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災厄の救世主が紡ぐ異世界黙示変生  作者: ポルゼ
双層都市・王都アークツルスの表と裏
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第二王子・急襲

 フェンシェント王国の第二王子が世莉架達の前に現れた。


「彼はマリコム・アコメイル・フェンシェント。この国の第二王子で、確か私と同じ年齢だったはず。王族には王子と王女が何人かいるけど、その中で地味な方ではあるけどマリコム王子はとても優秀だって言われてるよ」

 

 ハーリアと同じく十六歳であり、王族の中でも優秀らしい王子が世莉架の前にいた。

 煌びやかではあるが上品さをしっかりと残した白を基調とする服を着ているが、どうやらそれは学校の制服のようだった。

 顔立ちは美しく、服装の煌びやかさに全く負けていない。茶髪がなびき、歩く姿はとても優雅である。

 世莉架からすると、接触できるのであれば接触してみたい相手ではある。

 しかし、相手は王族。下手に接触を図ろうものなら捕まる可能性もあり、まだまだフェンシェント、そしてアークツルスの理解が浅い世莉架としては迂闊には行動できない。

 

「王子は何故ここに? お祈りか何かかしら」

「まぁ、王族であっても普通の信者と同じように定期的に教会に来ているよ。フェンシェントにおけるトラリス教は大きな影響力を持つし、ほとんどの国民が入信しているんだから王族もしっかりトラリス教への敬虔深さを見せないとね」


 王族としての役割は様々だが、国民へのアピールというのは欠かせない。トラリス教の大教会が堂々と建っているようなフェンシェント王国では、王族から教会に出向くのは重要なことである。

 マリコムは周囲の人々に挨拶しながら大教会へ向かう。世莉架達は遠巻きに見ているだけだが、世莉架はマリコムとその周囲から得られる情報に集中した。

 マリコムの周囲のコスモプレトル騎士団の護衛で固められている。執事などの付き人も数人はいる。 

 世莉架の目から見ても、騎士団の護衛は優秀であることが分かった。周囲への警戒、立ち位置、隙の無さなど、しっかり護衛として役割を全うしている。仮にマリコムを襲撃しようと画策しても、並大抵の組織や人物では太刀打ちできないだろう。

 それでも、世莉架であれば容易く脇を通り抜けてマリコムの元まで行けるが、そんな方法を取らざるを得ない状況は避けたい。

 そんな観察を短い時間だが行ない、やがて三人はその場を去ろうとした。


「……?」


 その時、世莉架はふと、とある気配を感じた。

 時刻は午後三時程度。日はまだまだ高い位置にある。

 仕事や学校、それ以外にも様々な人々が精力的に活動している時間帯だ。


「二人とも」


 世莉架が談笑しながら前を歩くハーリアとメリアスに声をかける。


「どうしたの?」

「いや、このあと王城にでも……」


 世莉架がそこまで話した時だった。

 三人の近くに、何かが凄まじいスピードで過ぎ去っていった。


「え……?」


 二人はポカンとしている。しかし世莉架は確かにその目で追うことができた。


(槍……)


 その槍は真っ直ぐにマリコムの背後に迫っていた。

 周囲の人々は認知することもできていない。明らかに普通の人間ではできない投擲。

 しかし、マリコムのすぐ近くにいた騎士団の護衛の一人がその槍の前に立ち塞がった。


「ふんっ!」


 飛んできた槍と護衛の持っていた剣がぶつかり、甲高い金属音が聞こえる。

  

「……!?」


 それによってようやくマリコムを含め、周囲の人々も何かが起きていることを理解した。

 防げたとように見えたその槍だが、護衛の剣を弾き飛ばし、軌道を変えて女神アウストラリス像のすぐ横の地面に突き刺さった。


「っ……警戒!」


 マリコムに突き刺さるのをなんとか防いだ護衛が大きな声で言う。それに伴い、見事な動きで周囲の護衛達、執事達がマリコムを守るように動く。


「え、え、何?」


 ハーリアは目を丸くして騒ぎの方を見る。


「まさか、こんな白昼堂々王族の殺害を企む者がいるの……?」


 メリアスは比較的冷静だが、それでも驚きを隠せない様子だ。

 それに対し、世莉架は至って冷静にその状況を見つめていた。


(まだ、終わっていない)


 世莉架は槍が飛んできた方向を見る。大教会がアークツルスの中心に近いところにあるため、周囲には比較的高層の建物も多くある。

 飛んできた方向から考えて怪しそうな建物を見ると、世莉架はその常人離れした視力でいくつか動きを捉えた。


(窓から何かが動いているのが見えるうち、特に怪しそうなのは三つ。このうちのどれかは槍を投擲、いや何か機械を使った可能性もあるけれど、目的として王子を殺害しようとした可能性が高い。けど、あの建物だけとは限らない)


 世莉架がそう思った瞬間、別の場所から同じように槍が飛んでくる。

 今度は護衛達も身構えていたこともあり、大きな音を立ててその槍を正面から防ぐことに成功していた。

 しかし、それでも負担は大きそうだった。


「騎士団の人達でもあんな感じになるって、どれだけの威力なの……?」


 コスモプレトル騎士団の有名さや定評を知っているハーリアからすると、騎士団の面々が苦労するほどの威力というのは、この一連の明確な攻撃の殺意の高さを窺い知れる。

 

「至急、応援を頼んできてくれ!」


 護衛の一人がこの緊急事態に確実に対応するため、同じ騎士団の一人に応援を呼ぶよう頼んだ。


「待て、私のことだけでなく、他の民衆の無事も確保してくれ! 狙いは間違いなく私だろうが、先ほどの槍の威力からしても被害が周りに及ぶ可能性は十二分にある」

「はっ、承知いたしました」


 周囲の人々の中にはあまりの異常事態に固まってしまったり冷静さを失っていたりで動けなくなってしまっている者もいる。王族として、危険から国民の命を守る責務を全うするための指示である。

 しかし、そのために護衛がマリコムの周りから動き始めた時だった。

 

「は……」


 初めは小さな炎が、それがだんだんと渦を巻いて大きく広がり、やがて上空を巨大な炎が舞う。それは大教会の大きい広場くらいの範囲があり、その下で女神アウストラリス像が炎の光に照らされて幻想的に輝いていた。

 トラリス教の大教会にて王族への大規模な攻撃というのは、トラリス教と王族の両方に仇なす行為であり、犯人は見つかり次第極刑や終身刑はほぼ免れないだろう。


「なんという……これほどの……」


 上空を見上げ、マリコムは恐れた。相当な覚悟、相当な殺意が無ければ不可能と思えるような攻撃である。それほどまでに自身を消そうとする存在がいる事実を認識するというのは、命を狙われる可能性が高いことを理解している王族であっても恐怖でしかないだろう。

 

「この規模の神法……並の御使師じゃない……!」


 メリアスは上空に舞う巨大な炎を見て、その神法を扱っている御使師が只者ではないことを察した。

 このまま炎を広場に落とされると、その広場から炎が横に広がったり、建物に燃え移ったりして間違いなく大惨事

になる。


「これは……マリコム様、どうか我々の側から離れないで下さい」

「あ、あぁ。だが……」


 これは騎士団の護衛がいたところで防げない、そう確信に近いものがあるマリコムは自身ではどうすることもできないことに歯痒さと無力さを感じていた。

 そこで、世莉架が動いた。


「ハーリア、水の神法を使ってあれをどれくらい打ち消せる?」

「え!? えっと、今見える範囲だけだったらなんとかいけるかも? けど、大量に炎が追加されたりしたら規模によってはちょっと……」

「案外大丈夫そうね。もしかしたらこの場に貴方以外にも強力な水の神法を使える人がいるかもしれないけれど、とにかく今は貴方があれを消せる可能性が高い。メリアス、神法のことは私には分からないから、ハーリアをサポートできそうならしてあげてほしい」

「分かったわ。セリカは?」

「私は逃げ遅れている人たちの救助に行ってくる」

「了解!」


 突然巨大な炎を消すという重要な役割を任されたハーリアだが、無理だなんだと言っている場合ではないことは理解しているため、ハーリアは覚悟を決めた。

 メリアスは使える戦闘神法が火、風、光であるため、水の神法によるサポートはできない。しかし、ハーリアは水の戦闘神法だけに集中し、メリアスは仮に水で消しきれない炎があった場合に風の神法を使い、できるだけ炎を上空方向に吹き飛ばせるよう準備する。


「ハーリア、水が薄くなってもいいからとにかく広範囲に広げて。漏れた分は私がなんとかする」

「う、うん。お願いね」


 しかし、そう話をしている間に、ただでさえ巨大だった炎がより大きく広がっていくのが下から見えていた。


「あれはなんだ?」

「おい、どうなってる? あそこは大教会じゃないか!?」 

「ちょっと、離れるよ!」

「騎士団はどうしたんだ? 冒険者は?」


 その巨大な炎は規模が大きいが故に、少し離れた場所にいる人々には見えている。高層の建物にいる人々からすれば丸見えである。

 それによって街中は途端に恐怖と困惑の感情が伝播していく。


「緊急事態だ! 急げ!」


 騎士団も既に動き始めてはいるが、それでもその巨大な炎がいつ落とされるか分からない以上、既に手遅れの可能性がある。

 もし炎がそのまま落とされた場合、第二王子であるマリコムの命と大教会周辺が火の海に沈み、フェンシェントの歴史に永遠に残る惨劇となろう。

 まさかなんでもない日の日中にこんなことになるなどと、誰が想像できただろうか。

 そんな中、世莉架はとある場所に走っていた。

 世莉架は神法が使えない。そのため神法の使用に必要なノイラドも感じ取れない。もし非常にノイラドの感知に敏感な御使師であれば、炎の神法を使っている御使師の居場所を探ることができたかもしれない。

 しかし世莉架は、ノイラドを感じることができずとも今回の騒動の犯人の居場所候補を瞬時にいくつか割り出していたため、その場所へ向かう。

 最初と二本目の槍を飛ばしてきた建物に犯人がいる。そう考えるのが普通だろうが、世莉架はそこには今の巨大な炎を生み出している御使師はいないだろうと踏んでいた。


(そもそもがおかしい。もしマリコム王子を殺すことだけ考えていたのであれば、二本の槍など使わず最初から巨大な炎を生み出し、すぐに落としてしまえばいい。というか、こんな日中に、それも護衛がしっかりついている状態で攻撃を仕掛ける意味を考えると……)


 まさかアークツルスに来て早々こんな事態になるとは世莉架でも予想できるはずもない。

 起きていることは明らかに異常なことで、マリコム王子が助かったとしても歴史の一ページに刻まれるであろう事態だ。

 しかし世莉架はこれをある意味でチャンスだと捉えた。

 犯人は一人ではない。恐らく組織だが、その者たちが何者なのか、目的はマリコム王子殺害で確定なのかなど不明なことだらけだが、間違いなくアークツルスには何か暗いものが蠢いている。 

 双層都市でありながら一般人は入れない地下、そこを厳重に守る騎士団、煌びやかに見える地上部分。

 アークツルスの裏の部分を探ることは世莉架の求めている様々な答え、または答えに繋がるヒントになり得る可能性が高い。

 世莉架は犯人がいる可能性のある場所へ急いだ。


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