1.王立学院の卒業舞踏会
弓良十矢先生の企画、お題をフリーで募る「設定 投げて!」企画に参加したところ、柴野いずみ先生から「ジュスティーヌがアルフォンスに婚約破棄を突きつける話とかが読んでみたいな〜と思います」とリクエストいただいたので書いてみました!
弓良先生、柴野先生、ありがとうございました!
「王太子アルフォンス殿下、今宵こそ婚約破棄させていただきますわ!」
王立学院の卒業舞踏会。
着飾った卒業生に在学生、父兄らが集い、踊って飲んで喋って、宴もたけなわというところ。
そのハレの場で、王太子アルフォンスの婚約者、シャラントン公爵令嬢ジュスティーヌは、滑るようにフロアの中心に進み出ると、びしいっと王太子アルフォンスを指差して叫んだ。
「「「「「はいいいいいいい!?」」」」」
外見は金髪碧眼高身長の王道王子様タイプの美形だが、性格は駄犬系貴公子としか言いようがない甘えたなアルフォンスと、銀髪紫瞳のクール系美女で、素直シュール気味だが超有能なジュスティーヌは、お似合いのカップルだ。
学院でも、斜め上なバカップルぶりに当てられて、砂糖まみれになったモブ生徒が「風が語りかけます……甘い、甘すぎる」と謎のうわ言を漏らしながら虚脱しているのは日常茶飯事。
婚約破棄を突きつけられたアルフォンスだけでなく、周囲の生徒も、2人の様子を伝え聞いていた父兄達もぶったまげて腰を抜かす。
「ジュ、ジュスティーヌ……
なぜだ?
私が『顔はいい』と言われがちなポンコツ王太子だからか!?」
それなりに努力はしたが、結局下から数えた方が早い成績で卒業することになった王太子アルフォンスは、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
えぐえぐ泣いている。
だが、ぶっちぎりの首席で卒業したジュスティーヌはびしいっとアルフォンスを指した姿勢のまま動かない。
アルフォンスの侍従候補である、宰相ノアルスイユ侯爵の次男が進み出て、眼鏡をくいいーっと持ち上げた。
「ええと、これは……
誰かに脅迫されている的なアレなんでしょうか。
たとえば、全国少年少女魔導大会決勝戦のスタジアムに爆弾をしかけたぞ!婚約破棄を殿下に言い渡さないと爆発させるぞ!的な……」
ジュスティーヌは動かない。
「ぶぶー!」
ピンク髪の男爵令嬢ジュリエットが、ブザーがないので口で言った。
「だいたい、姫様なら脅迫犯をボコって終了じゃないですか」
胸元で腕をバッテンにしてみせる。
このジュリエット、入学当初はヒドインムーブをかまして、学院になかなかな波乱を巻き起こしたのだが、ジュスティーヌにさっくりボコられて改心、以後ジュスティーヌの舎弟としてひっついているのだ。
赤毛のガタイのよい男子生徒、騎士団長サン・フォン侯爵家の三男が勢い良く片手を上げた。
「いったん婚約を解消して、もう一度婚約を申し込んでほしいから!」
「あー……」
皆、アルフォンスがジュスティーヌと婚約した時のこと思い出した。
学院での魔獣討伐遠足の時、思いもかけないつよつよの魔獣に出くわしてヤバいことになっていたアルフォンスを、ジュスティーヌが華麗にファイアボールの連射で救出。
あまりの雄々しさに、泥と汗と涙でデロドロ状態のアルフォンスがスライディング土下座をキメて「結婚してくだちい!」と上ずった声で叫んでしまったのだ。
ま、ジュスティーヌも一人の乙女である。
やり直してほしいという気持ちは、ちょっとわからんでもない。
「「「「「あるあるあるある!!」」」」」
皆の後押しするような歓声に、アルフォンスも期待に満ちた顔でのっかる。
だが、ジュスティーヌは無情にも不動。
アルフォンスはがくりとうなだれた。
「ぶぶー! みたいですね……」
と、ここでシャラントン公爵家の養嗣子、ジュスティーヌの義理の弟である、腹黒ショタッ子枠のドニが進み出てきた。
「みんな何を言っている!
義姉上と僕が結婚するために決まっているだろ!?」
「「「「「ぶぶー!」」」」」
皆の声が揃った。
ドニ→ジュスティーヌの恋着っぷりが凄まじいことは名高いが、ジュスティーヌ→ドニはさっぱりだということもまた名高いのだ。
案の定、ジュスティーヌの反応はない。
「王家に嫁ぐのが厭になったからだ!
ジュスティーヌ、王家になど嫁がなくてよい!!
いや、結婚などしなくていい!
いつまでも、この父だけの娘でいてくれ!」
今度は「銀の獅子」とあだ名されるシャラントン公爵が、両手を大きく広げて咆哮する。
娘を嫁に出したくなさすぎる系の父兄達が、んだんだと頷いた。
ドニが「義姉上は僕のお嫁さんになるんだー!」と叫んで、公爵と盛大に揉め始める。
しかし反応はない。
「これはアレだな!
私の後宮に入るためだな!」
来賓のくせに、礼装の襟元を無駄に緩めて謎に肌見せしている、セクシー系黒髪褐色肌・エルメネイア帝国皇太子ファビアンがドヤ顔で言い出した。
「はぁ!?
姫様がアンタのとこになんか行くわけないっしょ!?」
ジュリエットがそれだけはないとキレる。
「なんだなんだ、嫉妬か?
お前も来ていいんだぞ?」
ククッと笑いながら、ファビアンは流し目でジュリエットを見やると、ばちーん☆とウインクしてみせた。
巻き込まれた令嬢達が、あまりのセクシーさにバタバタと倒れる。
だが、姫様命のジュリエットには効かない。
「悪役令嬢が婚約破棄されたらその場でかっさらおうと、隙あらば各国の王立学院の卒業舞踏会に紛れ込んでくる色魔皇太子め……!
ここは必殺!母さんキック!!」
ジュリエットは、ファビアンのあらぬところを忖度ナシで蹴り上げた。
ピンク髪ヒロインにのみ許される、最強最凶の技である。
無言でファビアンは崩れ落ち、滝のように冷や汗を流しながら背を丸めてのたうった。
「「「「「お、おう……」」」」」
アルフォンス以下、男性陣は怯えた顔になって目をそらした。
と、ここで、バーンと扉が開かれた。
「婚約破棄したんですって?
わたくしこそが、アルフォンス殿下と結ばれるべきであることが、ようやく地味色髪女にもわかったのね!」
金髪をてんこ盛りの縦ロールにし、ド派手な真紅のドレスをまとった、サン・ラザール公爵家のカタリナだ。
だが──