無警告の一撃
世莉架はレイドの案内の元、ついに灰鴉団の本部拠点に到着した。
大通りを避けた先にある一見普通の店の中に入り、レイドが店員と何やら話すと奥に通された。そこでレイドがいくつかの機構を解いていくと、地下へ続く階段が現れた。
非常にベタな隠し階段ではあるが、効果的である。階段には同間隔で明かりがついており、明るさが保たれていた。
「私は誰にまず挨拶することになるの?」
世莉架は今後会うことになる人達について尋ねる。
「俺たちも今本部に誰がいるのか分からん。仮にボスがいても、いきなりボスになんて会えないぞ」
「当然、分かっているわ」
「というかレイドさん、俺たちノコノコ帰ってきて本当に大丈夫なのか?」
するとニルがレイドに今後の自分達に降りかかることに対する懸念を話し始めた。
「……」
「俺たち、結局作戦失敗してるじゃん。本来の帰還タイミングとも違うし、そもそも作戦は成功していない。それどころか俺たちの作戦を邪魔した奴を連れて帰ってるなんて状況だし。それなのにこんな普通に帰ったら……」
「真っ当な心配だな。けど、いつかは帰らないといけないし、いつかはボスに報告しなくちゃいけない。どうせ失敗報告するのなら持ち土産……になるかは分からんが、収穫となる可能性のあるものはあった方がいいだろう」
「良い土産品になれるよう、頑張るわ」
「ああ、是非ともそうしてくれ」
そんな話をしていると階段を降り終わる。そこには広い空間が広がっており、言わば組織のロビーのようなところであった。
しかし、冒険者ギルドのように人でごった返している訳ではなく、閑散としている。
(いくら裏社会の中で大きい組織と言えど、慢性的な人手不足に陥っているのはよくある話。それがこんな地下深くで資源や人も限られている場所なら尚更ね)
そのロビーにいる人達はレイド達を見て驚いた表情をしており、その中の一人の男が声をかけてきた。
「おい、レイドお前、帰ってきたのか?」
「ああ、色々あってな」
「色々って……お前ら、作戦はどうしたんだよ? というか……」
その男は世莉架を見て話を中断する。知らない相手に聞かれていい話ではないからだ。
「まぁ、とにかく色々報告をしなきゃいけないんだよ。それで、ボスはいるか?」
「今はいない。いつ帰ってくるかも分からない。一応幹部は何人かいるけど、今から話しに行くのか?」
「できれば、ボスも含めて報告したいとは思っている」
「そうか、けどお前らがもうここにいるってことは……」
「すぐにお前達も知ることになるさ。とりあえず、ボスを待つことにするよ」
そう言ってレイドはロビーを出て廊下を歩く。
地上では大規模な事件が行われていた。それも、恐らく王子の殺害を目的としたもので、フェンシェント王国の歴史に残るような事件であった。
実行犯はレイド達のような一般組織員で、幹部クラスの者は遠くから見ているか、そもそも拠点からも出ていないと推測できる。
だとしても歴史に残るような事件を起こしているのだから、当然本部拠点もそれ以外の場所でも組織のメンバーは忙しなく動き回っていることだろう。
現在組織のボスや幹部がレイドの話を聞く余裕がある状態か分からないため、相手の状況を見極めながら報告タイミングを図っているのがレイドである。
レイドはとある一室に入る。そこは普通の休憩室のようなところで、置いてあった椅子にレイドは力無く座る。
「はぁ……」
「お疲れ様」
「誰のせいだと……」
「ここまで連れてきてもらっている訳だし、少しでも貴方達に損が出ないよう立ち回るつもりよ」
「そりゃ当然だろ。お前、裏切ったら絶対殺すからな」
「そうなったら私はこの国を出て逃走させてもらうわね」
またもや世莉架に突っかかるニルを軽く躱す。最早何度も見た光景だが、なんてことのない軽口を叩き合っている友人のような、悪くない雰囲気である。
「ねぇ、少しでいいから組織内を案内してくれない?」
少し経ってから世莉架はふと、レイドに提案してみる。組織内の構造を把握したいための提案だったが、今の世莉架の状況からほぼ拒否されると分かっていた。
「無理だ。その最中にお前の姿を多くの人に見られることになる。けど、お前はまだ敵か味方か分からない状態だ」
「けど、堂々とロビーを通ってきちゃったわよね?」
「そこはもう仕方がない。他にも入り口はあるが、どこから入るにせよ必ず誰かには見られてしまうだろうよ」
「なら諦めて案内してくれない?」
「これ以上俺の取らなきゃいけない責任を大きくするようなことはしたくない。諦めろ」
「そう。けど私、トイレに行きたいんだけど、どうすればいい?」
「はぁ……」
レイドは溜息をついて仕方がないといった感じに立ち上がろうとする。
「レイドさん、俺が連れて行くから休んでてくれ」
「ん? ああ、じゃあ頼んだ」
「それじゃあ、着いて来い」
世莉架はレイドに話していたが、ニルが連れて行くと言い出した。
世莉架は特にそれを拒否をする理由はないため、着いていく。
ニルを先頭にし、世莉架は黙ってついていく。すると明らかにトイレではない場所に着いた。
「ここは?」
「ここは訓練場だ。うちの組織のメンバーでここを使ったことのない奴はいない」
「そうなのね」
その訓練場では少ないが鍛錬に励む人達がいた。単純に肉体を鍛えられるだけでなく、神法を鍛えることもできるような場所もある。
「わざわざこれを見せたかったの?」
「……お前、裏社会に浸かってる側の人間だろ?」
「ええ」
「ムカつくが、お前全然実力出してなかっただろ。そんなお前から見て、俺らの組織はどうだ。この国をひっくり返せると思うか?」
ニルは世莉架によく突っかかってはいるが、世莉架は恐ろしい実力を持ち、底知れない何かを抱えているように感じていたのだ。
それを上手く言語化することはできないが、ニルはそういった感覚が優れていたのだ。
「……私がこの国に来て間もないのは本当。この国に関する知識が乏しいのも本当。地上には有名な騎士団がいることは知っているし、大国だから冒険者にも実力者は多いのでしょう。対して、灰鴉団は裏社会の組織。こちらもどんな人がいるのか私は全く知らない。けど、実力者が数人いた程度ではどうにもならないでしょうし、裏から地上を徐々に侵食して今の体制を壊そうとしても、大国の層の厚い権力者や影響力のある人達をどうにかするのは至難でしょう」
「ああ、そんな簡単にやり込めるならとっくの前にできてるはずだ」
「つまり、戦闘の実力、裏工作、有力者の取り込み……やらなければならないことは山積みだし、それら全てを灰鴉団だけでこなすのは不可能でしょう。多くの協力者が必要になる」
地下住民、灰鴉団の願いを叶えるためには超えなくてはいけないハードル、成功さえないといけない作戦が沢山ある。まだまだ灰鴉団のことを把握していない世莉架であっても、目論見が成功するビジョンはほとんど見えなかった。
「俺はな、どう醜く足掻こうがこのクソみたいな地下から出る。地上で生活していても誰にも文句を言えないような国にする」
「夢を語るだけなら自由だからね」
「ふん、どれだけ馬鹿にされても構わねぇ。そんで、本題だが……」
ニルは視線を訓練場から世莉架の方へ向ける。
「鍛えてくれないか」
「え?」
「俺を……いや、ここにいる奴らみんな」
それは世莉架も想定していないまさかの提案だった。
ニルはプライドが高く、短期で勝ち気な性格である。それはこれまでの短い付き合いだけで分かっている。
世莉架の目的は灰鴉団の願いを叶えることでも強く鍛えてやることでもない。そんなことのために時間と労力をかけることはできないのである。
「鍛える、というのは戦闘に関しての話?」
「それもあるし、後はどういう作戦を立てるかとか、立ち回りとか」
「そんなの、灰鴉団内に得意な人がいるでしょう。何も教育されてこなかったの?」
「いや、勿論色々勉強させられたさ。けどな、それだけじゃ足りないんだ。俺たちに足りないのは、経験と色々な知見だ。それも、組織内の奴らから聞いたり教えてもらったものだけなく、もっと幅広い色んな奴からも吸収すべきだと思ってる。そして、お前は俺達に無い何かを持っていると思ってる」
「……」
世莉架は思案する。まず、ニルに対する評価を改めた。短期で単純そうに見えるが、実際はニルなりに色々考えており、この厳しい現実をより良いものにするためには嫌いな相手であっても学ばないといけないことが沢山あると理解できている。
これは、地下都市のような閉塞感に包まれた空間で生まれ育ち、偏った知識や価値観を持ってしまいそうな場所にいる人の中では珍しい方だろう。
しかし、世莉架がわざわざ鍛えてやったり教育してやる義務は無い。特に、戦闘に関してはできる限り実力を隠しておきたいのだ。
「お前、灰鴉団の本部に入れてるんだぞ? それくらいの見返りがあってもいいだろ」
「そんなこと言われても、貴方達が大規模な事件を起こそうとした上、私に負けたのが悪いわよね」
「灰鴉団にコンタクト取りたかったんだろう? 戦闘はあの状況じゃ仕方ないし、お前は望んだことが続いている。少しは協力してくれてもいいだろ」
「……そうね」
世莉架は顎に手を当てて考え、少しして答えを出した。
「戦闘に関してはごめんなさい、協力はできない。けど、作戦だったり、これからどう立ち回るとかはアドバイスできるかもしれない」
「本当か」
「ええ、ただ私の助言なんて組織の上の人達が聞き入れるとは思えないけどね」
「それでもいい。俺たちみたいな役職もない普通の組織員に教えてくれればいいんだ。そうやって組織全体がレベルアップする必要がある」
「まぁ、それでいいなら」
「決まりだな」
世莉架は思わぬ形で灰鴉団に協力する事項が一つできた。
これが後にどれほど影響を与えるかは全く分からない。何の意味も無いことだったと思うことになるかもしれないし、多少役立つ場面があるかもしれない。
実際そんなことをしている暇があるのかも不明だが、現状で世莉架が灰鴉団と対立する必要は無いし、これで信頼を得られるのであれば無駄ではない。
「へっ、仕方ねぇから戦闘面でお前に吠え面をかかせられるようにそっちは自分で鍛えるとするか」
「そんなに私に勝ちたいの?」
「当たり前だろ。不意を突かれたような形でもいいようにしてやられたんだからな。というかお前、やたら身体能力高いよな。やっぱり御使師か?」
神法を使えることによる身体能力向上の恩恵を受けているとニルは思っているようである。
実際、世莉架の身体能力を見れば誰でもそう思ってしまうであろう。
「いいえ」
「ふん、使えないってことにした方が都合がいいか?」
「いえ、本当に使えないわ。私の身体能力は生まれつきよ」
「おいおい、御使師じゃないのに生まれつきそんな身体能力持っているのはおかしいだろ」
「そう? 神法なんていう摩訶不思議なものが存在する世界なんだから、そういうこともあるでしょう。というか貴方、指治療したら?」
ニルは世莉架に折られた指を応急処置した状態のままである。
「この後治療しに行くつもりだったよ。まぁ、とにかくさっきの話、忘れんなよ」
「たかが口約束だけどね」
「確かにそうだが、俺は忘れないからな」
ニルはそう言い、後ろを振り返って治療室に向かおうとした時だった。
「その『さっきの話』とやら、興味がある。詳しく聞かせろ」
「……!」
声を聞いて世莉架とニルは振り返る。その時、世莉架は体が後ろに吹き飛ばされていた。
「っ……」
吹き飛ばされて訓練場エリアに入り、世莉架は空中で体勢を直して静かに着地する。
(凄まじく速い移動、その速さと踏み込みを利用した右の拳……! 咄嗟に両手でガードして受けたけれど、これはなかなか……)
突如飛ばされてきた世莉架と歩いて入ってくる者達に訓練場にいた人達から困惑と驚きの声が上がっていた。
「ほう? 拳がぶつかった時、腕が折れたり軋む感覚が無かった。あの速度に普通に反応できておまけに無傷か。なるほど、只者でないことは確かだな。」
「貴方は……」
そこには世莉架を突然攻撃した女性と、その女性の後ろに控える二人の側近のような人物がいた。
その女性は短めの黒髪に灰色のハイライトが入っている。服は黒色の軽戦闘用のようなスーツに近いもので、白のワイシャツ風ブラウスが胸元に見える。黒灰のタキシード風コートを羽織っており、察するに素手で戦闘するための手甲が補強されてる。また、服の上からでもよく鍛えられていながらスリムな体型をしていることが分かる。
端正でキリッとした鋭い顔つきの格好良い美人な女性であり、二十代後半くらいに見える。
「ボスっ……!」
ニルはその女性を驚きの表情でボスと呼んだ。
「貴方が灰鴉団のリーダー、灰影主様?」
「そうだ。私がこの組織のボスで、灰影主だ」
「まさか女性だとは思いませんでした。それに、こんなにお若いとは」
「屈強な男でもイメージしていたか? うちの組織はボスになる素養と実績さえあれば男か女かなど問題にならない」
「そうですか。それで、先ほどの攻撃はなんでしょうか。灰鴉団ならではの挨拶か何かですか?」
「ははっ、そうだな。非常に重要な作戦中で忙しい中、本部拠点に見たことのない怪しい奴がいたらこういった挨拶をかますことにしている」
世莉架の冗談とそれに乗る灰影主。しかし二人の間には張り詰めた緊張感が漂っていた。
周囲の組織員達は動くことができない。少しでも動けば何か指摘されたり矛先がこちらへ向くのではないかという、特に根拠は無いがそう思わされるような雰囲気に呑まれていた。
「それで、お前の目的はなんだ?」
灰影主は鋭い目つきで世莉架に質問をする。
「情報です。私は裏社会とこの国の情報を得たいのです」
「そうか。その情報のためなら私達の重要な作戦を邪魔しても良いということか?」
「……」
「その上、組織の本部まで来て情報が欲しいと?」
世莉架は察してはいたが、やはり世莉架がどうしてここまで来ているのかや作戦の状況については既に把握されていた。
現状、灰影主には完全に敵として見られている。どうして既に情報を把握されているのか、ということはいくつも可能性が考えられるが、それを考えている場合ではない。
「ええ、自分勝手なことをしている自覚はあります。ですが……」
「そうか、ではまずは……」
世莉架の言葉を遮り、灰影主は両の拳を合わせて骨を鳴らす。
そして次の瞬間、姿が消えていた。
世莉架の左側に一瞬で移動した灰影主は右手のパンチを繰り出してくる。いかに世莉架であってもまともに喰らうわけにはいかないことは明白であった。
「!」
世莉架は最低限の動きで体を斜め右側に動かし、そのパンチをやり過ごした。常人には速すぎて何がどう動いたのか全く分からないあろう刹那のやり取りである。
しかし、それで灰影主の攻撃は終わらず、今度は蹴りのモーションに入る。
互いの距離はかなり近い。蹴りを避けるには先程よりも大きく動かないといけない。
灰影主は右脚で蹴りを入れてこようとするのに対し、世莉架はしゃがんで避けようとする。
(フェイント……!)
だが世莉架はすぐにその蹴りがフェイントであることを察した。
すると灰影主の右脚がピタッと止まり、左腕のボディブローが飛んできた。
(こいつ……)
しかし、その打撃の結果を見て灰影主は内心驚いた。
不意を突いたはずの左腕は世莉架の手のひらに側面から少し触られただけで方向を変え、いなされたのだ。
灰影主のその打撃は速さも重さも並の御使師を軽く凌駕している。それをいなすためには正確な位置に正確な方向で正確な力を加える必要がある。
世莉架はそれをまだほんの数手しか行っていない格闘の中でやってみせたのだ。
そして世莉架はバックステップで距離を取る。
(目だけじゃない。私の動きに合わせられる身体能力と反射神経、このレベルのスピードのやり取りの中で瞬時に的確な判断を下し、かつそれを実行できる技術を有している。それでいてあの冷静で焦りのない様子……。これは、なるほど)
灰影主はニヤリと笑う。そして更に世莉架に追撃を行う。
「ボス! 待ってくれ、話を聞いてくれ!」
訓練場の入り口あたりでニルは必死に事情を説明しようとしているが、肝心の灰影主は全く聞くつもりがなく、完全に興味が世莉架に向いていた。
「お前、御使師だろう? 何が使える?」
「いいえ、私は御使師ではありません」
「……つまらん嘘をつくな。これだけ私の攻撃を躱していなせる奴が御使師でない訳がないだろう」
「そう言われましても、事実として私は御使師ではありません」
二人は凄まじい攻防を繰り広げながら普通に会話を行う。
灰影主が一方的に攻撃し、世莉架がひたすら避ける。その様子に周囲の組織員達は恐ろしくも興味深いものを見る目になっていた。
「私は今、神法を後天的に会得するために修行をしているところで、そのための情報も探しているんです」
「まさか、本当に御使師ではないのか?」
「はい、私の体は生まれつきこうなんです」
「……ふん、にわかには信じ難いな」
そこでようやく灰影主は攻撃をやめた。しかし、戦いが終わった訳では無かった。
「お前、これを受け止めてみろ」
灰影主は右腕を引きながら言う。
世莉架としては当然受けたくはない。しかし、ここで受けずに逃げたら恐らく事態はより悪いことになると思い、仕方なく頷いた。
「殺さないでくださいね」
「死なないよう努力しろ」
一度息を吐いてから灰影主は思いきり踏み込み、右の拳が世莉架目掛けて飛んでくる。
それは明らかに今までの打撃よりも強力なことが察せられた。まだまだ本気でないのか既に本気なのかも分からないが、とにかくこの程度は受け止めてみろという灰影主なりの試験だと思い、世莉架は真正面で受け止める準備をする。
両手を重ね、手の平を迫り来る拳に向ける。
そして手の平と拳の衝突とは思えないドンという鈍い音が鳴る。
世莉架はその拳を受けると同時、手を後ろに引き、更に体も後ろに飛んだ。
背後には壁があるが、その壁にあたる前に世莉架は空中であえて体を倒してバク転の形で一回転し、その中で地面に手で触れ、最終的に壁に足裏がぶつかる形で着地した。
「……!」
その時、ただ人が壁にぶつかっただけでは出ないような大きな音が鳴った。
周囲の組織員達は感嘆と怯えの表情を見せている。世莉架が着地した壁にはヒビが入り、世莉架の足は壁にめり込んでいた。
世莉架は足を抜き、くるっと回転して立った。
「……体に問題ないか」
「ええ、流石に両手は痛いですが」
「ははっ、だが受け止めるというよりは受け流すだったな」
「当然です。あの場で動かず受け止めろという話だったら別の方法を提案していました」
世莉架は相変わらず表情に動きは無いが、灰影主は面白そうにしている。
また、灰影主と共に来た側近のような二人はかなり驚愕した様子で世莉架を見ており、ニルも同様だった。
「それで、私は合格ですか? これでもまだ話すら聞いてもらえないようでしたら……少し、迷惑をかけさせていただきます」
「……!」
瞬間、灰影主は世莉架にただならぬ闇を感じた。
世莉架の赤く鋭い目は灰影主を貫いている。まるで、いつでも殺せるぞとでも言わんばかりの生粋の暗殺者の顔であり、裏社会組織のボスとして様々な恐ろしい相手、恐ろしい殺意を目の当たりにしてきた灰影主が、それらを凌駕する何か恐ろしいものを世莉架に見た。
「お前、何者だ……?」
「最近冒険者になったばかりの若輩者です」
「それは表の顔だろう。一体今までどこで何をしていた?」
「そういった話をするには早すぎます。私は貴方と組織からの信頼を得たいと思ってはいますが、同時に私自身はまだ貴方を見定めているところです」
世莉架としては、何がなんでも灰影主と協力関係を築かなければならない訳ではない。
灰影主の考えや価値観、行動理念、今後予定している作戦、目的など、人物像を知ってから協力関係を築くべきかどうかを考えるつもりであった。
仮に無謀な作戦を立て、滅茶苦茶な価値観と考えで意味不明な方向に突き進むような人物であったら協力する価値はない。
そして世莉架はまだ灰影主という人物を見定めている途中なのだ。
「ふん、お前も私を試していたのか」
「試すというより理解しようとしているのです。それは今も」
「生意気な奴だ。だが……」
そこまで話したところで、訓練場に走ってくる足音が複数聞こえてくる。
「ボス! すみません、まずは話を聞いてください!」
それは休憩室にいたレイド、リマ、ザドルだった。
「ふぅ、仕方がない。話くらいは聞いてやる」
「ありがとうございます」
世莉架はついに、灰影主と落ち着いて話をする機会を得た。




