イオ
シンとイオは宿屋で簡単な食事をとった後、早速船着き場に向かった。船着き場にはすでに多くの乗客が船を待っていた。
二人が乗る定期船乗り場はA-3番乗り場である。そこには数百人は余裕で乗れるであるろう大きな帆船があった。
「大きいな!」
シンが目を丸くしていると
「おれたちが乗るのは、こっちだ」
イオはシンが見ていた大型船の隣の小舟を指さした!
「えっ」
シンは先ほどとは違う意味で目を丸くした。
「これ大丈夫なのか?」
そこには定期船とは名ばかりの5人も乗ればいっぱいになるボートがあった。
「おれたちが進む航路は比較的穏やかだから、これでも大丈夫なんだ」
イオはシンの手からチケットを取り小舟に乗り込んだ。
「ほらシンも来いよ」
シンは不安ながらも渋々ボートに乗り込んだ。
「今日の夜には到着するから、それまではゆっくりと船旅を楽しもう」
イオはそういうと、さっそく宿屋で購入したコッペパンをかじりだした。
ボートはまもなく出港した。イオの言う通り波はほとんどなく穏やかな船旅であった。
シンはのんびり景色を楽しんでいたが、いつの間にかうとうとしていた。
「おいシン、そろそろつくぞ!」
シンは目を覚ますと、1キロほど先に町が見えた。一人の時は問題ばかりの旅だったがイオと出会ってからは、落ち着いた旅ができているとシンは感じていた。
船着き場についた二人は、食事をとることにした。
「おい、おまえイオだな!」
船着き場の隣の食堂に入ってすぐに、大きな声でイオは呼び止められた。
「やばい! シン逃げるぞ」
イオはシンの手を引っ張り走り出した。
「おいコラ待て、コノヤロー!」
2mはあろうかという大男が二人を追いかけてきた。
「やっぱりこうなるのか」
シンは心の中でうなずいた。
「おい、何のんびりしてるんだ」
イオはシンの手を強く引いて、一層早く走り出した。
「シン、この町で馬車を借りるのは難しくなった! このまま町を出るぞ」
二人は1時間ほど町の外に広がる草原をはしった。
「悪かったな、ただ道は把握してる! 心配するな! 大船に乗った気でいていいぞ」
イオは自信満々で胸を張った。
「いやいや小舟しか乗ってないし、今は泥船か」
シンは心の中でため息交じりに嘆いたのであった。
「今日はここで野宿な」
イオは草原の中にある小さな木の根元に荷物を置いた。
「まあ、慣れてますから」
シンは小さな声で応えた
「えっ! なんだって」
「・・・・」
「何?」
「・・・・」
「だから、聞こえないぞ」
イオはしつこくてバカだった。