表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】龍面公子 〜暴虎馮河伝・続編〜  作者: 知己


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/83

第十章『追憶(一)』

 漆黒の夜空に四つの灯火ともしびが幽魂のように浮遊している。

 

星河セイガ……お前、空を飛べるのか……!」

 

 玄龍ゲンリュウは驚いた様子で、宙を飛行する白馬に話しかけた。星河と呼ばれた白馬は嬉しそうに鼻を鳴らして応える。玄龍は仮面の下で微笑を浮かべたが、次の瞬間にはその眼が見開かれた。

 

「…………なんで俺は、お前の名を知ってるんだ……?」

 

 

 ————不意に記憶の断片が紙芝居のように脳裏に浮かび上がり、白い毛並みの白馬の背に揺られている情景が蘇った。

 

 

「……俺は以前まえにも、お前に乗ったことがある……?」

 

 次いで、先を進む一組の男女の背が映り込んできた。

 

 男は虎を想起させる立派な体躯の持ち主で、主人に劣らぬ威容の白馬に騎乗している。

 そのかたわらには雪のような真白い装束を纏った女がくつわを並べており、騎乗するは薄紅色の毛並みを持った牝馬である。

 

(この人たちは……、どこかで……)

 

 懐かしい感覚に捕われていると二人が振り返った。しかし、逆光でその顔はハッキリと見えない。

 

(あなたたちは誰なんだ、俺のことを知っているのか……?)

 

 その時、背後から呼び掛けられた気がして振り返ると、別の男女がたたずんでいるのが見えた。

 

 女は透き通るような肌の大層美しい顔立ちをしており、こちらを愛おしげに見つめている。その微笑みは全てを包み込んでくれるかのように暖かい。

 

(俺はこの人のことも知っている……、でも…………)

 

 やはりどうしても思い出すことが出来ず、思わず男の方へ視線を送ると全身に衝撃が走った。

 

 

 ————そこには、おのれと同じ顔を持った男が立っていたのである。

 

 

(あれは俺……⁉︎ ————いや、違う……)

 

 男は確かに自分と瓜二つの顔をしているが、よくよく見れば年齢が一回り以上も上だと思われた。美貌の男は寂しげな表情を浮かべ、何と声を掛ければ良いか思案しているようである。

 

(あなたは、まさか……俺の————ッ!)

 

 男のことを思い浮かべた刹那、強烈な痛みが頭部を襲い、記憶の断片は硝子ガラスのように粉々に砕け散ってしまった————。

 

 

 ————眼を開けると、いまだ白馬の背に揺られていることに玄龍は気付いた。

 

 何か夢を見ていたような気がするが、それがどんなものだったかはどうしても思い出せない。ウンウンと玄龍が唸っていると、星河が心配そうに目線を向けて来る。

 

「心配してくれるのか、ありがとう」

 

 ポンポンと首を叩かれた星河はまたも嬉しそうにいなないた。玄龍はしばらく星河の首筋を撫でていたが、ふと、ある疑問が湧いてきた。

 

「……お前、俺を何処どこに連れて行こうっていうんだ?」

 

 星河は鼻を鳴らして応えるものの、流石に玄龍には馬の言葉はかいせない。

 

「そう言えば、お前に乗っていた青い上着の女の子はどうしたんだ?」

 

 この質問に星河は悲しげにいなないた。その様子を見た玄龍に閃くものがあった。

 

「————もしかして、お前の主人に何かあって、救いに行くっていうことなのか?」

 

 星河は玄龍の言葉を理解したかのようにうなずくと、一際大きくいなないた。

 

 どうやら白馬は主人を助けるために、自分に助太刀を頼んでいるらしい。本来ならば命の期限が迫っていることもあり、他人の窮地に手を貸している場合ではないのだが、この白馬は自分と関わりがあるような気がしてならない。

 

「いいよ、星河。お前の主人のところに案内してくれ」

 

 玄龍が力強く手綱を握ると、星河は闇夜を駆ける流星のように速度を上げた。

 

 

 

「————チッ、あの馬、まさか手綱を噛み切って逃げやがるとは……」

 

 漆黒の闇の中に男の悔しそうな声が木霊こだまする。しかし数瞬の後、男は気を持ち直したように声色を変えた。

 

「……まあ、いいや。お人形さんが二つも手に入ったんだ」

「…………」

 

 男が嬉しそうに言うと、闇の中から何かが身動みじろぐ気配が感じられた。

 

「操り人形が土産みやげを持って帰って来るまで、俺はこっちの着せ替え人形で憂さを晴らさせてもらおうかねえ……!」

「…………ッ」

 

 男の下卑た声は愉悦にまみれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ