘――低く、不吉な響き。


「……何だ?」

誠人は窓を開け放った。

街の人々がざわめき、通りを駆ける兵士の姿が見えた。

鋼殻騎士団の鎧が光を反射し、慌ただしく部隊が編成されていく。


リルが窓辺に駆け寄り、顔を強張らせる。

「……南門の方角ね」


「まさか――」


誠人は言葉を飲み込んだ。

だが胸の奥に、嫌な確信が芽生えていた。

これはただの警鐘じゃない。

近づきつつある大きな波――魔王軍の影だ。


彼の手のひらに、無意識に光が集まった。

リルもまた杖を握りしめる。

街を巡ったばかりの二人に、否応なく次の試練が迫っていた。

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