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災厄の救世主が紡ぐ異世界黙示変生  作者: ポルゼ
双層都市・王都アークツルスの表と裏
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騎士団と実力試験

 メリアスとハーリアはエルドリクと他騎士団員に連れられて騎士団本部に到着した。

 本部の入り口では慌ただしく多くの人々が行き交っており、緊急事態の処理を行っていることが分かる。


「団長! お話が……」

「すまん、後で話を聞く」


 エルドリクの姿を見つけて声をかける人が多くいるが、それらの件を後回しにしながら階段を上がっていく。

 そして人があまりいなさそうな階層の奥の方の部屋の前に着き、エルドリクが鍵を取り出して開錠して中に入る。


「悪いが、ここで待っていてくれ。こちらの処理がひと段落したらまた来る」


 部屋の中が牢獄のようになっているのではと予想していたメリアスとハーリアだが、至って普通の部屋のように見え、ソファや机、本棚には多種多様な本が置いてあった。


「念の為言っておくが、逃げようとしないでくれ。一応部屋の前に見張りも置く。ここは騎士団本部だからな、脱走なんて無理だぞ」

「それは分かっています。それと、ここに戻ってくるまでどれくらい時間がかかりそうですか?」

「分からない。これでも団長なんでな。表向きでもしなきゃいけない仕事が山ほどある」


 そう言ってエルドリクは早歩きで部屋を出て行ってしまった。

 部屋の扉が閉じられ、鍵をかけられる音がする。


「行っちゃった……」


 ハーリアが扉の方を向いている間、メリアスは部屋中を見渡した。


(部屋は至って普通の広さ。でも窓が小さいし、多分普通のガラスじゃないわね。私達なら破れてしまうだろうけど、騎士団員以外にも沢山人がいるこの場所で見つからないように逃げるのは流石に……)


 メリアスはエルドリクの話を聞くつもりではあるが、状況が変わった場合やいざという時にどう逃げるかを考えている。

 エルドリク以外の騎士団員であれば強行突破できるだろうが、騒ぎを大きくするのは避けるべきである。


「メリアス、私達……」

「大丈夫よ。彼は私達に害意を持っている訳ではないと思う。だから後で話を聞きましょう。仮に私達が向こうの提案を拒否したとしても殺されるようなことは流石にないと思うし、最悪無理矢理突破すればいいのよ」


 メリアスは落ち着いてきてはいるが不安を醸し出しているハーリアに寄り添い安心させる。

 神法の実力は凄くとも、一般人であるハーリアはこのような状況に置かれたことなどない。


「でも、コスモプレトル騎士団があの事件の裏にいるかもしれないんだよね。フェンシェント王国民からすればそんな可能性考えないから衝撃だよ……」


 フェンシェント王国民から絶大な信頼を得ているコスモプレトル騎士団が民衆を巻き込むことも厭わず王子を殺害せんとする事件に絡んでいたなど、ショックを感じて当然だろう。


「ええ。でもその裏にどのような事情があったのか、そもそも本当に殺害を目的としていたか……そういった話を聞かない限りは憶測しかできないわ」

「そうだね。あ、そういえばさっき団長は私達に協力して欲しいと考えているみたいなこと言っていたけど、なんでそう思ったの?」


 騎士団本部に来る前のメリアスの発言の真意をハーリアは尋ねる。


「そうね……」


 メリアスは改めて部屋の中を見渡す。仮に誰かに聞かれていたとしても、現時点で考えられることを話すだけであるため、特に問題がある訳ではないが、念の為の確認をした。


「まず、さっきも言ったけれど、彼らの目的がハッキリしない以上はただの憶測に過ぎないわ」

「うん」

「その上で、どうして彼らが私達と協力関係を結びたいのか。一番ありそうな理由としては、やっぱり神法ね」

「私達の戦闘神法?」

「ええ。というより、ほぼ貴方のだけどね」


 ハーリアは騎士団員がある程度集まっても全く太刀打ちできなかった巨大な炎を一人で消火してしまった。

 神法のコントロールや細かい技術等は抜きにしても、その膨大なノイラド量と大規模な戦闘神法を扱える才能を考えれば、大きな戦力として引き入れたいと思うのは十分有り得る話だ。


「でも、戦力として引き入れたいのだとしても、向こうは私達のことなんて全然知らないんだよ? どんな企みがあるのか分からないけど、戦力になりそうだからというだけで見ず知らずの冒険者をいきなり仲間にしようとするかな?」

「だからこそ、こうやって私達を騎士団本部に連れてきたのよ。彼も私達を本当に仲間にするべきなのか、仲間にして問題はないかを探っている」

「そっか。そしたら私達は……」

「とりあえず話を聞いてからと言ったものの、こんな騎士団の中枢で協力者になるかならないかの選択を迫られたら、実質頷くことを強制されているようなものね」


 コスモプレトル騎士団の本部にエルドリクの目的を知っていて従う騎士団員がどれだけいるかは不明であるが、本部内のあらゆる場所にエルドリクの同志がいると想定して動かなければならず、逃げようものならどこから身柄を、最悪命を狙われるか分からない。


(殺されることはない。これも私の憶測に過ぎない。あんな大規模な事件に裏で関わっていたとしたら私達程度の命なんて気にしないかもしれない)


 メリアスの憶測はどちらかと言うと楽観的な思考に基づくものである。

 結局はエルドリクの話を聞かないと判断できないが、現状では外に出られない部屋の中でできることを最大限考えるしかない。


「それとハーリア、探知神法は使える?」

「うん、使えるよ。小さい生物まで探知するのは無理だけどね」


 探知神法は汎用神法の一つであり、全ての御使師が使える訳ではない。

 その名の通り、自身から一定範囲内の生物の居場所を探知して把握することのできる神法だが、その練度によって人間程度の大きさの生物しか探知できない者もいれば、小さな虫まで把握できる凄腕の御使師もいる。

 探知範囲に関しても、自身から半径数メートルしか探知できない者もいれば半径数十、数百メートル探知できる者もいる。

 

「ちなみにどれくらいの範囲?」

「ちゃんと測ったことはないけど、多分半径百メートルくらい?」

「流石ね。やっぱりノイラド量の多い御使師ほど範囲も広いのね」

「けど、探知神法なんて日常で使うような神法じゃないし、正直練度は低いし精度も結構悪いと思う。あんまり信用できないかも」

 

 探知神法のエキスパートとして仕事をしている者だったり、冒険者として危険な場所によく赴く者であれば使うことは多いが、普通はあまり使う必要のない神法である。

 ハーリアは一人でひっそりと冒険者として活動していたが、その中で探知神法が必要になるようなことはほとんどなかったため、精度に関しては心許ないのだ。


「別に大丈夫よ。この部屋から出ないで出来ることなんてこれくらいだから、一応周囲の確認をするだけよ」

「分かった。やってみるね」


 そうして二人は部屋の中でできることを行なった。

 何もせずに座っているだけでは気持ち的に沈んでしまうからということもあるが、少しでも騎士団本部について現状把握できることがあれば何かに役立つかもしれない。

 それから二時間程度経った頃、日が落ちてきて夜になろうとしていた。

 そんなタイミングで、ハーリアがなんとなしに何回目かの探知神法を発動すると、何かに気づいた。


「メリアス、誰か部屋に来ると思う」

「本当? エルドリクさん?」

「いや……」


 そこまで話したところで扉の鍵を開錠する音が聞こえ、扉が開いた。


「お前達、来い」


 そこにはエルドリクではなく、一人の騎士団員が立っていた。

 メリアスとハーリアは断ることはできない状況なため大人しく従って部屋を出た。

 そのまま先を歩く騎士団員に付いていくと、騎士団本部の敷地内にある大きな訓練場に着いた。


「これは……」


 その訓練場の真ん中にはエルドリクが立っており、周囲には二十名ほどの騎士団員もいる。


(エルドリクさんの同志があれだけとは考えにくいけど、騎士団の全員がエルドリクさんの同志という訳ではないかもしれないし、全員が同志かもしれない。コスモプレトル騎士団は大きい組織だし、その内部も一枚岩ではないでしょう。エルドリクさんの目的を知って対立している派閥とかあれば……)


 メリアスがそんな思考を巡らせていると、前に立つ騎士団員が催促する。


「早く来い」


 二人はそのまま進み、エルドリクの前で止まった。


「よう、不便はなかったか?」

「ええ、トイレに行きたくなった時にわざわざ女性団員を呼んでトイレの扉の前にまで付いてこられたのが不便というか不快でしたが」

「それはすまなかったな。まぁ、これから行う試験次第ではそんな待遇はなくなる」

「試験?」

 

 エルドリクは片手に木刀を持っている。そして場所は訓練場。試験という単語。

 これから何をするのかを想像することは容易だ。


「今から嬢ちゃん達にはうちの騎士団員と模擬戦をしてもらう」

「何故でしょうか」

「そりゃあ、しっかり実力を測りたいからだよ」

「知ってどうするのでしょうか」

「それは試験が終わってから話そう」


 これ以上は問い詰めても答えてくれないことを察し、メリアスは追求をやめた。

 そして状況的に、この試験を拒否することはできない。


「ハーリアがあの巨大な炎を消したところは見ているから、まずはメリアス、お前から見せもらおう。あの時は俺が邪魔しちまったからな」


 大教会広場に落ちてくる巨大な炎に隠れていた別の炎はメリアスが対処するはずだったが、エルドリクが介入したことでその必要は無くなった。

 そのためメリアスの実力がどの程度かをエルドリクは知らない。

 

(こちらの実力を測り、もしエルドリクさんの合格ラインを超えれば私達を引き入れようとするでしょう。だからここは実力を隠し、不合格になることで解放……はされないかもしれないけれど、監視付きとかである程度自由に動けるようになるかもしれない。ただ、ハーリアが……)


 ハーリアは後回しにされたが、恐らくエルドリクの中ではハーリアは既に合格ラインに達している。

 やはり、巨大な炎を一人で消したその実績は大きい。

 神法のコントロールも技術も関係なく、ただ思い切り戦闘神法を放つだけで強大すぎる戦力になるからだ。

 しかし、恐らくそれではハーリアだけ勧誘されることになり、例え拒否しても頷くまで監禁、軟禁等される可能性も考慮しなくてはならない。


(やはり、試験だけでなく、エルドリクさんからされるであろう勧誘も実質的にこちらに拒否権はないと考えるべき。であればハーリアを一人にすることはできない。けれど、実力の底は見せてはならない。絶妙に、向こうが求める合格ラインを少し越えればいい)


 メリアスは監禁、軟禁されたり、騎士団本部から無理矢理逃げ出さなければならないような状況を避ける方向で立ち回ることに決めた。

 少なくとも、エルドリク達の領域である騎士団本部内で敵対するような状況は明らかにリスクが高いことは確かだ。


「模擬戦は一対一で行う。武器は木刀。戦闘神法もアリだ」

「戦闘神法もですか?」

「戦闘において重要な要素はいくつかあるが、戦闘神法がその重要な要素に入らない訳ないだろう?」


 戦闘神法は文字通り、基本的に戦闘を行う際に使う神法である。

 狩りをする際、危険生物を討伐する際などに使うのであれば問題はないし、便利である。

 しかし、戦闘神法を人に対して使うのは訳が違う。街の安全、治安維持のために働く騎士団員は街中で起きた犯罪等の対処に回ることもあるが、そういった時に犯人に対して戦闘神法を使うことはある。

 だが、基本的に戦闘神法を生身の人間に当てたらただの怪我などでは済まない。実力者の一撃なら簡単にその命を奪えてしまえるものであり、未熟者の一撃ですらその命を奪うことは難しくない。


「戦闘神法を使った対人戦は危険です。それもコスモプレトル騎士団の団員と行うのであれば尚更」

「勿論、承知している。だが相手に合わせて手加減できるくらいにはうちのメンバーは訓練されている」


 メリアスは戦闘神法の禁止というルールに変えることはできないと早々に諦めた。


「では、勝敗はどうつけるのですか?」

「戦闘不能、もしくは負けを認めたらだ。審判は俺がする。ただ、俺がお前達の実力を見極められるまで戦ってもらう」

「なるほど」


 一度の戦いで終わらない可能性もあるということであり、あまり実力差が感じられない勝負での決着では見極められなかったとされるかもしれない。


(神法はできるだけ使いたくないけど、エルドリクさんの明確な合格ラインが分からない以上、ある程度の余裕を残すくらいで勝つ必要がありそうね。圧勝も辛勝もよろしくない) 


 するとエルドリクの後ろにいた一人の騎士団員が前に出てきた。


「では、こいつと戦ってもらう。戦闘神法は戦いが始まってから自分の目で確認することだな」

「お嬢さん、どうか安心してくれ。きちんと手加減はする」


 その騎士団員はメリアスを舐めているようで、自分が手加減をする側であると信じているようだ。

 しかし、神法がある世界で相手を見た目で判断するのは愚かとしか言いようがない。コスモプレトル騎士団という有名な騎士団に入ったことで慢心してしまったのかもしれない。


(真の実力者は相手を見ただけである程度その実力を察することができるもの。この人は私の実力については何も感じ取れていないようね。それであればやりやすい)


 メリアスは木刀をもらい、構える。

 相手の騎士団員も木刀を構えた。


「メリアス……」


 するとメリアスの後ろからハーリアの心配する声が聞こえてきた。

 そんなハーリアを安心させるようにメリアスは微笑みかける。


「よし、二人とも準備はいいな?」


 エルドリクの最終確認に二人は頷く。


「それでは……始め!」


 そしてメリアスとコスモプレトル騎士団団員との戦闘神法ありの模擬戦が始まった。


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