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災厄の救世主が紡ぐ異世界黙示変生  作者: ポルゼ
天才の異世界転移と災難
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三人寄れば

「メリアスさん」


 別れようとしていた世莉架とハーリアの前にメリアスが現れた。昨日の今日だが偶然の出会いであり、世莉架も驚いている。


「こんにちは。冒険者登録はできましたか?」

「なんとかできました。少しだけ気持ちが軽くなりましたよ」

「そうでしたか。良かったです」

「メリアスさんは何か依頼を受けたのですか?」

「えぇ。そこまで難しくない採取の依頼です」


 そう言ってメリアスは両手に抱える袋を少し揺らす。どうやら依頼の採取素材を手に入れて帰ってきたところのようだ。

 そんな簡単な会話をした後、メリアスはハーリアの方を見る。


「そちらの方は……」

「彼女はハーリア。学生です」


 突如現れたメリアスに驚いているハーリアだが、世莉架に紹介されてすぐに姿勢を正す。


「は、ハーリア・イザールと申します。ルインセンター学園に通っていて冒険者もやっています。実は前からメリアスさんとお話ししたいと思っていまして……」


 そこまでハーリアが話したタイミングで、メリアスが口を挟む。


「すみません、話の続きは依頼の報告を行ってからでもいいですか? ここだと落ち着きませんし、荷物も邪魔なので」

「あ、すみません!」

 

 そうして少ししてから依頼の報告と納品を終えたメリアスが戻ってきた。 

  

「お待たせしました。それで話の続きですが、まだ夕食には早いですのでその辺りにある喫茶店にでも行きませんか?」

 

 メリアスは近くの喫茶店に行くことを提案し、世莉架とハーリアは了承して三人で向かった。

 お店のテラス席で簡単に飲み物だけ頼み、ようやく落ち着くことができた。

 三人は改めて自己紹介から始め、話に花を咲かせる。ハーリアは最初は緊張の色が見えていたが、段々と打ち解けていっているようで笑顔が増えている。

 世莉架に関しては基本受け身で二人の話に相槌を打っている。


「私達、もうこんな固い口調で話さなくてもいいのでは? 年齢も近そうですし」


 すると話の途中でメリアスが堅苦しい口調を崩す提案をしてきた。


「ハーリアさんは今何年生ですか?」

「ルインセンター学園は六年制なんですけど、私は今四年生で十六歳です」

「そうなんですね」 


 つまり、地球で言うところの高校一年生である。


(システムは地球の学校と似通っているのよね。まぁ、どんな歴史があって今の学校のシステムになったのかなんて知らないし、世界は違くとも同じ人間であれば色々似るのは特段おかしくはないか)

 

 そんなことを考えていると今度は世莉架が尋ねられた。


「セリカさんは? 浮浪者のようなものと言っていましたが、学校とかは?」

「学校は通っていましたが、色々とあって故郷を出ましたから、全然学が無いんですよ。ちなみに今十八歳です」

「そうでしたか。昨日の今日なのに言語の上達が著しいですし、学が無くても能力は非常に高いのでは?」

「必死なだけですよ。それで、メリアスさんは?」

「私も訳あって今は学校には通っておらず、現在十七歳の冒険者です。見事に全員一つ違いでしたね」


 一番年下が現役の学生のハーリアで十六歳、真ん中が冒険者を中心に活動している十七歳のメリアス、一番上が異世界転移させられた地球では大学一年生だった十八歳の世莉架。皆大体同じくらいの年齢で、今口調を緩くせずとも今後仲良くなっていけば堅苦しい敬語など自然と無くなっていくことだろう。


「それじゃあ、私は普通に話させてもらうわね」

 

 最初に敬語をやめたのは世莉架だった。年齢的にも一番年上なため自然である。

 それを聞いて微笑む二人も同じく、自然に話し始めた。

 その様子はまさに女子会といった感じでとても華やかである。それに加え、全員文句の付けようのない美しさであるため、自然と周囲の視線は集まる。

 

(まるで日本の女子高生のようね。こんな風に会話することがあるなんて思わなかったけど、視線が凄いわね)


 今三人がいる店はルインで一番の大通りにある訳ではないが、冒険者協会の近くということもあってそれなりに人通りがある。


「そういえばハーリアは特例で冒険者になったということだけど、もしかして御使師?」


 メリアスが世莉架と同じ質問をする。やはり特例などと聞くと神法が優秀であったり頭脳明晰であったりするのだろうと想像できる。


「そうだね。一応、平均的に使えるくらいの……」


 またもハーリアは嘘をついたことを世莉架は見抜く。ただ言い方や目線などからメリアスもハーリアがあまり言いたく無いことであることを感じ、頷く。


「まぁ、神法については誰もが周囲に自慢して言いふらしたいものでは無いからね。私も聞かれたら答えるけど、自分からは言わないわ」

「そういえば気になっていたのだけど、戦闘神法の種類で火や水があるのは分かるけど、光と闇に関してはどういうものなの?」


 世莉架は神法の話になったところで気になっていたことを聞いてみた。火や水などは地球においても自然にあるものなので想像しやすいが、光と闇に関しては概念的なイメージが強い。それがどう戦闘に使えるのか想像が難しいのである。

 

「そうね、見てもらうのが早いかしら」


 そう言うとメリアスは手の平を上に向け、そこに小さな光の玉が生み出された。


「……!」

 

 ハーリアは平然としているが、世莉架は表情にこそ全く出ないものの、強い驚愕を覚えていた。


(これが神法……。この世界では常識のようだからそういうものなのだと頭では理解していたけど、実際に目で見ると凄いわね。原理は一切不明だけど、確かに今、何もないところから光の玉が生まれた。火や水も同様に生み出せるということだから、本当に常識がひっくり返るわ)


 地球ではフィクションでしかないような力が平然と目の前で使われている事実。ここは異世界だと何度も認識させられながら、またも世莉架はその心身にここが異世界ネイオードであることを刻まれる。

 メリアスは続けて光の玉の横に小さな炎と小さな風の渦を生み出す。複数の神法を前に、世莉架は衝撃と美しさを感じていた。


「三属性……」


 隣でハーリアがボソッと呟く。戦闘神法は基本的に一人一属性であり、複数属性使用できる者は稀であるため、メリアスは普通ではない。

 しかし、ハーリアの反応がかなり薄いものであることが世莉架は気になった。三属性扱える者を見たらもっと驚くのが普通である。だが、世莉架はそれよりも気になることがあった。


「風属性はこれ? 可視化されているの?」


 世莉架はメリアスの手の平の上の三属性のうち、本来目に見えないはずの風が気になったのだ。

 

「えぇ。神法で生み出した風は薄い緑色なの。これはあえてやっている訳ではなくて、どう頑張っても薄い緑色になってしまうのよ。何故かは分からないわ。ただそういうものなの」

「なるほど……」

 

 不思議で謎の力、神法。世莉架はその神法についてより興味が湧いたが、今後使えるようになるのかは不明である。


「確か、後天的にでも使えるようになる人もいるのよね?」

「まぁ、例は少ないけど思うけど、いるわね」

「どうやったら使えるようになる?」

「ごめんなさい、それは私には分からないわ」


 世莉架は神法を使えるようになるための訓練等があればやってみようと考えていたが、どうやらメリアスは知らないようである。


「あ、私ちょっとそれについて勉強したことある……」

「本当?」


 するとハーリアが自信無さげに手を上げる。


「学校のクラスメイトに頼まれたことがあって、その時勉強したから。でも結局上手くはいかなくって無理だった。そもそも後天的に神法を習得する術はまだまだ発展途上で、不明点ばかりなの。昔から神法を使えない人にも使えるようにっていうことで熱心に研究はされてるみたいだけど、神法が使える人でも原理とか色々分からないからとても難しいみたい」

「そう……」


 神法は使える者にも理解できない部分が多い力であるということだ。そのため昔から研究されているが、どうも解明はうまく進んでいないらしい。


「で、でも私で良かったらセリカが神法を使えるようになるために協力するよ」

「本当? 嬉しいわ、ありがとう」

 

 ここで世莉架はハーリアとの出会いは重要なものだったかもしれないと思い直してきた。ハーリアの神法の実力がどの程度のものかは不明だが、やはり実力を隠すような言動や仕草が見受けられるため、ある程度期待できる。

 本当に神法が後天的に使えるようになるかは分からずとも、やってみるだけタダである。せっかく協力してくれるというのだからその好意に甘えようということだ。


「なら私も協力するわ。ハーリアの方が知識がありそうだし、あくまでサポート的にだけど」

「それでも嬉しいわ。二人とも、ありがとう」


 世莉架はニコッと穏やかな笑みを浮かべる。世莉架にとっては周囲によく見せるために作った表情だが、威力は抜群である。

 その笑顔を向けられた二人はなんとも気恥ずかしく、それでいて世莉架の顔の良すぎるある意味での攻撃に顔が熱くなった。


「そ、そういえば、光属性についてまだ話していなかったわね」


 そこでメリアスは戦闘神法の光属性の説明をしようとしていたことを思い出し、話を戻す。


「さっきハーリアが言ってくれた通り、そもそも神法は解明されていない部分が多く、神法を使える私自身も上手く言語化して人に伝えるのは難しいの。そして戦闘神法の中でも光と闇はちょっと特殊でね。その性質が他の属性よりも理解しづらい部分があるわ」


 メリアスは消していた光の玉を再び作り出す。


「簡単に言うと光の性質は他属性の補助と、他属性同士の結合よ」


 光の玉の横に再び火を作り出し、そこに光の玉が入っていくと少し火の勢いが強まった。


「こんな風に他属性の威力を高めたり、メインの属性を複雑にコントロールしたい時なんかにも光に役割を与えて補助することもできるわ」


 すると今度は風の渦を作り出し、光によって火と掛け合わされ、風の薄い緑色が火の周囲を渦巻くという幻想的な神法が出来上がった。


「このように、他属性同士をしっかり結合させるには光属性が必要よ。勿論、光属性がなくても異なる属性同士をぶつければ一応混ざるけど、しっかりと異なる属性同士の威力を損なわず、合理的な形に変えて留めるには光属性が必要になる。だから光属性だけ持っている人は他の人の神法を組み合わせたり威力を高めるといったサポート役に徹するのが一般的ね」

「光属性だけでは戦えないけど、一緒に戦う仲間からすれば心強いわね。まぁ、神法を使える人が複数人いた場合だけど」

「えぇ。でも使い方はいくらでも応用できるから、今のはあくまで基本の使い方よ。極めた人はもっと色々なことができるようになるわ」


 そうしてメリアスは作り出した火や風を消す。


「ちなみに、私は使えない闇属性の性質だけど、吸収と放出よ」

「吸収と放出?」

「そう。私も使えないから感覚は伝えられないけど、物質を吸収してそれを任意のタイミングで放出できるわ。けどなんでも吸収できる訳じゃなくて、使い手の力量によって小さなコップくらいしか吸収できない人もいれば、人間一人分くらいを吸収できる人もいる。そしてそれを放出する時の勢いも力量によって差が出るわね。吸収したままにできる時間も同様よ」

「神法も吸収できるの?」

「それも力量による。自分の神法の練度を上回っている神法を吸収するのは難しくて、仮に吸収できても放出する前に暴発したりして危険なの。だから相手との力量差をよく見極めないといけないわね」


 戦闘以外にも使い方によって、また使い手の力量によっては非常に便利な神法であると言えよう。


「なるほど。他四属性とは違って光と闇は特殊ね」

「そう。一応分類的には特殊神法じゃなくて戦闘神法なんだけどね。それに、神法で最も大事なのは何が使えるかではなく、どう使うかよ。使い方次第で神法を腐らせることも輝かせることもできる」

「まぁ、私の場合はまず神法が使えるようにならなきゃ話にならないわね。大分可能性は低そうだけど」


 神法の知識を得たのはいいが、結局今の世莉架では神法を使うことはできない。


「ははは、でもセリカなら習得できちゃいそうな気もするけど」


 ハーリアは世莉架のポテンシャルのようなものを感じ取っているのか、世莉架は神法を習得できるのではないかと思っていた。

 そうして三人は談笑を続け、気づけば夜になりかけていた。


「ねぇ、もし良かったら明日も会わない?」

 

 するとメリアスが世莉架とハーリアにまた翌日も会わないかという話をしてきた。まだ出会って間もないが、メリアスはこの三人でいることを案外心地よく思っているのかもしれない。


「私は学校があるので夕方からなら大丈夫ですよ」

「私はまだ明日の予定は決まっていないけど、冒険者のカードを貰ってから何か依頼を受注しようと思っているのよね。でも最初だから簡単な依頼を受けるつもりだし、遅くなることはないと思う」


 ハーリアは学生なので学校に、世莉架は初めての依頼を受けようと考えていた。それらを考慮し、メリアスは一つ提案する。


「そう。私は明日は午前中予定があるから、二人のことを考えて夕方にしましょう。もし急遽予定ができたりしても遠慮なくそちらを優先してもらって構わないわ」


 そのような約束を交わし、三人は解散しようとする。

 また翌日も会うことになるとは世莉架は考えてなかったが、神法のこともあるため特に拒否する意味はない。

 

「じゃあまた……」

「ん? ハーリアじゃないか」

 

 すると三人の元に一つの声が入ってきた。そこには中年程度に見える男性と女性がおり、夫婦に見える。


「お父さん、お母さん!」


 ハーリアがそう反応する。声をかけてきた二人はハーリアの両親であった。


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