【第一章 第九話 前世の記憶の呼び覚まし】
誠人は立ち止まり、村の景色を改めて見渡した。
折れ曲がった麦の列、揺れる祠の石像、静かに見守る村人たち――
どれも、ほんの少しだけ、見覚えがある気がした。
「これは……初めて見るはずなのに、なぜか……」
胸の奥に、微かに温かく、そしてざわめくような感覚が広がる。
子供の笑い声や鐘の音、川面の揺らめき――それらがまるで、かつての戦場や自分の戦いの記憶と重なるように感じられた。
けれどその記憶は、ぼんやりとして輪郭を結ばない。
まるで夢の中で断片を拾い集めているようだった。
丘の上に立つ誠人の前に、妖精が現れた。
そして、静かに語りだす。
「あなたは……元々この世界の人。かつて魔王に挑んで敗れた……
その時、転生の秘法を使い、別の世界へ逃れた。
そこでは記憶を封印し、力を貯めることを優先させた。
それが、日本人……佐竹誠人よ」
言葉を聞いた瞬間、誠人の胸の奥で小さな火花が弾けた。
指先や足先にじわじわと力が広がり、眠っていた自分自身がゆっくりと目を覚ましていく。
赤黒く染まった空の端に、影が揺れる。
ちらりと見えたその形は、かつて戦った魔王のものに似ていた。
誠人は目を細め、風の匂いや土の感触、遠くの鐘の音まで、すべてを感じ取ろうとした。
一つ一つの感覚が、胸の奥でざわめく力と微妙に呼応している。
妖精は静かに囁いた。
「……目覚める時が来たのよ」
その言葉で誠人の身体の中の力が漲る。
誠人はゆっくりと拳を握りしめる。
焦ることもなく、叫ぶこともなく、ただ心を穏やかにする。
丘の向こうの影は依然として遠く、形ははっきりしない。
しかし誠人はその気配を確かに感じ、風に揺れる草や鳥の羽ばたきまで、戦いの前触れとして受け止めた。
力はまだ微かだが、確かにそこにある。
誠人の瞳は遠くの赤黒い空を見据え、覚悟を固めていた。
これで第一章が終わりとなります。
訳も分からずバタバタと駆け足で書いてしまった感は否めませんが。。。
第二章からは、少し落ち着いて書いていけたらいいなと思ってます。
引き続き、温かい目で連載を読んでいただけたら幸いです m(_ _"m)作者