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婚約破棄されたけれど、どうでもよくなった

作者: 松林可純

 ついてない時はとことんついていない。

 思えば入学式の時、学園の馬車乗降用スロープの定位置へ停車させた馬車を降りようとすると、目の前を白馬が走り抜けた。そして「邪魔だ!」と怒鳴られた。

 その時にムカついたので、馬に乗っていた隣の席のバカと距離をとった。全力で距離をとったし、宿題の数学も間違った答えを提出用羊皮紙帳に書いておいて、お花摘みで席を外している間に勝手に写しているバカを放置し、提出寸前に1の桁を書き入れるようにした。


 お陰様で二年生の時は別のクラスだった。


 テストも全力で受けて特進クラスへ編入してしまうと、師事したい教師から外れてしまうので成績をコントロールし、その教師に放課後時間を作ってもらい、進みたい職種での知識と技術を磨き、資格取得に励み、その錬金術分野での巨匠である基礎魔法教師の弟子の立場を期間限定で取得したが、あのバカとベッタリ一緒だった。


 付き合ってもいないのにバカの愛妾(あいのどれい)と生徒達に認識され、バカの婚約者の目の敵にされる。


 知るかよボケ。


 基礎魔法教師もとい錬金術の師匠は、卒業生としての箔付けのためバカに高度な魔法を叩き込む。他の生徒ならそれなりにエリートとしてやっていけるのでそんな事はない。


 手取り足取り。赤ちゃんのご機嫌をとりつつオムツを交換し、真綿で優しく汚物を拭き取り、汗疹予防パウダーを優しく添付するが如く。ついでにオムツ交換作業中に顔面めがけて噴水されても笑顔で処理する聖母のごとく、たった一つの最高攻撃魔法をバカに伝授する師匠。


 目が白目になるしかない。


 そして顔の偏差値と公爵家の生まれしかエリート要素のないバカは、王宮騎士団へ入隊が推薦で決まった。

 鼻ほじり気分で「よかったな」でしかない。


 しかし、私が希望した辺境での錬金術師勤務は取り消され、王宮の魔導師として勤務する事にされた。


 なんでも他国に流れたら国の損失になるから王宮から出ずに、窓際部署で猫のブラッシングでもして過ごしてくれ。初任給から値上げと昇進は無しで。


 ふざけるなである。

 飼い殺しなんかにされたくない!


 そしてなぜか私は今、卒業式のステージの上で、してもいない婚約を破棄されている。


 卒業式に訪れた両親や王族、有力貴族と在校生がかたまる中、式進行に従い、卒業生の学園生活の思い出と感謝を短い言葉で述べる事なく唐突にバカによるしてもいない婚約破棄が始まったのだ。


 バカは婚約者である妖艶で大人びた侯爵令嬢を抱き寄せ、私に指をさして恍惚とした顔で冤罪を述べる。


 反論する気力を呼び戻す前に、真っ青な顔して泣いている師匠と国王陛下に抱きしめられて胸に頬をよせてすすり泣いている学園長が気になる。あの二人、やっぱりデキていたのか。


 王妃は真っ赤な顔して潤んだ瞳でハンカチを顔に当てている。


 どうりで王妃が懐妊しないでバカが暫定で王太子に繰り上げるわけだ。

 多分寝室では王と園長がラブラブしている時に王妃は、血走った目と荒い鼻息で刺繍を進めるような気がする。デバガメによる興奮して垂れた鼻血は、針を指に刺した事になるのだろう。


 あまりにも気力が削がれて妄想に走ってしまった。

 不愉快なあまり、バカが断罪という事で積み上げている私の存在しない悪行の数々より、王家の三角関係が気になる。


「よって貴様を婚約破棄した上で国外退去を言い渡す」

「即座に国境越えの手続きをしてくれるなら、今すぐ出ていきますけど」


 国王陛下と有力貴族が「ならん!」と叫んだらしいが、バラバラなのでなに言ってるかわからない。いや、理解すると都合が悪いから聞こえない事にする。


「外務卿今すぐ渡航手形を発行しろ」

「無茶苦茶言わないで頂きたい愚鈍公子。公子が生まれ変わる前から今すぐやり直していただくか、王妃が懐妊して頂けるなら手続きが可能ではありますが」


「ぐどん? そっかマーベラスでファビュラスな俺様を称える形容詞がぐどんか!」


 このバカは愚鈍どころか、マーベラスの意味もファビュラスの意味も絶対に理解していない。


 そんな事を反射的に思ったとたん、外務卿は、丸めた腰を師匠にトントンされていた。

 男性達の驚愕した表情を見るに、王妃陛下に股関の急所を蹴られたようだ。まあいいや。


「国外退去はならん! 彼女は猫のブラッシング係に内定している。余の命令でだ!

 お前が勝手にできる話ではない!」


 いや、国外退去でお願いしますよ。

 王宮勤務だとまたこのバカと遭遇するじゃん。


「伯父さんなに言ってるんですか?

 世界一かわいい俺様の命令ですよ」


「侯爵令嬢との婚姻は勝手にするがいいが!

 なんの権限もないくせに勝手で無責任かつ横暴な命令をするな!」


 この可愛らしさのかけらもない男前な顔立ちのバカと国王陛下は実に血族でしかない。横暴で理不尽なところは同じだ。


「えー、ここですんなり結婚を認められると、ドラマチックに結婚生活が盛り上がらないじゃないですかぁ」

「そうですわ。(わらわ)が悲劇の絶世の美少女姫として国民の尊敬と称賛が浴びせられないではございませんことよ」


 まずメリハリの効いたダイナマイトなボディラインに妖艶な大人の美貌とメイクで、自称美少女って侯爵令嬢は鏡を見た事あるのだろうか?


 とんでもないバカップルを思わず無視してしまい、外務卿と師匠の間に芽生えたナニかに【一目惚れ】という名を着けて現実逃避をしようかと思う。


「現実逃避してる間に迅速な国外退去の手続きもお願いします」


「だからお願いだからそれ止めて。

 三食昼寝とおやつ付き勤務だから。妃と同じエステマッサージと宰相のシマリスの餌やりも付け加えるし、観覧したいアイドルもできるだけ望みのままに招致して城内で興行させるし。やりたい研究も健康を害さない範囲で好きにしていいから。

 年俸と地位は大臣クラスだから最初からなにも変わらないけど、問題をおこしても余と宰相がなんとかするから、だからお願いだからこの国にいて!」


 ナイスミドルなおじ様国王陛下に泣きながら言われてもね。

 鼻水たらしたガチホモおじさんにときめくワケがない。所詮は学園長のパトロンだし。

 横恋慕は迷惑行為だし。


 しかし猫のブラッシングとシマリスの餌やりはやりたい気はする。


「うーん……」


「今ならマタタビが詰まった猫じゃらしを職場の備品として1人10本付け加えますわ」


 王妃陛下の低い声に、思わず王宮勤務を決めてしまった。




 そして二週間後。私の初勤務が始まった。


 窓際というか、庭園の眺望が素敵すぎるテラスで、のんびり専属侍女に用意してもらったトロピカルジュースを飲みながら、週刊誌で気になったゴシップ記事を読んでスクラップする作業を30分以内して、私の担当である白金の長毛種の美しすぎる猫であるティファ兄ぃちゃんの心の扉を全開にする(オープンハート)ブラッシングとシマリスのシマエナガちゃんの餌やりをやり終えたら、後は退勤も選択肢に含まれた自由時間。研究資材も使い放題。

 同じ部署の先輩達とはあまり交流がない。


 挨拶以外の交流が全くないけど。


 部署の責任者の魔導師長が半ギレになって、先輩達の口へ流動食のストローを入れたり、リゾットをスプーンで口に運んで食べさせたり、休憩時間に担当猫のティファ姉ちゃんや、ティファ弟くん達を膝の上に乗せて強制的に休憩させたり、研究のキリが良さそうなタイミングで睡眠魔法をかけて眠らせた上で、介護士隊に浴場へ連行させているのを傍観してしまうと、ああはなりたくないと思ってしまう。

 魔導師長の研究がスタイリッシュで着脱が簡単で横漏れと蒸れがない大人のオムツの開発なあたり、健常者なのに研究命な先輩達がトイレに行くのを食事や入浴や身支度のようにめんどくさがるのも時間の問題だろう。


 夕方の正規職員の退勤時間に、シマリスのシマエナガちゃんを迎えに来た私より1歳年上の宰相に、この事を愚痴ると笑っていた。


 私が可愛いからそんな事にならないと爽やかな美男は私と肩を並べて廊下を歩きながらクスクス笑う。国王の末弟なのに、卒業式で鼻水垂らして泣いていたホモに似てないな。

 同じ顔なんだけど。


 いつの間にか私の指に絡まる宰相の指が恥ずかしい。


「迷惑?」


 そう聞かれたけどそんな事はない。耳まで暑いけど。

「まさか」と応えた。


 宮廷から美しすぎてキラキラエフェクトと毛虫が大量に集るので、精神的視界魔法でモザイク処理された1本の木しか認識できない庭園に出ると、前近衛兵長で無敗神話の持ち主な王妃の低い怒号とバカの悲鳴が城壁に反射して二重に聞こえた気がする。気のせいという事にしておこう。

 ついでに王妃の性別詐称疑惑なんて思ってもいないし。うん。ホントに棒読みになるほど思ってないし。


「なぜ王妃の初級魔法のファイアでお漏らしを致しますの…これでは、(わらわ)が国民全てが羨む幸せなヒロインになれないではないですの。

 馬車一台の大きさ程度でしたら、ビンタ1発で消せますのに」


 バカの婚約者が暗い顔で木を蹴っている。

 宝石煌めく髪飾りで美しく結った頭に毛虫を次々と乗せ続けているバカの婚約者を、私は見ていない事にした。言っている事も、その威力のビンタなら各1辺がメートルの大理石の立体をも砕ける威力を出さないと、魔力無しの風圧で消えない事も私は知らない事にする。


 指を絡めた手繋ぎで私と宰相は敷地内の職員寮へ帰る。


 耳にビリビリする女の悲鳴なんて聞こえない。聞こえない。毛虫が嫌いなら毛虫育成中につき立ち入り禁止の看板を無視して木陰に行くなよ。


 何気ない会話が弾み寮室へついても、互いが名残惜しくて風呂とお花摘み以外の消灯までの時間は、一緒にいた。


 私は宰相との日々の会話を元にした国に必要な魔道具を開発する事で勤務中の自由時間を過ごし、正規職員の退勤時間にデートを兼ねて宰相と帰宅する。

 翌年宰相の彼と、シマリスのシマエナガちゃんと猫のティファ兄ぃちゃんと一緒に離宮で暮らす事になり、挙式から2年後、私は次期国王を身籠った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 日本語はそこまでおかしくないのに意味が取れない… それでも最後まで読んでしまった、なんというかパワーがすごい。 ええと、バカというのは王妃の子?で表向きは公爵家子息かなにかの地位を持ってお…
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