イタチ?
強い決意をもって飛びだしたマルオは洞窟の入口に一人立っていた。手にはこん棒が握りしめられていた。
さあ、これからが本当の異世界人生の始まりだ!まずは、この森をぬけよう。
森は高い木々と、うっそうとした雑草で、あたりは暗闇に包まれ1メートル先も見えない深い闇に包まれていた。
マルオはこん棒で、雑草をかき分けながら、暗闇の中をゆっくりと進んだ。3時間も歩いただろうか、強い決意で飛び出したマルオも、さすがに疲れが出てきた。
「少し休むか」マルオは1メートルほどの岩に腰掛け、洞窟から持ってきた、水を1口飲んだ。
その時、「ガサッ」「ザザッ」何かが動いている音がした。「なんだ! まさか魔物か?」
マルオは自らのまぎれもなく醜く恐ろしい外見を棚に上げて、初めての魔物かもしれないものとの遭遇に恐怖した。
「どうする? 戦うか?」
「この世界にレベルというものがあるかどうかはわからないが、今のおれは間違いなくレベル1の最弱状態だ」
「だが、いつまでも戦わなければいつまでたっても最弱のままだ、あのミハエルにだって勝てないままじゃないか」
「グワサッ」その時、突然目の前のひらけたところに、それは現れた!その距離2メートル!
「んっ? イタチ?」
そこには50cmほどの、やせ細ったイタチがこちらを見ていた。明らかに魔物という存在ではなく、食べるものもなく、森をさまよっているようだった。
「なんだ、イタチか! んっ、まてよ、あのイタチには悪いが初めての狩りのチャンスだ! 初めての狩りにはちょうど良い獲物じゃないか!」
マルオはこん棒を手に、ゆっくりと立ち上がった。イタチは目をくりくりとして、こちらを不思議そうに覗き見ている。
「よし、やるか! 悪いな、お前に恨みはないが、オレの腹の足しと、狩りの経験になってくれ」
「ウォーッ」マルオはこん棒を高く振り上げてイタチに向かって、こん棒を振り下ろした。こん棒は地面にたたきつけられた。「んッ、イタチがいない! どこに行った?」
次の瞬間、イタチはマルオの左肩に嚙みついていた。次の瞬間にはマルオの肩の肉はイタチによって大きく引きちぎられていた。
「ぎぃやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
マルオは激しい痛みに地面に倒れバタバタともだえ苦しんだ。
イタチは、マルオのことなど気にするそぶりも見せず、悠然とマルオの肩の肉をゆっくりと味わっていた。
「ゴクッ」マルオの肩の肉を飲み込むと、イタチを再びマルオをじっと見つめた。今度は先ほどとは違い獲物を見る目で。「こいつは弱い」冷静さを取り戻したマルオはイタチの目を見て、イタチが自らに下した評価を実感した。
「久しぶりの獲物だ! 逃してはならない!」イタチは慎重にマルオとの距離を詰め始めた。
「だめだ! 勝てない! 逃げなければ!」
マルオはじりじりと距離を詰めてくるイタチを眺めながら走り出すタイミングを待っていた。
「いまだ!」マルオは立ち上がり、力いっぱい走り出した。「ゴブリンって、こんなに弱いのかよ!」そんなことを考えながら。