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16話 手を繋ごう

「……」 ジゼは目を見開いた。 「なんのつもりですか」

「……もう逃げないでください」


 ジゼに向かって、しぼり出すようにヨライネはそう言った。


「逃げる? 私は逃げてなどいません」


 ジゼはごく普段通りの足取りで、すたすたと前へ出た。そして、ヨライネの座席とテーブルの間、すなわちヨライネの目の前に立って、座ったままの彼女を見下ろした。


「私はエネス様の従者です。エネス様が最優先でエネス様が全てです。その上で、エネス様の従者として要求をしているのです。あなたにだってわかるはずです」


 少し取り乱していたのを自覚したのか、ジゼはそこで一泊置いた。そして少しうなだれて、ヨライネにしか聞こえないくらいの小さな声で、呟いた。


「この世には、知らない方が良いこともあるではありませんか」


 その瞬間、ほんの少しだけ、しかし確かに、ヨライネは目を見開いた。

 次いで、何かに取り憑かれたように、すぐさまこう言った。


「違います、ジゼさん」


 付け加える。


「これは、違います。知らなければいけないことです」


 歯をくいしばるジゼを見上げて、さらに続ける。


「人は簡単に変化できません。どんなに逃げ続けても、逃げ切ることは絶対にできない」


 例えば性格、興味、障害、あるいは、顔。

 ヨライネは、真っ直ぐジゼを見つめ返した。

 完成された美貌を今一度目の前にして、ジゼは表情をひどく歪ませた。

 ヨライネの顔を見た人間の反応はいくつかに分けられるが、大抵は心酔するか、嫉妬するか、嫌悪するかだ。

 ジゼは最初から、ずっと()()だった。ごく単純な嫌悪。嫉妬とは全くの別物である。

 睨めば睨むほど、ジゼはその顔が嫌いだった。そんな(もの)を持ちながら、どうしてその目ができるのか。


「ジゼ」


 エネスが言った。


「もういいよ」

「エネス様……?」

「私……ずっと、わかってた」


 下を向いたままそう言った。

 それは言葉通りの意味ではなかった。

 これからわかることだが、エネスの記憶には食い違いがある。はっきりと覚えている、あるいは知っているはずのことを、彼女は昨日、わからないと言った。それは嘘をついているのとは少し違う。見るべきでないものを見ないよう心がけていた。

 「わかってた」というのはそういう意味だ。意識してしまわないよう意識していたということだ。


「だから、もういいよ」


  ジゼは錯乱した様子で、一歩、二歩と退いた。二歩目で足がテーブルにぶつかり、二人分の紅茶が波を立てる。エドはずっと手に持っていたティーカップの中身を見たが、もうほんの少ししか残っていなかったので、彼はそれを飲み干し、位置のズレたテーブルの上にカップを置いた。

 エネスが椅子から立ち上がった。ジゼのそばに立って、ジゼの手を握った。身長差があるため、まるで親子のようだったが、エネスの手はそれでも小刻みに震えていた。

 エネスはそのままヨライネを見た。


「ヨライネさん、私、」


 そして言った。今にも泣き出しそうな声で、今まで見てこなかったものを見て、言った。


「古代魔術を使用して、父を殺しました」

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