【第二章 第九話 前世の痕跡と覚醒の兆し】
誠人は小道を歩きながら、昨夜の森での小事件の後片付けを終えた村人たちの姿を見回していた。
昨日までの異変で少し騒がしかった村も、今日の朝には普段の静けさを取り戻している。
「おはよう、佐竹さん!」小さな声で呼ぶ子どもたちに、誠人は自然に手を振る。
自分でも驚くほど、村人との会話はスムーズだった。
チート能力で異世界に溶け込む自分に、どこか違和感を覚えつつも、それを楽しむ余裕もあった。
リルは肩で跳ねながら、ふわふわと光をちらつかせる。
「あなた、本当に村人と普通に会話してるわね。まあ、これも力のひとつだけど」
「……いいじゃないか。こういう平穏も、悪くないし」
誠人は笑みを浮かべる。
村の景色を見渡すと、昨日まで森で戦った魔獣の影もなく、子どもたちの声だけが風に揺れていた。
しかし、誠人の心は穏やかではなかった。
村の外れにある小高い丘、その向こうに広がる森や古い廃墟に、前世の痕跡がまだ残っている気がしたのだ。
「今日は、少し探索してみようか」
誠人はリルに声をかける。
リルは目を輝かせ、肩越しに顔を寄せた。
「ふふ、やっと私の出番ね」
森に入ると、昨日の霧は消え、日差しが木漏れ日となって地面に差し込んでいる。
枯れ葉を踏む音、遠くで鳥が鳴く声が、平穏の中に小さな緊張を与えていた。
誠人は体内の魔法エネルギーを感知する。
小さな光が指先に集まり、霧や影に潜む異常を即座に察知する。
森の奥、かつての戦場跡と見紛うほどの廃墟に辿り着いた。
石でできた古い建造物の一部が崩れ、苔むした壁面には奇妙な紋様が浮かんでいる。
誠人の胸中に、かすかな既視感が走った。
「……この形……見覚えがある」
リルも光を振りかざし、壁面の紋様をなぞる。
「これは、あなたが前世で戦ったときの痕跡よ。私たちの過去の、ほんの一部」
「過去の……俺たち……?」誠人は自分の記憶が遠く揺れるのを感じた。
石の柱に手を触れると、かすかな魔力の残滓が指先に伝わった。
それは戦闘時のエネルギーの残り香のようなもので、体内の魔力感覚が敏感な誠人にははっきりと感じられる。
「なるほど……これが、俺の前世の痕跡か」
誠人は低く呟き、自然に手に力を込める。
小石を浮かせ、軽く光の魔法でその場を探査する。
リルはくすくすと笑いながら、「前世の痕跡は見つかったわ。でも、あなた力、少し使いすぎかもよ?」
「いや、これくらいなら問題ない」
誠人は木の根を踏みしめ、周囲の魔力の残滓を吸収するように感覚を広げる。
雑魚の魔獣程度なら、もはや戦うまでもない圧倒的な力が体内に満ちていることを再確認した。
廃墟の奥、崩れた壁の影に小さな光の欠片が埋もれているのを見つけた。
前世の戦いで使用した魔法道具の欠片かもしれない。
手に取ると、淡く振動する魔力が指先に伝わった。
それを感じた誠人は、次第に過去の戦場の光景を断片的に思い出す。
戦いの音、仲間の声、そして――勝利を目前にして敗北した瞬間の感覚。
「……そうか、これが前世の俺か……」
小さく息をつき、誠人は力を込めたまま立ち尽くす。
リルは肩で跳ねながら、少しからかうように言った。
「ふふ、やっと思い出してきたみたいね。でも、まだほんの一部よ」
森の中で静かに立つ二人。
誠人の体内にはチート級の魔力が満ち、前世での経験も微かに蘇る。
リルは肩越しに顔を寄せ、光を散らして言う。
「さあ、誠人。前世の痕跡はこれからも続くわ。探しながら、あなたの力を確かめましょう」
誠人は拳を軽く握り、力を分析する。
森の奥に潜む残りの魔獣や遺跡の魔力を感じ取り、次にどこを探索するかを考える。
小さな異変の解決、前世の痕跡の発見
―それらが積み重なり、村の安全も、自分自身の覚醒も同時に進むことになる。
丘の向こうに夕陽が差し込む頃、誠人は静かに呟いた。
「……次は、この森のさらに奥か」
リルは肩で跳ねて光を散らす。
「ええ、私たちの本当の探索はこれからよ」
二人の影は長く伸び、森の静寂とともに未来への道を照らしていた。




