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残鳥

作者: 紺一色

苦しい。過呼吸が止まらない。

「ドク、ドク、ドク」

ゆっくりと深呼吸。

「スーハー、スーハー、スーハー、スーハー」

羽に傷を負った鳥、職を失い、家も無い人は・・・。


エピソード1<あのときの声>

職に就かず、安定した収入も確保できない人、その中に男はいた。そして、老いていくんだと、半分、人生を諦めかけている。かつて、一般企業に勤めていた男だったが、攻予電気は、当時だれもが就職したいランキングで1位を取ったところ。一番仲が良かった社長、攻予秀赤(ましよひでしゅ)さんが、会社の予算を全部、ギャンブルに使い果たしてしまったせいで、会社は倒産してしまうかもしれなかったが・・・。秘書の川戸奈かわとな紫穂さんによって、存続したが、会社の利益は上がらなかったので、長くは続かなかった。そして、川戸奈さんは自営業の”奈前(なまえ)不動産を立ち上げて、他の社員は、だれもが就職したいランキング2位の文成社に流れていった。ただ男は、どこにも再就職しないまま、時を過ぎている。そんなこんなで、渋谷のスクランブル交差点を徘徊していたら、あんぱんをもらった。食べた瞬間、美味しすぎて、体に衝撃が走り、地面に倒れ込み、そのまま時は過ぎていった・・・。聞こえた。「あんたはようやってくれた。あんたの望み通りにはできなかったけど。」聞き覚えのある声だ。


エピソード2<真実>

男は立ち上がった。誰もいない夜の街で。一口食べたあんぱんを持ちながら、また、徘徊しだした。男は自分が誰だか分からない。名前がわからない。どこで働いていたかは分かるのに、名前は分からないまま。だから、徘徊しながら名前を思い出す・・・。その時を待っている。また聞こえた。幻の声が、「あんたの望むとおりにはできなかったけど、これで許してもらえへん?」どういうことなんだろう。その時、突如、記憶が舞い戻ってきた。

「お母さん、僕は何をしたらいいの?」無邪気な子供の頃の発言だ。「好きなことをしなさい」きつい声が聞こえた。今度はすっかり背が伸びた時の発言が聞こえた。「お母さんのお望み通りにことは進んでます」「当然じゃない。あなたは私に尽くすべきなのよ」その瞬間頭の中が真っ白になって、会社の頃の記憶が消えた。


エピソード3<男は誰>

舞い戻ってきた記憶と、消えた記憶。これらには関係が何かあるのだろうか・・・。そんなことを考えながら、徘徊していた。

「僕がヤった」

頭の中で、突然聞こえた。その瞬間すべての記憶が舞い戻ってきた。

「僕は殺人鬼だ」


エピソード4<男の嘘>

僕は名前がわからないのではなく、わざと「HTLM-Distiny」という薬を飲んで、自分を忘れていただけだった。「HTLM-Distiny」何か一つのことを忘れられるのに二年かかる。けれど、そのまえに失敗が起きると薬の作用は消えてしまうものだった。だから、つまり、僕は「僕を忘れる」ことができなかった。そして、徘徊していたのは、警察に捕まるため。でも、僕は、僕を分からないから・・・。ずっと、無駄なことをしていた。秀赤さんをギャンブル漬けにし、最終的に追い込ませ、殺したのはこの僕だ。そして、川戸奈さんが、代わりに社長を務めていた時、利益が上がらなかったのは、僕が邪魔をしていたからだ。攻予電気の裏サイトに、悪口を書き込み、営業を悪化させた。何故、そんなことをする必要があったのか、それは、僕が「社長になりたかったから。」定年を迎えて、退職するはずだった、秀赤さんだったが、会社の見守り役として、残っていた。運命の日-次社長を決める日-秀赤さんは、川戸奈さんを選んだ。あまりにも憎かった。一番仲良くしていたのは、この僕だったから・・・。その日、秀赤さんに、話した。

「僕は辞めます。今までありがとうございました。」

「そうかい。」

「あんたはようやってくれた。あんたの望み通りにはできなかったけど。」

「許してもらえへん?」

「許さねぇ。あんたと俺の絆は、そんなもんだったんだな。」

その瞬間、僕はナイフを取り出して、心臓を思いっきり刺して、また、川戸奈さんも刺し殺し、外へと逃げ、通行者も刺し殺した・・・。そのあと、自分の疑いが晴れるように薬を飲み、ずっと生きてきた。だから、逃げ続けよう。と思った瞬間、後ろから手錠をかけられた。

「警察のものです。あなたを殺人罪で逮捕します。」手を振り払おうとしたが、もうそんな力はなく、サイレンとともに、「逃げ続けよう。」という気持ちはなくなった。そして、牢屋に入り、餓死した囚人たちを見て、残酷だ。と思って、自分もその後、窒息死した。


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