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お子ちゃん先生  作者: いけも
9/12

⑨お子ちゃん先生、ミャンマーに飛ぶ

 グループホーム「ほのぼの」にはミャンマーから技能実習生が三名来ている。とてもまじめで目がきれいな青年たちである。一人目はムング君(二十三歳)、日本人のような顔をしたイケメンである。性格は大人しい。

 二人目はサイ君(十九歳)、ミャンマー系の顔立ちで彼もイケメンである。性格は明るくて人懐っこい。

 三人目はネイさん(二十二歳)、色黒の目の大きい可愛い女性である。

 彼たちはミャンマーの日本語学校で日本語を学び、日本語能力試験四級の資格を取得し、日本にやってきたのだ。


 約二年前の事である。お子ちゃん先生はミャンマーに飛び立った。採用面接のためだ。

 法人内の管理者一名、他法人の部長、事務長の七名で見知らぬ土地に飛び立ったのだ。

 女性はお子ちゃん先生一人。不安を抱え、羽田空港へ、集合場所に着いた。お子ちゃん先生の不安は、ある男性を見て吹っ飛んだ。それどころか、不安が“ときめき”に変わった。

 他法人の部長、塚野を見てときめいたのだ。ナイスミドルで英語も堪能。お子ちゃん先生のタイプである。

お子ちゃん先生、慌てて化粧室へ。もちろん化粧直しだ。法人内の管理者、佐伯慎吾(四十二歳)がお子ちゃん先生の顔を見ると、

「どうしたんすか? 顔真っ白ですよ。口は人喰ったみたいに真っ赤ですよ」

 何と塚野の前で大きな声を上げた。この佐伯は場が読めない男である。

 機内で食事が配られた。同行した皆とミャンマーの話をしていると、「うわ~、機内食。僕、はじめてなんですよ」と写真を撮りまくる佐伯。お子ちゃん先生の小さい体がなおいっそう小さくなり、これからの三泊四日を考えるとため息が出るのであった。

 これが、新婚旅行であれば、“羽田空港離婚”確実であったと、お子ちゃん先生は今でも思っている。


 空港に着くと、うだるような暑さ。

四十度の気温と香草の香りが七名を迎えてくれた。

 宿泊するホテルに着き、その後日本学校を見学した。生徒二百名いるらしいが、その日は五十名ほどの学生たちが日本語を学んでいた。皆真剣な目で講師の話しを聞いていた。

(明日は面接だ。何を聞こう?)

研修生たちに期待しながら日本語学校をあとにした。

 二日目、お子ちゃん先生と佐伯は二十名を面接した。

 もちろん、日本語である。正直片言であったが、通訳を入れて何とか全員の面接が終わった。お子ちゃん先生は面接した二十名全員を連れて帰りたかった。しかし、法人で決められた人数はたったの十名。お子ちゃん先生は悩んだ。すごく悩んだ。悩んだ末、ムング君、サイ君、ネイさん他七名と契約を結んだ。

 翌日、契約した研修生の家を訪問した。いわゆる家庭訪問みたいなものだ。現在の生活を自分の目で見たかった。お子ちゃん先生は驚いた。

 掘建て小屋のような六畳一間に家族六人が住んでいたのだ。トイレも無い、入浴の習慣も無い。家の前の濁った川で洗濯をするという。

 本当に不衛生な生活である。食事も粗末。入国する前に健康診断を行ったのだが、十名中六名が栄養失調。皆やせ細っていたので心配していたが、まさか六名も栄養失調とは。

 不幸中の幸いで栄養失調以外の問題になるような大きな病気は持っていなかった。安堵した。

 お子ちゃん先生は胸をなでおろし、研修生の入国を楽しみに準備を進めていた。

 

 半年後、研修生十名が日本にやって来た。待ちに待った入国の日だ。お子ちゃん先生は佐伯と一緒に空港で研修生を出迎えた。しかし、一か月は受け入れ先機関で研修を行い、日本語、文化の違い、ごみの文別まで教えてもらうのだ。

 入国したのは一月初旬であったが、グループホームほのぼのにやって来たのは二月初旬の大雪の日であった。研修生たちがこの寒さに耐えられるのか心配していたが、初めて見る雪に興奮状態、口を開け雪を口の中に入れた。

「冷たいっ」

 一面、銀世界の景色を見ながら、大はしゃぎであった。

 

 月日が経つのも早いもので、あれから二年の月日が過ぎ去ろうとしている。日本語も徐々に上達し、夜勤も一人でこなしている。記録もすべて日本語である。心配していた栄養失調は改善出来、四名が何とBMI二十五パーセントを超える肥満だ。日本食はおいしいと言う。特に鳥の唐揚げと焼きそばが好きなようだ。

 四季を感じ日本の文化に触れ、ますます成長していく研修生たち。日本語能力試験も三級を取得する事ができた。次の目標は国家資格である介護福祉士取得である。給料日になると、全員が家族へ送金している。異国で家族の為に、頑張っている研修生たちを見ると頭が下がる思いだ。思わず、研修生を抱きしめていた。



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