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プロローグ

転生者が一人でもいたら、バタフライ効果で、内容って変わるよね。

 クソッ。なぜ勝てない。僕も優秀なはずなのに。凄い筈なのに。

 そんな益体の無いことを考えながら、不貞腐れていると、僕に声をかけられた。


「あなたどうしたの?具合が悪いの?」


 茶髪を肩まで伸ばした、黄色いドレスで着飾った同い年の少女が話掛けてきた。


「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう。」


「そうなの?だったら、余裕溢れる笑顔を作らなきゃ駄目だよ。私達は、子供だけど貴族なんだから。」


 少女は、そう言って、他の子供達が集まっている方へ去って行った。

 彼女は、落ち着いていて、同い年の筈なのに大人に見えた。

 そうだ、忘れていた。僕も彼女に見習い、知り合いを増やしに行かないと。



***



 パーティーが終わって、迎いの馬車が来た。

 馬車に乗りながら、さっきの少女を思い出していた。

 僕は、確かにあの時、呆然としていたけど。初対面の少女に心配されるような程に気落ちしていただろうか?

 それに、貴族だから余裕溢れる笑顔か…

 衝撃的だった。『女性は、髪こそが命である。』と知った時ぐらい衝撃的であった。

 それぐらいの知識(ポーカーフェイス)はあった。言われるまでも無かった。無い筈だった。


 思えば、何時も兄や父様は、余裕に見えた。

 実際余裕綽々だったかも知れないが、余裕があり、優美であり、周囲の評価を気にしていない風に見えた…ような気がする。


 対して、僕は兄に何時も劣等感を抱き、兄を越えようと努力し続けていた。


 その結果、常に余裕の無い僕は、周囲から滑稽に見えたのだろうか。



 あぁ、そうか思い出した。全て思い出した。


 なんで、兄に劣等感を抱いたのかを。

 

 始めは憧れだった…と思う。…気がする。


 兄は、冷静沈着で何時も余裕があり、何でも卒なく熟した。あの時の僕じゃ、その全てが難しくて、出来なかった。


 自分じゃ出来ない事が出来る兄が羨ましかった。それに、兄に教えて貰ったり、遊んでもらうのは楽しかった。


 そのままだったら、よかった。

 でも、ある時、気になってしまった。気にしないでいれば、もっと楽しかったかもしれない。


 兄と僕どちらが、本当は優秀なのか。


 その時の僕は、多分傲っていた。

 まだ、ほとんど生きていない人生で最も、そして初めて、傲っていた。

 調子に乗っていた。全能感に酔いしれていた。控えめに言って、最高の気分だった。


 あの日、勉強の家庭教師から頭が良いと絶賛された。テストの出来が良かったらしい。それに、魔力も一般的な人の何倍もある、と前日の魔力測定の日に言われて、舞い上がっていた。


 だから、夕食のときに父様に尋ねてしまった。どちらが優秀なのか。誰も比べて無いし、誰も得しない、なんの意味もない問いだった。今となってはそう思う。


 父様は、何も言わなかった。母様も、何も言わなかった。そう言えば、あの時、気にしていなかったが、初めて兄の顔が余裕の表情以外になっていた。

 

 結局僕は何も聞けず、不満を募らせるだけだった。当然だ。全能感溢れ、自信が迸る程漲っていた僕だ。あの兄でも、僕と同じ歳だったら、僕の圧勝だと思っていた。


 その日の夜中に僕の部屋に父様が入ってきて、叩き起こされた。

 何事も無かったかの様に父様は、赤ら顔で、僕に言った。

 ぶっちゃけた。必要無い事までぶっちゃけた。

 あの時まだ5歳の息子にする仕打ちじゃない。絶対に!まして、無理やり起こしてする話じゃない!


「チェースは、確かに凄い。親の贔屓目無しにちょー凄い。めっちゃヤバい。俺の若い頃に居たら、凄い目立つぐらい才能がある。絶対にモテモテだった。」


「でもな、今だとそうでもない。そんなに凄くはない。確かに才能はあるが、俺が知ってる情報から評価すると、上の下ぐらいかな。多分。いや、凄くはあるんだけどね。俺の若い頃じゃ信じられないぐらい天才が多くてね。今みたいに調子に乗っていると、恥を書くと思ってね。心を鬼にして、教えてあげないといけないと思った。」


「因みに、アレッサンドロは凄いよ。さっきの評価で言うと上の上はあるね。夕食の時に聞いてきたじゃん?どっちが優秀かって。断トツで、アレッサンドロだと思う。だって、今日、あの家庭教師が褒めてたテストあるじゃん。あれさ、アレッサンドロはチェースよりも1歳若くて解けてたよ。しかも満点だった。それに、礼儀作法の所まで勉強範囲が終わってたかな。加えて弟の世話までするような、優しさと気遣いが出来ていてめっちゃ凄いし、優秀!」


「だから、どっちが優秀とか気にしないほうがいいよ。まぁ、なんだ、チェースが優秀じゃなくても、愛してるからな!」


 一方的に話して満足したのか、部屋を出ていった。

 多分酔って居たんだろう。フラフラしてたし、ずっとヘラヘラ笑いながら話をしていたし。それに父様は今の会話を完全に忘れていたし。 

 


 こうして、僕は兄に対して劣等感を抱くようになった。

 あまりの自分のバカさ加減に、羞恥心を刺激されて、家族に会わす顔がない。

 特に兄に対して、あんなに良くしてもらったのに、感じ悪く当たってしまい、申し訳なさがどんどん大きくなっていくように感じる。

 

 落ち着いて、冷静になれば。こんなことだったのか。酔っ払いの戯言を真に受けてしまっていた。


 馬車がいつの間にか屋敷(うち)についていた。


 明日、この3年間、兄にした酷いことを詫びよう。そして、父様を殴ろう。


 そう心に決めて眠った。


 

 

読んでくださりありがとうございます。

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