⑤サヤノばあちゃん
「何しよるんぞ、はよう誰か来てくれや。勘弁してくれや」
和男じいちゃんの声である。
ベッドの上でまっ裸にされ震えている和男じいちゃん。外は雪がちらついており、冬景色である。なんと、サヤノばあちゃんが冷たいタオルで、和男じいちゃんの身体を拭いているではないか。
「サヤノばあちゃん、何しよるが」
お子ちゃん先生が声をかける。
「体を拭きよるがよ。今日は私が当番やけん」
サヤノばあちゃんは七十四歳、足腰はしっかりしており、目が離せない利用者である。サヤノばあちゃんは六十四歳の定年退職まで特別養護老人ホームで働いていた。雰囲気でホームが介護施設と分かったのか、施設に仕事に来ていると勘違いしているのだ。目を離すと、一日中介護の仕事をしている。
休んでいる利用者を起こし、シーツ交換を始めたり、リネン室を開け物品を取り出したりと後片付けが大変である。元気な頃の生活習慣が残っているのである。サヤノばあちゃんに聞いてみた。
「サヤノばあちゃん、よう働くな。給料、なんぼもらいよるが?」
すると、
「ここの先生はケチやけん、少ないわい。子供が三人おるんよ、働かないけんのよ」
と答える。
サヤノばあちゃんは自分の事を何歳だと思っているのであろう。夕方になると、「はよう家に帰らんといけん。子供らが、学校から帰って来る。ご飯が待ちよる」とソワソワとホーム内を歩き出す。
夕方、毎日のように帰宅願望が入り、忙しい夕暮れ時に職員を泣かせるサヤノばあちゃんである。