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お子ちゃん先生  作者: いけも
3/12

③茂子ばあちゃんと吉岡君

 グループホームには運営理念があり、利用者一人ひとりを尊重し尊厳を守らなければならない。接遇は大切だけれども、丁寧語での会話は利用者との距離が遠のき、会話が成り立たない時がある。お子ちゃん先生はあえて方言を使い、家庭で呼ばれていた“じいちゃん”“ばあちゃん”と呼ぶ事にした。もちろん家族も納得の上ででだ。


 ある日の事。

「だれか、だれか、来てくださ~い‼」

 ホーム中、ひびきわたる大きな声。新人職員の吉岡健太(二十三歳)の声である。お子ちゃん先生、慌てて声の方に行ってみた。

 茂子ばあちゃんの部屋である。

茂子ばあちゃん、なんと体中便だらけ。

「まいった」

 ベッド、床に壁、どこから手をつけたらいいのか、頭の中は真っ白。便を両手に持ち、なにくわぬ顔で食べている。

「やめて~」

「病気になるけん、やめようや」

 新人職員、吉岡パニック。初めての経験である。

「茂子ばあちゃん汚い、勘弁してやっ」

 強い口調で叱りつけている。職員三人がゴミ袋を防護服代わりに身に着ける。車椅子に乗せ、浴室へ。先ず、口腔ケア、義歯を取り外しブラッシング、口腔内はガーゼで便を取り除く。次に体を洗い、爪の中の便取りが始まる。つま楊枝を使い、丁寧に取り除く。

茂子ばあちゃんは、じっとしていない。拒否が強く、職員の髪を引っ張る、噛みつく。そのたびに職員の体に便が付く。職員には一番苦手な茂子ばあちゃんの問題行動である。


 こういった便いじりを専門用語で『ろう便』という。厄介な問題行動だ。この問題行動は職員のストレスとなり、やがて離職につながる。

 

 落ち着いた頃、お子ちゃん先生は吉岡を施設長室に呼んだ。

「吉岡君、さっきは大変やったな。初めてやけんびっくりしたよな。ストレスでな。茂子ばあちゃんは病気でこの施設に入ってきたんよ、分かるやろう? 怒りたい気持ちは分かる。……でもな、これが茂子ばあちゃんの病気。病気なんよ、理解してあげようや」

 吉岡の顔は曇っていた。お子ちゃん先生はカラオケ大好きな吉岡に、

「吉岡君、今日はしんどかったな。美味しい物でも食べて、思いきっり歌でも歌わんかい?」

 と誘ってみた。

 好香の顔が少し明るくなった。当日勤務者と三人で焼肉を食べ、カラオケに行った。お子ちゃん先生は演歌、吉岡は韓国のアイドルグループのヒット曲に合わせ、「ウンコ、ウンコ、好きになれないウンコ」と昼間のうっぷんを晴らすかのように大きな声で歌っていた。少しは気分が晴れたのか、昼間とは違う顔が、笑顔が見えた。


 これも、お子ちゃん先生の仕事の一つである。職員のストレスを軽減するための工夫や環境作りに取り組まなければならない。また、利用者の問題行動で不適切なケアや虐待が見過ごされる事がないよう注意を払う必要もあるのだ。職員のストレスについて、日々悩んでいるお子ちゃん先生である。





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