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お子ちゃん先生  作者: いけも
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④近藤先生とお子ちゃん先生

 顔は外国人のように目鼻立ちの整った近藤先生がいる。年齢は八十八歳。職歴は医者である。唯一、お子ちゃん先生事を“ちいママ”と呼ぶ利用者である。お子ちゃん先生、また聞いてみた。

「近藤先生。みんな私のこと、お子ちゃん先生と呼ぶのに、何でちいママなん?」

 すると、

「貴女は大人ですよ。子供さんもいらっしゃるでしょう? 体は小さいから、だからちいママなんですよ」

 近藤先生は答えた。お子ちゃん先生は笑ってしまった。

(また、“ちい”が付くんだ……)

 

 近藤先生を“先生”と呼ぶのは本人の意向である。内科医であった為かプライドが高く、利用者のバイタルチェックをしていると、必ず横に立ち指示を出す。

「血圧が高いね、お薬を処方します」

「あなた、足がむくんでますね。しっかり足の運動をしないといけませんね」

 主治医の往診時、片時も離れず横に立ち、利用者を診察している。主治医と同じ見立てにびっくりする。

「君、この患者さんをどう思いますか?」

 主治医に対しても、こんな調子である。

 

 この近藤先生、医療においてはいくぶん記憶が残っているのだが、家族の事は分からない。家族が面会に来ると、

「この人は誰ですか? 親し気に話しかけてきますが、私の知らない人ですよ。困った人ですね」

 といった調子である。長男も医者であり。同市内の総合病院の内科医である。医者であるからこそ“認知症”を理解しているはずだ。しかし、“患者”と“父親”は別のようだ。


 ある日、近藤先生の居室からこんな親子の会話が聞こえてきた。

「親父、僕の顔が分からんの? 困ったもんやな」

「何でこんな事も出来んの。アホになってしもうて、まじ面倒臭いわ」

 その言葉を聞きながら、お子ちゃん先生は思った。医者だからこそ、認知症の周辺症状は理解している。しかし、尊敬している父親と認知症を結び付けたくないのだ。父親が壊れていく姿を見たくないのだ。

 お子ちゃん先生はその気持ちが手に取るように分かるので、何も言えなかった。

 お子ちゃん先生は近藤先生をかばってあげる事が出来ず、心の中で「近藤先生、ごめんなさい」と呟き、その場を離れた。

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