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災厄の救世主が紡ぐ異世界黙示変生  作者: ポルゼ
双層都市・王都アークツルスの表と裏
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地下都市の姿

 薄暗く狭い道を歩く音がいくつか聞こえる。静かだが一人で通るには心細い道だ。

 それに中は非常に入り組んでいる。普通は入って少ししたらすぐに方向感覚を失うだろう。きちんと道を把握していなければ、どれほど彷徨うことになるか分からない。

 そんな中を進んでいるのは世莉架を含めた五人である。

 世莉架はついに地下都市へ向かっている。使っている道は裏の秘密のルート。正規のルートを通ることはできないため、こうした暗くて狭い道を使うしかない。

 普通はその複雑すぎる道を覚えるのに時間がかかるが、世莉架はこの一回で正確に記憶していく。これによって今後一人で抜け出すのも再び地下都市へ入るのも可能になる。


(詳細は教えてくれなかったけれど、見た感じかなり昔から存在する道のようね。この道を作るのは大変だったでしょうに、地上を目指さずにはいられなかったのでしょう)


 世莉架はまだ地上と地下の歴史についてはあまり把握していない。会話等からある程度推測はしているものの、エルドリクから直接話を聞いたメリアスとハーリアの方がフェンシェント王国の深いところに触れている。

 道を進む中、たまに会話はあるが基本的には皆黙って進む。

 一列に並び、先頭をリーダー格のレイドが務め、世莉架は真ん中にいる。


「いつも地上へ出る時はここを使うの?」


 しばらく会話も無かったが、世莉架が口を開いた。


「……そもそも地上になんて滅多に出られない。出るにしても、ここ以外の道を使うことだってある」


 先頭を歩いていたレイドが返答する。 

 

「他にもあるの?」

「当然だ。ここが使えなくなる可能性なんて常にある。地上の連中に見つかったらそれで終わりだし、そうでなくとも災害で潰れる可能性だってあるんだ」


 地上と地下を結ぶルートは複数存在することで色々と使い分けできる上に、どこかが使えなくなっても別の道を使うことができる。


「一体いつ頃作られたのかしら」

「さぁな。大昔だろう」

「由緒ある道ね」

「こんな道に由緒もクソもあるか」


 世莉架の一つ前を歩くニルが口を挟んでくる。


「でも歩き慣れている。この道は地下都市からすれば大事な生命線。無くなったら地上との繋がりを失うわ」

「分かってんじゃねぇか。だからバレちゃいけないんだ」

「私みたいな怪しい奴にバレて残念だったわね」

「怪しい奴って自覚はあるんだな」

「あえて怪しく見せているだけかもしれないわよ」

「なんだそりゃ」


 なんてことのない会話ではあるが、空気は幾分軽くなる。しかし、先頭のレイドは異なり、どうやって組織に世莉架の説明をしようかと頭を悩ませながら進んでいた。

 明らかに怪しい世莉架に打ち倒され、地下都市にまで連れて来ざるを得なかったというのはリーダー格のレイドの責任になるだろう。

 世莉架はそんなレイドの心中を察してはいるが、地下都市に来るためには必要なことだった。

 信頼関係を築いて地下都市での立ち回りを良くするため、せめてレイド達が責められていたら少しは庇ってやろうと考えていた。

 そうしてしばらく進んでいると、段々と道が広くなっていった。


(そろそろかしら)


 そして先頭を歩くレイドがとある扉に辿り着いた。

 どこからか鍵を取り出し、開錠する。すると少し奥にまた扉が見えるくらいの短い通路が現れた。

 更に、その通路には武装している男が二人いた。


「ん、レイドか」

「おう」


 その武装している男達とレイドは知り合いのようだ。


(恐らく二人はこのルートの出入り口付近の見張りといったところね。ということはやはり地下都市はもうすぐそこ……だけど)

 

 世莉架はこの可能性もあることを懸念材料の一つとしていたが、現実になってしまった。


「おい、お前は誰だ」


 当然、行く時にはいなかった見知らぬ女が混ざっていたら止められる。


「あー、こいつはな……」


 レイドはまだ世莉架との間にあったことを詳しく話すつもりはないらしく、どうにか誤魔化そうとしている。

 

「安心して、私もこちら側(・・・・)の人間よ」

「ほう? 地下都市のか?」

「いいえ、でも裏社会に浸かっているという点においては同じよ」

「……レイド、こんなこと言っているが大丈夫なのか?」

 

 男達はまだ世莉架をかなり怪しんでいる。しかしそれは当然であり、見張りとして重要な役割を果たしているとも言える。

 

(まぁ、場違いに見えるわよね。裏社会と言っても、口だけならなんとでも言えるし)


 世莉架をパッと見で裏社会の人間だと思える者はいないだろう。

 同じ裏社会に浸かっている者なら見ただけで大体察することができることもあるが、世莉架はそういう雰囲気を自由にコントロールできる。今は特にそう見せるような雰囲気を醸してはいない。


「貴方達の組織に興味があって連れてきてもらったの。ちゃんとこの後組織のところへ行くわ」

「組織に用があるのか。だとしても素性の知れない奴をいきなり入れる訳にもいかん」


 これもまた至って普通の対応である。これですんなり通してしまったらむしろ地下都市の防衛、情報等の管理に不安を覚えてしまうだろう。


「すまん、ここは俺の顔を立てて通してもらえないか」


 しかしレイドは粘る。世莉架を地下都市に連れて行くという話になった以上はそれを遂行しようとしているようだ。

 律儀なところがあるなと世莉架は少し意外に思っていた。

 だが、実際のところ世莉架であればここで追い返されることになっても簡単に潜入はできる。そのためここで引き下がる振りをして後で入ればいいかとも考えていたのだ。

 しかし、レイドがここで通そうとしてくれるのならばそれに乗った方が早い。


「つってもなぁ、それでもし何かあったらどうするんだよ。責任追及されるのは俺達だぞ?」

「その時は俺に弱みを握られたとか言って俺のせいにしていい。とにかく、まずはこいつを組織に連れて行きたいだけなんだ。それに、こいつにどうこうできると思うのか? 俺たちの組織をさ」

「……はぁ、分かったよ」

 

 どうやら見張りの男達は納得したようで、ついに通してくれることになった。

 通りかかる時少し睨まれるような品定めするかのような目線を世莉架は向けられたが、気にせず進む。

 そして短い通路の先にある扉をレイドが開けた。


「これは……」


 世莉架は驚いた。地下都市がどんなものか想像はしていたが、実際は違っていた。

 通路から出た場所は少し高いところで、地下都市の全体ではないだろうが、ある程度見渡すことができる位置にいた。

 まず世莉架が驚いた要素の一つは明るさであった。


「結構明るいのね」


 地上ほどではないが、神法を利用した街灯がきちんと立っており、明るさは保たれている。建物の中も灯りが付いており、人の営みを感じさせる。

 するとレイドが世莉架の横に立ち、同じように地下都市を眺めた。


「そりゃあ灯りがなきゃ地下で生活はできない。ただずっと夜と同じ状態ってだけだ。昔は人工太陽のようなものを作る計画もあったみたいだが、流石に地下でそれを作るのは無理だったみたいだ」

「なるほどね。それにしても、今見えている建物の多くは何? 普通の住宅って感じはしないけど」

「あれは仕事場さ。色々な物を作る工場が大半だ。住宅エリアはここにはないし、そっちは色々蔑ろにされていてもっと暗いし陰鬱としてる」

「そう」


 地下都市は当然掘削して作られており、広い空間の壁のところどころで土や岩が露出している。

 

「それにしても……」


 世莉架はすんと鼻を鳴らす。


「空気が悪いわね」

「当然だ。工場エリアだってのに空気の循環がまともにできないからな。一応有害な空気をなるべく人のいないエリアに流したり、一部の外へ繋がる通路へ流したりとやれることはやっちゃあいるが大した効果はない。結局ここで働く奴らは病気がちになってやがて死んじまう」

「それで貴重な労働力を失っては意味がないわね」

「ふん、俺たちの命なんざゴミみたいなものなんだよ」


 そう言いながらレイドは歩いて行く。自然と他の皆も付いていく。


「組織はどのエリアに?」

「地下都市の中でも中心の方だ。ただ、いきなり本部に連れて行くのは不安だがな……」

「別にいきなりじゃなくてもいいわよ。他に組織の拠点があるならそっちでも」

「いや、お前をどう扱うかを決めるのは上の連中の仕事だ。本部に連れて行く」

「そう」


 世莉架は納得し、周囲を見渡しながら歩く。


(工場の中はよく見えないけれど、察するに作っているのは日常生活で必要になる必需品とかかしら。それ以外にも外に置いてある素材から推測すると武器を作っているところもありそうね)


 地下で生活するために必要なものは地上とそう変わらない。しかし、地上から地下の住民のための大量の物資を運ぶことなどできないため、大半は地下で作るしかないのだ。

 だが、環境の悪さから働く者の健康が脅かされ、結果的に働き手が減ってしまっては本末転倒である。

 そして残念なことに、そんな人達を助ける者達は少なく、自分達でどうにかするしかないケースが多いのが実情である。


灰鴉団(アッシュクロウ)はこういう仕事はしないの?」

「工場での仕事か? 俺たちはここいらの働く環境を良くするための仕事はしているが、俺たち自身が工場で働くことはないな」

「地下住民のために動いているというのは本当なのね」

「当然だ。俺たちは所詮裏社会の組織の人間。だが、地下の未来を真剣に考えている奴が入る組織でもある」

「影響力がありそうね」

「実際あるさ。地下都市では俺たちが秩序や治安も守っている。正義の味方なんぞではないが、俺たちを頼る住民はとても多い」


 裏社会の組織でも地下住民とは信頼関係を築けている。組織を敵に回そうものなら住民からの信頼を失うことも同義ということだ。

 やがて工場エリアを抜け、大きな扉があるところに着いた。


「ここは工場に必要な物資や作られた物を搬入、搬出するためのところだ。横の普通のサイズの扉から行くぞ」


 そこには色々な作業員や監視員などがいたが、レイドは皆と軽く挨拶を済ませながら進んでいく。


(レイドはたまに自分達を卑下するけど、交友関係が広いし仲の良い友人も多そうね。そういう人はコネもあって顔も広いから有効に活用できそう。私が目星をつけた中に彼がいたのは運が良かったわね)


 レイドの顔の広さは今後地下で行動していく上で様々な場面で使えるだろう。

 工場エリアと他のエリアは通路で繋がっており、そこには多くの人達が行き交っていた。

 そこだけを見ていると世莉架からすれば地下鉄を歩いているような気分になる。


「ここから先が中央エリアだ」


 世莉架がついに中央エリアに入る。そこは工場エリアとは違い、煌びやかすら感じるほどであった。

 まず街灯などの灯りが多く、単純に人が多い。市場が乱立するストリートもあり、建物も大きい。

 上を見上げた時に天然の天井があるという点を除けば地上の街とそう変わらないように見える。

 だが、なんとなく空気は悪く感じ、よく見ると色々なところに貧困や治安の悪さが見え隠れしている。

 

「灰鴉団がいてようやく治安や秩序が最悪からとても悪いくらいになっているというところかしら」

「そうだな。ようやくそれくらいだ。こんな閉鎖的な地下にずっといたら誰だって嫌になる」


 周りの店頭に並んでいる商品を見ると、地上ではあまり見られない物が多い。地上で太陽の光が必要になるような作物はほとんどなく、独特なものが多い。

 これでは栄養が偏ったり健康を害するのも当然である。地下に生まれただけでそういったリスクを背負うことになる状況は理不尽と言えよう。


「地上の食べ物は全く入ってこないの?」

「全くという訳ではない。だが、地下都市には既に多くの人がいる。全員に行き渡るほどの食料をバレないように運ぶことなんてできない。だから結局、地上の食べ物が入ってきても地下の中でも地位の高い奴や金持ちに持っていかれるのが大半さ」

「地下でも地上でも、そういうところは一緒ね」

「全くだ」


 そんな話をしているとレイドはやがて大きな通りから道を逸れていく。やがて、とある店の前に着いた。


「ここだ」

「普通のお店みたいだけど」

「ああ、表面上はそうなっているだけだ」


 レイドが店に入って行く。ついに世莉架は灰鴉団の本部に入ることになる。


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