ネズミの壁
顔に当たる小さくても柔らかい感覚にこのまま浸りそうになるのをこらえて、起き上がると同時に衝撃と爆風を受けDr.ヘーゲルシュタインの胸へと顔を押し付けることとなった。
今度は逃がさないようにか、Dr.ヘーゲルシュタインに頭を押さえられてしまったが、その状況で周りを見渡してみると、『破壊者』とブリキの騎士が衝突していた。
ブリキの騎士馬に括り付けていたランスをいつの間にか装備しており、『破壊者』はその槍先へ拳を突き合せた状態で止まっていた。
「おいおい、危ないだろ?それとも俺とやるのか?」
すごく楽しそうな怖い笑顔をこちらに向けてくる。
「ち、違いますよ。みんなの後を追ったらたまたまこうなっただけです」
「その割には楽しそうなことしてるじゃないか」
こちらを獲物を見るような目で見てきた『破壊者』が飛び掛かってきた。
いきなりのことにガードを取ろうとして腕を動かしたが、Dr.ヘーゲルシュタインに密着していたので、抱き着く形となってしまった。
まずいと思い目をつぶると、後方で爆発音が響いていた。
「せっかく生き埋めにしてきた『ラット』を引き連れてくるなんて、楽しいことしてくれるじゃないか」
声の方を見てみると、『破壊者』は地面に拳を突き立てることで、放射線状に爆風を飛ばし拳大の生き物を吹き飛ばしていた。
「この階層は獣型15種の『ラット』です。普通のネズミと同じ大きさなのに、繁殖するのではなく1秒間に1度分裂する厄介な相手です。分裂のスピードよりも速くこちらが攻撃すればいいのですが、『ラット』は際限なく分裂するため、一度殲滅スピードを超えて増殖されると二度と巻き返しは無理です。そのため、瓦礫に埋めてその間に突破していたのですが、死体が残らないのも考え物ですね」
遠藤さんが、慰めながら説明してくれたことでどういう状態かを認識しやらかしてしまったことに気が付いた。
念入りに攻撃を行い、生き残りがいないことを確認し終えた『破壊者』が戻ってきたので謝罪を行った。
「すみませんでした。知らなかったとはいえ余計な仕事を押し付けてしまって」
「私からも謝ります。気が付かなかったとはいえ余計な手間を取らせてしまって」
「ん?ああ、いいよ。さっき怒ったのは本気で攻撃されたと思ったからだし、どうせ『不器用』スキルの影響でも受けたんだろうな。今回ダンジョンに入って特にスキルの影響を受けた様子もなかったからな」
「本当にすみませんでした。そう言っていただけるとありがたいです」
特に気にした様子もなく先頭に立って攻略を進めていく。
今回は先ほどのことがないように、器用にソリが通れるくらいの隙間を開けて壁を破壊しながら先に進んで行った。
この階層の『ラット』はなかなかにしぶとく、1匹を見つけると津波のような数が襲ってくることもあり、破壊者だけでなく全員で対処に当たらざる負えないこともあった。
最初に見つけたのは田中さんだった。
田中さんは無言でレーザー銃で攻撃を行い手早く討伐を行った。
その時には『破壊者』が壁を爆破するタイミングであったために通常時であれば角から通路を埋め尽くす量のネズミの音に気が付いたのであろうが、爆破の音でかき消されてた。
『破壊者』もソリが通れるように道を作りながらの破壊に慎重に行っており、いつもなら気が付くのに今回は気が付くのが遅れてしまった。
それでも角から出てきた『ラット』にすぐに対応して攻撃を行ったが、一瞬押し戻す程度でしかなく、すぐに元より多くなる『ラット』に対応が遅れて始めてしまった。
更に大群の中から離れた『ラット』が足元で増殖し始めると、田中さんや遠藤さんだけでなくブリキの騎士ですら対応しきれなくなってきた。
「遠藤さん次階層の階段はまだですか?」
「この通路を真っ直ぐです」
「私が先陣を切りますので続いてください」
ブリキの騎士を動かし『ラット』の群れを切り裂きながら走り始めた。
進むごとに『ラット』により通路が埋まっていく様子があまりにも恐ろしく、後ろを振り向かずに突き進みそのまま6階層へと飛び込んだ。
何とか次階層到着したので全員で安堵したが、『ラット』の対応をしているときに時間をだいぶ食っていたのか5階層の攻略に1時間を要していた。




