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第十六章『和解(三)』

 叩頭を繰り返す玄豹ゲンヒョウ龍珠リュウジュは優しく抱え起こした。

 

「もういいよ、姉さん」

「龍珠……」

 

 眼を腫らしている玄豹にうなずいて見せた龍珠は、内功を用いて地面に穴を掘り始めた。

 

「龍珠……?」

「この人たちの墓だよ」

「こんな奴らを埋葬しようって言うの?」

 

 危うく両腕を斬られそうになった上に、痘痕あばたをからかわれた玄豹は不快感を露わにした。

 

「確かにこの二人は私利私欲で兄弟子あにでしを殺すような下衆な奴らだったけど、このって人は師門の掟やめいを忠実に守っていたように思うんだ」

「…………」

「それに、玄武派の門人にこの人たちの屍体が見つかるのもマズいと思ってね」

 

 龍珠の言う通り、馬たちの屍体が見つかれば、この付近に玄冥派が居ると知られてしまうだろう。

 

「……分かったわ、私も手伝う。でも————」

「姉さん?」

 

 玄豹は馬たちの懐を探って、三つの玄武牌を取り出した。

 

「氷漬けにした男からは取れないけど、この三つは貰っていきましょう」

「姉さん、それは————」

 

 玄舟ゲンシュウが玄武牌を集めるように命じたのは、師門を抜けた際の逆恨みだろうと思われる。玄舟を仇と思い出した龍珠は、とうに牌を集めることを放棄していたが、玄豹にとっては必要な物であると思い直し、続く言葉を飲み込んだ。

 

「……そうだね、この人たちには悪いけど貰っておこう」

 

 龍珠は手を合わせて、玄武派四人の屍体を埋葬した。

 

 

 

 ————埋葬を終えた龍珠に玄豹がおずおずと話し掛ける。

 

「……龍珠、これからどうするの……?」

「決まってるさ、崔玄舟サイゲンシュウにおじさんとおばさんの行方ゆくえを問い質す……!」

「……あの人たちなら、『氷鏡廊ひょうきょうろう』の奥で氷漬けになっているわ……」

「————本当なのか⁉︎」

 

 龍珠は血相を変えて玄豹の肩を掴んだ。

 

「え、ええ……。あいつに命じられて私たちが運んだんだもの」

「やっぱり、おじさんとおばさんは氷鏡廊に……‼︎」

 

 龍珠は感激でしばらく眼を輝かせていたが、ふと何かに気付いた様子でつぶやいた。

 

「……でも、どうして玄舟はわざわざ氷鏡廊に運ばせたんだろう……?」

「最初、玄舟はあの人たちの身体を砕こうとしていたけど、どうしても砕くことが出来なかったの。多分、あの家に氷漬けのまま残していくのが不安だったのよ。だから自分の手元に置いておこうと考えたはずよ」

「そうだったのか……! そうと分かったら早く行かなきゃ……!」

 

 氷鏡廊に向けて歩き出した龍珠を玄豹が呼び止めた。

 

「————待って、龍珠。私も行くわ」

「え……?」

「私もあなたについて行く」

 

 玄豹は真摯な表情で言い切った。

 

「……俺はあなたの師父を倒すつもりだよ……⁉︎」

「あいつを師父だなんて思ったことは無いわ……!」

 

 そう口にする玄豹の眼に憎しみの色が宿る。


「……あいつは十年前、私の家族を殺したのよ……‼︎」

「————なんだって……⁉︎」

 

 信じられないと言った様子で、龍珠が眼を見開いた。

 

「……十年前の吹雪の夜、あいつは玄狼ゲンロウ師兄と玄豺ゲンサイ玄貂ゲンチョウを伴って、私の家に一晩の宿を求めて来たの。両親は快く応じたわ。でも、あいつの目的は食料と金品を奪い取ることだったのよ……!」

「…………」

 

 龍珠は五年前の出来事を思い出していた。あの時も玄舟は伯母おばの実家を無断で占拠していた。まさか玄武派ゆかりの者が強盗の真似事をしていたとは。

 

「……でも、どうして姉さんは無事だったんだい? その場にはいなかったのか……?」

「いいえ、いたわ。それどころか私の眼の前で殺されたのよ……両親はおろか、当時五歳だった弟までも……‼︎」

「……なんて、奴だ……っ‼︎」

 

 義憤で拳を震わす龍珠に感謝するように玄豹はうなずいた。

 

「私はその時の衝撃で記憶を失っていたの。玄貂は私も殺すように玄舟に言っていたけど、玄狼師兄がなんとか口添えしてくれたのよ。記憶も失っていることだし、女だからいろいろ利用価値はあるだろうからと言ってね」

「そう……だったのか、でも、姉さんの記憶は————」

 

 玄豹は龍珠の言わんとすることが分かったように話を引き取った。

 

「記憶を失っていたのは本当よ。でも数ヶ月くらいした後、突然思い出したわ。だけど私は記憶を失ったふりを必死に続けていたの。あいつに殺されないために、あいつに復讐する機会を窺うために……!」

「…………」

 

 憎しみで淀んだ瞳を虚空に向けていた玄豹だったが、振り返ったその顔はいつもの慈愛に満ちたものに戻っていた。

 

「そんな時にあなたに出会ったの、龍珠……。あなたとあなたの伯父おじ夫婦には本当に申し訳ないことをしてしまったと思っているわ、だから、これは復讐だけじゃなくて、あなたたちへの罪滅ぼしでもあるの……!」

「姉さん…………」

 

 この時、龍珠は玄豹の心情を理解できた気がした。

 

 自分に対する偏愛とも思える接し方は、単に顔貌かおかたちを好んでいただけではなく、記憶を失っていたおのれの境遇を重ねていたのである。もしかすると、若い命を散らした幼い弟の姿も————。

 

「……分かったよ、姉さん」

「龍珠、それじゃあ————」

「ああ。二人で玄舟を倒して、発作の呼吸法を手に入れよう……!」

「龍珠……!」

 

 二人は手を取り合って、打倒・崔玄舟の決意を固めた————。


     ———— 第十七章に続く ————

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