大勇者の力
「はぁ はぁ はぁ なんなんだ、あの男は、本当に人間か」
シンは力いっぱい何度もこん棒で殴りつけていた。
「どんな人間でも普通死んでるだろー、オレはもう立てないぞ!」
シンは、もはや立ち上がる体力もなくぐったりと壁にもたれかかっている。
「急に光がでて、鬼人になって面食らったが。それだけだったな!」
「オレは世間では大勇者と呼ばれている英雄ノブだ! 只の鬼人の攻撃くらいでやられるわけないだろー!」
ノブはゆっくりと立ち上がり、シンに近づいてきた。手には大剣が握られている。
「大勇者だと? なんでそんな奴がこんなところに! ここはゴブリンしかいない辺境の洞窟だぞ!」
シンは突然の大勇者に驚きながらも、この場を何とかいったん退避する方法を考えていた。
「そうだ! イオ! あいつは今どうしてる! きっと隠れてこの大勇者に不意打ちするつもりなんだ! その隙に二人でいったん退避するしかないな」
シンは心の中で思いを巡らせていた。
その時、イオはまだおしっこを漏らしたまま腰を抜かしていた。
「ゴブリンしかいない洞窟で、突然鬼人が出てきてびっくりしたが、それだけだ。そういえばシャリーンの気配がさっきから突然消えたな。ちょうどお前が現れたころだ!おまえがシャリーンを隠したのか。じっくりと吐かしてやる!」
ノブはシンをいっそう強く睨みつけた。
「シャリーン? 何のことだ! オレはそんな奴は知らないぞ!」
シンは怒りに加え激しい恐怖の感情の中、身に覚えのないことで、責められて困惑していた。
「どこの世界でも、犯人は知らないってとか、やってないっていうんだよな。安心しろすぐには殺さない、殺してくださいって頼むくらい拷問してやるよ!そうしたらシャリーンのことも話すだろう! ハハハハハ」
ノブの目は血走っていた。もはや正常な判断ができているとは思えないほど狂気に満ちた表情で勇者の面影はなく、処刑人や拷問官のようにしか誰の目にも見えなかった。
「ごめんなさい! ごめんなさい 私じゃありません! 何も知らないです」
シンは涙を流しながら、ノブに謝った。
「イオの出現のタイミングのためには、時間を稼がないと!」
イオはまだおしっこを漏らしてガタガタ震えながら腰を抜かしていた。この時、シンも少し漏らしていたのだが・・・・
「まあいい、まずはその右腕から切り刻んでやる!」
ノブは再び大剣を振り上げた。
「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
突然、ノブは苦しみもだえて、バタバタ床を転げまわった!
「久しいな、ノブ!」
どこからか不気味な声が響き渡った。
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