契約はお早めに
昨日のダンジョンウォーカーとの契約決裂からすぐその日の夕方に会社に連絡が入り、元議員さんは免職になり、新しく人が会社のほうに出向いてくると伝達があった。
そして、今日お昼過ぎに現れることになっているダンジョンウォーカーの担当者とダンジョンウォーカーの担当弁護士を待つ間弁護士と社長を交えて雑談をしていたところある話題を弁護士がふってきた。
「そういえば、5号警備を行う者に対するクレームが入ってるの知ってますか?」
「クレームですか?私どもの会社には特に来てませんが」
「それがダンジョンウォーカーや警察に対して入ってるみたいでして。先日一斉に5号警備を行う警備会社にダンジョンを開放したときに、長物をもって電車等の公共交通機関で移動していた警備員が刃の部分はさすがに覆っていたようですが、柄の部分などはそのままだったために通報騒ぎにもなったみたいでです。その件で無視をできないほどのクレームとなっており、今後専用ケースをとの話し合いが行われているそうです」
「それは、なんというかそこまで考えなしのところもあるのですね」
「どうしようもない会社はどこにでも転がっているから仕方ないにしても、皺寄せがこちらに来るのはどうにかしてほしいとこだがな」
社長がため息を吐いたところで、ノックの音が聞こえた。社長が入るように促すと、事務のおばちゃんが来客を部屋へと案内してきた。
あいさつを簡単に済ませて本題に入ろうとしたところ、ダンジョンウォーカーの代表者がいい意味でも悪い意味でも日本国民なら名前を聞いたことのある人物で驚くこととなった。
「私はダンジョンウォーカーの新たな代表となった『市村』といいます」
顔を見たときにまさかと思ったが、名前を聞いて確信に変わることとなったこの人物はダンジョンが現れる前に首相を務め、小説の中でしか書かれていないことに対して、隣国に謝罪を行ったことで有名となった人物である。
「今回申し訳なかった。まさかあんなことをしでかすとは送り出した私ですら驚いている。今回の不祥事を重く受け止めて免職としたので、もう一度契約を結んでもらいたい」
「わかりました。契約を結ばせてもらいますが、前回みたいな追加の部分が出てきたりしませんよね」
代表が話始める前に弁護士が慌てて割り込んで説明を行った。
「ぜ、前回見てもらった内容と同じとなっております。この契約書に新たに加わった部分も減らされた部分もありません」
「わかりました。安藤さん大丈夫ですか?」
「はい、ここにサインをすればいいんですか?印鑑は?」
「印鑑は必要ありません」
「これで契約成立となります」
書き終わったところで、もう一度ノック音が鳴り、事務のおばちゃんが全員分のお茶と茶菓子を持ってきた。
「わざわざ、契約書のためだけにお越しいただきありがとうございました。時間がお有りでしたらぜひと茶でも召し上がってください」
社長がいつもよりへりくだった態度で元首相にお茶を進める。
その後、元首相のありがたいお話を2時間みっちりと次の予定に間に合うようにと切り上げるまで聞くこととなった。
そこまで、話をするとは思ってなかった社長は後悔で、私と弁護士は疲れでぐったりとソファーに沈むこととなった。
1章終了まであと少し




