シブヤには少女のシ体が隠されている
「夏のホラー2021」参加作品です。
雰囲気ホラーです。
渋谷を舞台に何か書いてみたかったので挑戦しました。
※この後に概要を載せますので、確認してから判断お願いします。
・怖い雰囲気を楽しむような内容です。
・書き手の力量により、思ったほど怖くないかもしれません。
・何故そんな事が起こったのか、原因は明らかになりません。
・ハッピーエンドとバットエンドならバットエンドです。
『夜中の0時、死せる犬の周りを右に▲周、左に■周回り、骨を供える』
これは呪いなどではない。シ体の少女に会う為の儀式である。
シ体の少女は最近注目されている新人YouTuberだ。
彼女のチャンネルでは、毎夜オカルトの研究が行われ、心霊写真や心霊スポット、〇チャンネルの怖い話などを題材に彼女と視聴者の考察が繰り広げられる。またそれとは別に、歌ってみたや、料理、菓子作りなどの企画もあり、それを見るのが僕の楽しみの日課になっていた。
そんな彼女が登録者数一万人を記念して、視聴者とのイベントを企画した。
それが『シブヤかくれんぼ』である。
シブヤの街で謎を解き、隠れている彼女を見つけるとクリアとなる。そしてオリジナルグッズや、動画の特別コーナーに出演できるなどの特典がもらえるのだ。
僕は『死せる犬』=『ハチ公像』の周りをグルグルと回り、骨を置いた。
シブヤはテレビでしか見たことがないが、夜でもかなりの人がいるイメージだ。しかし気付くと誰もいなかった。最近は出歩くなと言われているし、一応、皆守っているのだろうか?
そんな事を考えているとDMが届いた。
『静かに聳える塔を死者の香りで満たせ』
次の謎である。僕は少し考えてから109へ向かった。
この日の為にネットで情報収集したり、地図やストーリービューを見て予習しておいたので、余程、変な場所でなければ分かるようになっている。
既に営業を終え静まり返った109に行くと香を焚いた。
使う道具は指定されていてナップサックの中に入れてある。間違えても良いように多めに持ってきたし、準備は万端だ。
香を焚いている間に白い霧が辺りを覆い始めた。視界が少し悪い。僕はシブヤにも霧がかかる事に驚き、同時に溜息を吐く。
(何もこんな日に…)
僕がこのイベントに参加したのは、もちろん憧れの人に会いたいからというのもあるが、実はもう一つ理由がある。シ体の少女が高校のクラスメイトだったNではないかと怪しんでいるのだ。
Nの印象はあまりない。いつも一人で教室の端にいた気がする。あまり話した事もなく、どんな声かも思い出せない。動画の中で楽しげに話すシ体の少女とはまるで違うのだが、只、なんとなく顔の雰囲気が似ている気がした。
もちろんメイクや装飾品で素顔など分からないのだが、パーツのバランスとか横顔の感じとかに既視感があった。思わず卒業アルバムを引っ張り出して確認した程である。
(もし今日会えたら、それをはっきりしたい。)
またDMがきた。
(どこから見ているか知らないけど、スタッフも大変だな。)
『緑の絨毯の中で心臓を捧げよ』
(緑の絨毯=芝生がある場所ならミヤシタ公園の事だろうか?)
次の目的が決まった。移動中、なんとなく街灯が暗く感じる。節電の為かもしれないが、明るくなければ街灯の意味がないのにと思いながら歩く。
ミヤシタ公園に着いた時、人影が見えてドキッとした。誰もいなくて心細かったはずなのに、見えた瞬間は逆に怖く感じたのだ。
どうしようかと迷ったが、その人影は何かに追われるように走っていってしまったので、ホッとしてそのまま中に入った。こんな夜更けに何をしてるのか気になるが、自分も変わらない事に気付き、さっさとスーパーで買える心臓を地面に埋める。
(これも後でスタッフが回収するんだろうな)
儀式を終えるとDMがきた。
『土地を隔てし長きものを闇の光で照らせ』
この儀式は「死者を蘇らせる」ものだが、どこかの本当の儀式ではなく、色んなものから一部を取り出して組み合わせたオリジナルらしい。何かと言うと動画内で使われネタにもされるので視聴者ならお馴染みである。只、儀式を行う場所が謎解きになっているので、そこで頭を使うのだ。
この「土地を隔てし長きもの」は長い壁の事を指している。そしてシブヤで有名な壁と言えばグラフティが描かれていたウダガワ町の壁だ。少し遠いので僕は早足で向かった。
アーーーーーーーーー
突然、子供の声が響いた。猫か赤ん坊なのか判別がつかないような声だ。脅かすなと愚痴りつつ、近くに小学校もあるし、当然一般住宅もあるのだから、不思議ではないのだと自分に言い聞かせ、目的地を目指した。
ウダガワ町の壁。昔は壁一面にグラフティが描かれていたそうだが、今は全て消され、ごく普通の壁になっている。僕はそこにブラックライトを当てた。
『白き体を持ち、円柱の王冠を被り、皆の注目を集めるものの足元にシ体の少女は隠されている』
どうやらこれが最後の謎解きらしい。
場所はすぐに分った。モディである。謎を解いた爽快感で駆け出したかったが、停電にでもなったのか街灯は消え、霧も濃くなっていたので、万が一と思っていた懐中電灯を使う羽目になった。
そこまでしてモディに到着したのに、そこもやはり真っ暗だったのである。
(場所が間違っていたのか?)
僕は焦って辺りを見渡した。すると何故見落としていたのか分らないが、正面に線のような光が見えた。近付くとそれはエレベーターで、中の光が漏れているらしい。
他は真っ暗なのに、このエレベーターだけが動いているという事は、つまりここがゴールなのだ。
僕は嬉しくなってエレベーターのボタンを押そうとしたが、その前に扉が開いたので、吸い込まれるように中に入った。
エレベータの中に入ると、階を指定するボタンは地下4Fだけが押せるようになっていたので、それを押した。
(凝ってるな。)
そんな事を考えながらエレベーターの移動を待つ。
(やけに長くないか?)
動く音だけが響き着く気配がない。気が急いているのが原因だろうが心配になるほどだった。
ゴトンと衝撃と音がしてエレベーターが止まる。ゆっくりと扉が開くと、真っ暗な空間が広がっていた。どうやらワンフロアが全てが繋がった、何も置いていない空間らしい。
その中に蝋燭の火がかたまって何本か揺れていた。
(あそこだ。)
僕は足元に気をつけながら、なるべく早足で近付いた。演出なのかもしれないが腐敗臭が充満している。
蝋燭の場所には棺があった。これだという確信から何も考えずに棺を開ける。こんな中に隠れているのだとしたら大変だと思いながら、とにかく中を覗いた。
彼女はそこにいた。
頭以外は白いスミレに覆われていて、足の先が少しだけ飛び出している。顔を見ると、彼女はうっすらと目を開けた状態で宙を見ていた。
動画の画面では自信が持てなかったが、顔を近くで見てやはりNだと確信する。Nは僕の事を憶えているだろうか?早くその事を話したい。
「あの…えっと覚えてますか…僕…」
僕は何か話そうとしても言葉が出てこない上に、しばらくしても彼女が動かないので不安に思い始めた時だった。
『やっと見つけてくれたんだね。ずっと待っていたんだよ。』
DMだ。
僕は極度の緊張から解放され、スミレをどけて彼女を棺から出そうとしたが、その瞬間、全身が震えた。
彼女の首は切断されていたのだ。
良く見ると手や足もバラバラになっている。胸は引き裂かれ、内臓が飛び出て、だらりと垂れ下がっていた。
(こんな状態で生きている筈がない!)
ガクガク震える足を拳で叩き、なんとか動かせるようになるとその場を離れた。
僕は乗ってきたエレベーターに走り、とにかく「閉」ボタンを押す。そしてすぐにナップサップの中身をぶちまけ、各階のボタンを隠している板の隙間から、持ってきた道具を駆使してなんとか一階へのボタンを押した。
(早く閉まれ!早く閉まれ!)
扉が閉まりきるまで、闇の向こうに彼女が見えないか怯えながら心の中で唱えていたが、左右の扉がやっと合い、エレベーターが動き出す。
地上に出ると一目散に渋谷駅に向かった。電車ではなくタクシーが目的だ。客待ちしていたタクシーに乗り、すぐに家に帰る。その夜は布団を被りずっとガタガタと震えていた。
そして数日後。
シ体の少女の配信は今でも続いている。新しい事件や出来事にも対応しているから、その場に彼女がいる事は間違いない。
だから僕が見たのはきっとシ体の少女のイタズラだったのだろう。何の目的かは分からないが、作り物で脅かされただけなのだ。
それ以外考えられないはずなのに、何故か僕はあの日からシ体の少女がNには見えなくなっていた。
『シブヤには少女のシ体が隠されている』
そんな僕の言葉はきっと誰も信じてくれないだろう…。
『こんばんは!シ体の少女だよ?
ミンナ、ちゃんと生きてる?
今日も貴方の命をワタシに捧げてね♪』
おしまい。
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