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災厄の救世主が紡ぐ異世界黙示変生  作者: ポルゼ
天才の異世界転移と災難
5/28

指針

 世莉架が異世界に来てから一夜明けた。

 必要な睡眠時間が短い世莉架は、早々に起きて言語の学習に時間を使っていた。


(さて、ここを出る前にお金を稼ぐ手段について一応聞いておきましょうか)


 生活する上で絶対に必要となる資金。これが無いとお話にならない。

 少しして簡単な朝ごはんまで用意してもらった世莉架は礼を述べ、お金を稼ぐ方法について取調べ員を担当した男性に聞いた。

 そこで世莉架が聞き取れた話としては、まず街の中央にある役所に向かってみるのはどうだろうか、というものだった。

 その後、男性から家に来ないかという下心が見え見えの誘いを受けたが、世莉架は上手く周囲の目なども利用しながらいなして建物を出た。

 ちなみに、言語の教育本は別になくても問題ないものだということで貰うことができたのであった。


(ちゃんと役所なんてものがあるのね。そこでなら何らかの支援を受けることができるかもしれないし、少なくとも生きていく上での色々な情報提供やアドバイスくらいは貰えるでしょう。突っぱねられたら忍び込んで情報収集してしまえばいい)

 

 潜入は最終手段だとして、役所の存在は世莉架にとってとても有り難いものであることは確かだ。

 世莉架は教えてもらった道を辿りながら役所を目指す。

 

(大きいわね。流石は街の中心。人も多い)


 やがて世莉架の前には、建物の中央部分が上に数階分あり、左右には二階建てで広がっていて大きな入り口を沢山の人々が行き交っている役所が現れた。まさに街の中心に相応しい賑やかさであった。

 特に目に留まるのは、役所前の広場の中心に建てられている像である。パッと見だと女神を象ったのかと思うような、美しい彫刻が施された女性の像である。

 荘厳で繊細なその像は、多くの資金と時間をかけて作られたのだろうとすぐに分かるような出来栄えであり、頻繁に手入れが入っていることも伺える。


(宗教か何かかしら。この力の入り具合からして、国にとって、もしくはこの街の市民にとってかなり重要なものなのでしょう。もしかすると、世界的に重要な存在である可能性もある)


 そんなことを考えながら中に入ると、天井の高い広い空間があり、多くの受付が用意されており、沢山の人達が列を作っていた。


(どこに並べばいいのかしら……)


 それぞれの受付にはそこがどういう目的の受付なのかが明示されていた。


(一部読めるところとほとんど分からないところがあるわね。でも、幸運なことに私の目的とする受付の文字は読めるところね)


 世莉架は街での生活について相談するため、「生活課」といったような文字が書かれている受付の列に並び、待つ。


(流石に時間かかるわね)


 当然だが相談する人達にも様々な事情があり、そう簡単に結論が出るものではない。その生活に関する相談受付は数人で対処しているようだが、やはり一人一人に時間がかかっているようだ。

 待っている間も言語の勉強をしていた世莉架だったが、ついに呼ばれた。


「こんにちは」


 簡単な挨拶を交わし、世莉架はこの街で生きていくための方法を教えてほしい旨、何か支援を受けることができるのであればそれを受けたい旨を拙い言語で伝える。

 世莉架の相手をした女性は言語に慣れていない人にも慣れているのか、特に驚くこともなく話を聞いてくれていた。

 話をする中で、世莉架はようやくこの街や国についての情報を得ることができた。

 まず、現在世莉架のいる街の名はルインという。ルインはフェンシェントという大国の中にあり、その中でもルインは大きめの街である。

 大国というだけあって非常に広い面積を有しており、技術力や軍事力に関しても世界有数である。

 そういった先進的な国であるため、世莉架のような生活に困っている者への支援や政策はある程度しっかりしている。逆に言うと、この世界の小国ではそのような支援を受けることは難しいと考えられる。

 やがて世莉架は話を終え、役所を出た。


(有益な話を聞けたけど、まだまだ大変な日々は続きそうね)


 世莉架が聞いた話としては、まず生活困窮者への支援を世莉架が受けることは難しそうということである。

 そもそも世莉架はフェンシェント国の人間ではなく、外からやってきた浮浪者のようなものである。そういった者への支援はなかなか許可が降りず、許可が降りるにしても結構な時間を要してしまう。

 一応、明日にでも貰える少額のお金の簡単な手続きは行なったため、今日を凌げば全くお金のない状態から脱することはできる。

 

(後は仕事だけど……)


 次に仕事についてだが、大前提として言語が上手く扱えなければ正式に雇ってもらうのは難しく、アルバイトくらいの感覚でできる軽い仕事なら場所によっては雇ってもらえるかもしれないとのこと。

 他にある仕事としては、危険な仕事から雑用のようなものまで幅広い仕事を受けることのできる冒険者がある。

 冒険者は年齢の制限や犯罪歴の有無などいくつかの条件こそあるが、どれも簡単な条件ばかりなので冒険者になるのは比較的容易である。

 しかし、冒険者に関しては相談相手の女性からはおすすめされなかった。危険な仕事さえ選ばなければいいと言えばそうなのだが、仕事は街の外で行うものが多く、一見簡単そうな仕事に見えても命の危険を常に孕んでいる。

 場合によっては大金を稼ぐこともできるが、最低限の戦闘能力はないといざという時に逃げることすらできない可能性がある。

 これら以外にも色々とおすすめできない理由を述べていたが、とにかく今の世莉架はすぐにでもお金を稼ぐ手段を見つける必要がある。

 世莉架の手には、いくつかの仕事が書かれた紙があった。まずはそこに書かれている仕事を片っ端から回ってみて仕事させてもらえないか頼むしかないだろう。

 

(はぁ、私がこんな風に仕事を探す羽目になるとは……)


 地球にいた頃の世莉架では考えられないことではあるが、ここは異世界で突然放り出されたのだ。仕方のないことだと割り切って仕事を探す他ない。

 そうして世莉架は仕事の求人について書かれたその紙と一緒に貰った街の地図を元に、いくつかの仕事場を訪ねた。

 しかし、結果としてはどれも断られる、もしくは保留というような形になってしまった。断られるついでに他に紹介できる仕事はないかと尋ねて教えてもらった場所にも向かったが、どこも同じような対応であった。

 何度か、世莉架の美しすぎる容姿を見て夜職に誘われることもあったが、それは最終手段だろうと世莉架は断った。


「こうも駄目だとは……。まぁ、地球でどれだけ優秀だろうがこの世界に来たばかりの私の価値なんて分かる訳ないし、まだまだ言葉は不自由だし、仕方ないわね」

 

 日本であれば、アルバイト程度なら全く日本語が話せなかったり態度が悪かったりなどしなければ大抵受かるものだ。しかし、少なくともルインではそう簡単にはいかないようだった。

 ただでさえ文化や言葉どころか世界自体が違うのだ。思うようにいく訳もない。


「冒険者か……」


 実質的な何でも屋のような仕事である冒険者。おすすめこそされなかったが、放浪者のような世莉架には十分に考慮する価値のある仕事であろう。

 

(なるべく街の外に出なくてもいいような、本当に簡単な仕事を選んで始めればいい。大金は貰えても危険な仕事なんてわざわざ選ぶ意味はない。そもそも大金が欲しい訳じゃないしね)


 そうして世莉架は冒険者として登録するため、地図に示されている冒険者協会へ向かった。


(ここね)


 やがて世莉架の前には役所と同じくらい大きな建物の前に着いた。それこそ冒険者協会である。


(この規模……。多くの資金が集まり、多くの人が集まる場所ということ。冒険者というのは思っていたよりもかなり価値のある存在であるようね。そんなに何でも屋のような仕事が必要とされるのかしら)


 色々な疑問を抱きつつも、まずは詳しく話を聞かないと始まらないと思い、建物に入っていく。

 中は広く、人も役所と同じくらい多い。ただ、冒険者と思われる人達は皆、防具や武器を持っており、雰囲気は役所とは全く違う。

 初めて入る人は気圧されてしまうような雰囲気の中、世莉架は物怖じせずにスタスタ歩いて入っていく。荒々しく、しかし活気のあるその空間は独特の空気感だった。


(女性も少ないけれどいるのね。まぁ、仕事を選べばいい話だし、当然か)


 世莉架はその容姿と冒険者には似合わない格好のせいでかなり注目されてしまっているが、気にせず受付の元へ向かう。


「すみません」


 そうして色々と話を聞き、冒険者になるために受付嬢に話しかけた。

 対応してくれる受付嬢は他の受付嬢と同じ統一された制服を着ている。藍色と黒色を基調とするかっちりとした制服は少々お堅い雰囲気を醸し出しているが、ブラウンの髪を靡かせるその受付嬢は柔らかい表情で世莉架を迎え入れた。


「こんにちは」

 

 軽く挨拶を交わし、世莉架は早速冒険者になるために必要な条件などを聞く。

 聞き終えたところで分かったことは、現状だと放浪者のような世莉架はすぐには冒険者になることはできないということだ。地球では当たり前にある高度なシステムやカード等で管理された身分証のようなものは必要ないが、それでも身分を証明するものが全く無い場合は流石に難しいということである。

 ただ、役所に行けば簡易的な身分証と呼べる程度のものが手に入るそうなため、その手続きを行う必要がある。幸いにも、それ以外に問題となる部分は特に無いため、そこさえ解決すれば冒険者になれるのだ。


(あっち行ったりこっち行ったり、面倒だけど仕方ないわね。これさえなんとかすればある程度落ち着くだろうし、そこまでの辛抱ね)


 冒険者になるための条件に関しては理解した世莉架は、それ以外に気になる疑問をぶつけてみる。


「具体的に、どんな仕事の依頼が、ありますか? 特に危険の少ない仕事は、どのようなもの、でしょうか」

 

 世莉架は辿々しくも着実に急激に成長している言語を扱い質問する。

 

「はい、例えば簡単な仕事であれば指定場所の掃除や指定された素材の採取、荷物持ちや建設や鍛治の手伝いなど多岐に渡ります。難しい仕事では危険生物の討伐や重要人物の護衛などです」


 かなり高い精度で聞き取ることができるようになってきている世莉架はしっかりとその話を理解できた。

 

(掃除は街中、素材の採取は街の外でしょう。荷物持ちはどこに何を運ぶかにもよるし、建設や鍛冶の手伝いはまさに肉体労働といった感じね。まぁ、これらはあくまで依頼の一部であって、他にも沢山あるでしょうし、仕事に困ることはなさそう)


 世莉架は次に報酬について尋ねてみた。


「簡単な仕事なら一日こなせば五千イア程度、難しい仕事は内容によってかなり報酬が上下するので一概には言えませんが、高難度の討伐依頼を達成すれば素材も合わせて軽く数百万イアを超えることもあります」


 「イア」というのはこの世界における共通通貨である。国や地域によっては独自の通貨を使用しているところもあるが、基本的にはイアで困ることはない。

 通貨に関する説明も世莉架は役所で受けているため、理解できる。


(役所での説明からして、五千イアあればひとまずその日暮らしは可能。まぁ、決して余裕はないし、貯金もほとんどできないだろうからずっとそれで生活するのは厳しそうね)


 世莉架はその後も冒険者としてやっていくために必要な話を聞き、満足したところで受付を離れた。


(元々明日は役所に行って少しの支援金を貰うことになってたし、その時冒険者になるために必要な身分証の手続きも行なってしまおう)


 世莉架は多くの人が集まっている依頼書が貼ってある場所へ向かう。

 依頼は誰でも無条件で受けられる訳ではなく、冒険者の実力と実績を示すランクの高さや面接の有無など、条件が設けられている依頼も多い。

 特に冒険者成り立ての初心者となれば、選べる依頼はかなり限られてしまう。そのため、最初のうちは地道に簡単な依頼をクリアしていくしかない。

 稀にあるケースとして、簡単な依頼の中で遭遇した思わぬ危機に対処できた場合など、想定していなかった成果を出せた場合などは実績に大きく反映され、ランク上昇への道が短縮されることもある。


(本当に色々あるわね。簡単な依頼でも期間の違いや多少の報酬金の違いはある。安易に選ぶと損をすることがありそう)


 まだ世莉架は冒険者にはなれていないため、あくまで視察の段階だが今張り出されている依頼は全てこの場で記憶した。

 そんな時だった。ふと、世莉架の隣に立ち、沢山の依頼を端から眺めていく女性がいた。

 すると世莉架でさえ驚いてしまうほど美しいその女性と目が合った。 


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