表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

9話 ハイキングに行ってみる

「エド」


 ヨライネはエネスの部屋の扉を開く。すっかり綺麗になった洋室で、エドとエネスは何やら話に盛り上がっていたらしい。

 エネスは机の椅子を反対に向けて座っていて、エドは相変わらず床に座っている。


「ああヨライネさん、ちょうどよかった。今エネスさんと、文の(しるし)に使う句読点について話してたんですけど、ヨライネさんはどう思います?」

「え、句読点? 句読点が何?」


 いきなりのふっかけに戸惑うヨライネ。エネスが代わりに補足する。


「あの、えっと、句読点違いで魔術にどれくらいの影響が出るか、ということです」

「ああ意外と変わると思う。やっぱり魔術師本人に一番会うリズムみたいなものがあるから、って違う違う……帰るよエド」

「えー、わかりました」


 窓からはオレンジ色の光が差し込んでいた。

 これ以上滞在するのは流石に迷惑になる。

 エドはしぶしぶ立ち上がった。すると、エネスは慌てて椅子から降りる。


「今日は、ありがとうございました……!」


 そう言って深々と頭を下げる。

 お部屋のお片付けのことをメインに、さまざまなことに対して礼を言っているのだろう。

 ただ、


「嫌だなあエネスさん。まだ気が早いですよ」


 エドはやれやれといった調子で言う。ヨライネも、全く同じことを言おうとしていた。





 二日目。昼。

 メルースト家から歩いて30分程度のところに、その山はあった。この街はそこそこ発展しているので、街中にポツンと存在するその山は結構目立つ。

 そこまで大きな山でもないので、二人は多少の歩きやすい服装でサクッと登っている。登山と言うよりは、ハイキングと言うべきか。

 二人は動きやすいシャツを着ている。ジャケットを着ていないエドも、コートを着ていないヨライネも、なかなかレアだ。


「ヨライネさん」

「なに?」

「きついですよ」

「そっかキツイか。それって目が見えないから? それとも、体力がないから?」

「どっちもです」

「嘘つくな。後者でしょ」


 エドは体力がある方ではないので、もうかなり息を切らしている。でもエドが山登りをしたのはこれが初めてではない。

 ヨライネはエドを手伝うことはあっても、盲目を気遣うことは滅多にしない。そのため、ヨライネが「山登りするけどいい?」と言っても、エドは結構すんなり了承した。ただしその前に言われた、「星、見にいくよ」というセリフにはとても嫌そうな顔をしていた。そもそも昼だし。


「ここかな」


 中腹より少し登ったあたりで、道が開けた。『展望広場』と書かれた看板が立っており、その表示に相応しく、平らな地盤が山肌に出っ張っていた。広さは、大体ヨライネの自室十個分くらいだ。

 街の姿もかなり遠くまで見通せるし、空も広範囲を見渡すことができる。夜ならば、これほど星の観察に適した場所などそうあるまい。


「風が気持ちいいですね。いい感じに空も見えてますか?」

「うん。ばっちりだ」

「木はあります?」


 言われて、ヨライネは改めて周囲を見回した。

 山なので、当然ながら全く無いわけではない。しかし、魔術に刻まれるほど記憶に残りそうな、特別目立つ木はない。広場はまっさらな芝生と砂利だし、展望台の柵の向こう側には、背が低い木しかない。エネスの魔術に出てくる木があるならかなり邪魔に感じるだろう。反対側には大きめの木もいくつか生えていたが、それはもう木ではなく林と言うべきなので、結局記憶に残るような目立つ一本は無さそうだった。


「ないね」

「そうですか。残念。あてが外れましたね」

「あーあ、絶対あると思ったんだけどなあ」


 晴れた空に向かって伸びをしながら、ヨライネは言う。


「とりあえず、お昼食べません?」


 エドは、斜めに肩掛けしている荷物を指さした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ