【第三章 第四話 軍団都市ファルザリア】
朝の光が街を染める中、誠人とリルは宿屋の扉を開け、石畳の通りへと足を踏み出した。
目の前に広がる中立エリア――市場や商店街、旅人向けの宿屋が集まる通りが続いている。
朝の人々は忙しなく動き、露店の呼び声が響いていた。
鼻をくすぐるパンや焙煎豆の香りが漂い、街全体に活気が満ちている。
「軍団都市と言われるファルザリア……か」
誠人は宿屋に置かれていた街のパンフレットのようなものを手に取り辺りを見渡し、自然と声が漏れた。
前世での記憶と重なるヨーロッパ風の石造りや木造の建物、屋根の傾斜や街灯の形状が、どこか懐かしくも新鮮に映る。
「まずは市場を見てみましょう。情報は自然に集まるわ」
リルが示す通りに沿って歩きながら、誠人は目を細める。
露店には色とりどりの野菜や果物、魔導具、機巧の小物が並び、通行人は慌ただしくも穏やかに買い物を楽しんでいた。
彼の頭には、日本で見た物語やゲームの中で触れた都市の光景が次々に甦る。
「向こうの通りは、機巧連盟の品が多いみたいね」
リルの声に導かれ、誠人は露店の奥を覗き込む。
小型の発明品や歯車の組み合わせた装置が、自律して路上を動いている。
軽やかに跳ね回るその姿に、誠人はふと知識が閃く感覚を覚えた。
「ここで、何か応用できそうな……」
誠人の目が光を帯びる。
今の力と前世の記憶が微かに混ざり合い、新しい魔法や技術のイメージが頭に浮かぶ。
リルが横目で見て、微笑む。
「また何か閃いたの?」
「……ああ、少しね」
誠人は軽く肩をすくめ、思考を巡らせる。
街の文化や軍団の特色を見ながら、力の応用の可能性を探るのが楽しかった。
市場を抜け、広場を回ると鋼殻騎士団≪アイギス・オブ・ダスク≫の城塞が見えた。
石造りの建物は威容を誇り、整然とした訓練場では鎧を纏った兵士たちが槍や剣を振るっている。
巡回する兵士の姿が街の秩序を象徴し、通行人も礼を交わす。
「軍事力で支配しているエリアね」
リルが説明する。
昼間の街並みからでも、規律正しい空気が漂っているのが感じられる。
「前世で見た騎士団の町並みに似ている……でも、ここはより現実的で実用的だな」
誠人は建物や訓練の光景を目で追いながら、過去の知識と今の世界を重ねる。
次に向かったのは塔の並ぶ区画、蒼焔会≪ブルーフレイム≫の学術区だ。
塔の間を研究者が行き交い、屋上からは青白い光が漏れる。
露店では書物や魔導具、呪符のような小物が売られ、魔力の気配が街の中に漂っていた。
「ここは魔法文化の中心ね」
リルの観察に、誠人も頷く。
手のひらに微かに光を集め、塔の上から漏れる魔力の粒を感じ取る。
前世で学んだ魔法理論や小説で知った呪文の響きが、今の世界で自然に結びつく感覚だ。
「……なるほど。応用次第で、いろんな魔法形態が試せそうだな」
誠人は軽く笑みを浮かべる。
街の文化や発明品を目にするたび、前世の知識と転生後の力の融合を思わず試したくなる。
市場を進むと、煙突の立ち並ぶ工房街が現れた。
機巧連盟≪クロックワーク・リーグ≫の区画だ。
.金属音や歯車の回転音が絶え間なく響き、路地では小型の発明品が自律して動き回る。
職人たちは熱心に金属加工や機械の調整を行い、通行人も注意深く歩く。
「街の各エリアがそれぞれ特色を持っている……面白い構造ね」
リルが肩を叩き、誠人の反応を伺う。
「均衡がとれているからこそ、軍団間の対立よりも文化交流の方が前面に出ているんだろうな」
昼を過ぎ、影葬衆≪シャドウ・レクイエム≫の区域に足を踏み入れる。
昼間は静かだが、路地には酒場や裏市場の看板が見え、夜になれば活気づくことが容易に想像できる。
人目を避けるような者たちも多く、独特の空気が漂っていた。
「夜の顔はまた別なのね」
リルがつぶやく。
誠人も周囲を観察しながら、軍団の文化や統治の形に思いを巡らせる。
この街の均衡は、暗黙のルールと特色の違いで成り立っているのだ。
最後に訪れたのは翠風団≪グリーンゲイル≫の森の区画。
木造の家々は樹木と融合し、渡り廊下や小橋が点在する。
獣や精霊と共に暮らす住人たちが目に入り、自然との共生文化が色濃く残っていた。
「街の中に森の中の小さな王国があるようね……」
リルが呟き、誠人も頷く。
前世で読んだ物語の中の森の文化が、現実としてここにあるかのようだ。
街を巡り終え、二人は夕暮れの中立エリアへ戻る。
石畳の通りに灯る街灯が、昼間とは異なる温かみのある光を投げかける。
宿屋の窓からは、明かりに照らされた宿の看板や通行人の影が見えた。
「調べることが山ほどあるな」
誠人は窓際に座り、手のひらに微かに光を集めて今日の観察を振り返る。
「ええ、でも楽しみね」
リルが笑みを浮かべ、肩をすくめる。
二人の目には、街の多様な文化や軍団の特色、前世の世界の痕跡が交錯し、未来への期待が映っていた。
誠人は静かに息をつき、窓の外に広がる街の灯りを眺める。
明日以降は、それぞれの軍団について深く調べ、街の均衡や文化、前世の記憶とのつながりをさらに掘り下げていく――そんな予感に胸が高鳴った。




