【第二章 第十話 力の融合と進化】
村は、いつも通り静かで柔らかな陽光が麦畑を照らしていた。
だが、誠人の目には、ただののどかな光景ではなく、異質な気配が映っていた。
茎が折れ曲がった麦の列、夜の祠から漂う微かな光の粒。
普段の村の景色では見たことがない、微かな“ズレ”
それは確かに、何かの痕跡だった。
「リル、あの祠の周り、もう一度詳しく見に行こう」
小さな羽音を立てて飛ぶリルは、くすくすと笑う。
「朝から真面目ね。でもいいわ、付き合うわよ」
彼女は前世からの相棒で、世界最高峰の魔法使い。
誠人の師匠でもあり、時には厳しく、時にはいたずらっぽく彼を導いた存在だ。
妖精の姿をしているが、瞳の奥にある知性と力は昔のままだ。
二人が祠に近づくと、草の間に浮かぶ微かな光の粒が揺れ、地面には古代符号の断片が散らばっていた。
前世で何度も目にした光景だ。しかし今回は明らかに違う。
誠人の体内の魔力が、まるで呼応するかのように揺らぎ、微細な震動を生んでいた。
「……前世の残滓にしては、妙に力があるな」
リルは跳ねるように喜ぶ。
「それは、あなたの力が強くなってる証拠よ。あなたの中で力の融合・制御が進めば進むほど反応は強くなっていくわ。」
誠人は手を伸ばし、祠の石の一片を宙に浮かせてみる。
小さな石は光を帯び、意思を持ったかのように宙を漂った。
前世の頃なら慎重に使っていた魔力だが、今はそんなに気にせずとも扱える。
「想像以上だ……」
リルは嬉しそうに拍手する。
「これがあなたの新しい力よ。前世の記憶に触れるほど、力は融合して進化する。純粋な魔力の塊が、あなた自身の意志で形を変えていくのよ」
誠人は深呼吸し、体内の魔力を感じる。
前世の経験、転生後の蓄積、そしてこの村の痕跡
――すべてが重なり、複雑な旋律のように彼の魔力を揺さぶった。
まるで魔力そのものが、自ら意思を持って進化しているかのようだった。
「これは……制御できるのか?」
リルは軽く肩をすくめ、笑った。
「大丈夫。あなたの体は自然と対応する。焦らなくていいわ。まずは感覚を掴むこと。魔力の渦を見つめて、流れを感じるの」
誠人は静かに目を閉じ、魔力の流れに意識を集中する。
光の粒が手のひらに集まり、熱を帯びた。
風が軽く渦を巻き、土の香りと混ざる。
それは自然の力ではなく、確かに彼自身から生まれるものだった。
「……感じる。力が、融合している」
リルは頷く。
「そうよ。前世の知識や戦闘経験の記憶が触媒になって、魔力が進化していくの。あなたが今ここにいるから、ここまで成長できたのよ」
祠の周囲をさらに探索するうち、誠人は微細な魔力の残滓をいくつも発見した。
古代符号や光の粒が、前世の戦いの名残を示している。
それらに触れるたび、彼の中の魔力は小さな波紋を生み、徐々に収束していく。
まるで前世と今の力が、自然と一つに溶け込むようだった。
「リル、これが俺の力……前世の力と今の力が、融合してる」
リルは目を輝かせる。
「そう、それがあなたの新しい魔力。強大で純粋で、神聖なものに近いわ。だけど、まだ序章よ」
日が傾き、長い影が村を包むころ、誠人は祠の前に立ち、空を見上げた。
赤く染まる夕空の向こう、遠くに見えるのはまだ魔王ではない。
しかし、前世の痕跡や記憶に触れることで、次第にその存在感が迫ってくるのを、誠人は感じていた。
「リル、これからどうする?」
リルは微笑みながら、風に揺れる羽根を広げた。
「まずは、あなたが完全にこの力を理解すること。それから、前世の痕跡を辿る旅が始まる。ここからが本当の冒険よ」
誠人は拳を握りしめる。前世の経験と、転生後に蓄えられた新たな魔力。
すべてが自分のものになった今、彼の旅路は確かな一歩を踏み出す準備ができていた。




