初めての狩り
マルオは朝からそわそわしていた。ゴブリンに転生してから今日で1年がたった。ゴブリンの1歳は成人である。成人になったゴブリンは洞窟の外に出て狩りができるからである。
「この1年は長かったな!」
オレの世界は1年間の間、相変わらず食堂と広場と寝床だけであった。前世では日本有数の実業家として毎日忙しく活動していたマルオにとって、何もできない、何も頑張ることがない1年は、とてつもなく長いものであった。
1年で変化があったことといえば、前世の「健一」ではなく「マルオ」に馴染んだということくらいである。
名前に関しては大きな不満があった。
1年の間に知ったことであるが、母の名前は「エリザベス」妹は「ジェニファー」
亡き父の名前は「カイル」近所のおじさんは「ミハエル」である。
なぜオレは「マルオ」なんだ!せめてもう少し、センスのある名前にしてほしかった!
「マルオ、そろそろ時間よ」
母が声をかけてきた。
今日からは、近所のミハエルのグループに入って狩りに出かけるからだ。
マルオは部屋を急いで駆け出し広場に向かった。そこにはミハエルをはじめ5人のゴブリンがいた。
「おう、マルオ来たか! 今日からマルオも立派な大人の男だ! がんばれよ」
ミハエルはマルオの肩をバンバンたたきながら、マルオを連れて広場の先の通路に向かった。
マルオにとって、広場から先は未知の世界である。5分ほど洞窟の中の通路を歩くと先の方に明かりが見えてきた。
「おお! やっと洞窟の外に出られるぞ!」
まばゆい光がまぶしいぜ、そんなセリフを用意していたマルオは、少しがっかりした。
洞窟の外は深い森の中で、光はほとんど射さず洞窟の中と変わらない薄暗い世界であった。
「まあ、まだ出たばかりだしな」
そんなことを呟きながらマルオはミハエルの後ろについて、さらに10分ほどうっそうとした森の中を歩いた。
「さあ、今日は木の実とりだ!」
ミハエルが指示を出した。
「はあ?」
マルオは驚きと不満の声を上げた。
マルオの前世の記憶ではゴブリンといえば、魔物であり人の集落等を襲って、略奪や殺人等を繰り返す残虐なイメージがあった。特別、人間を殺したいわけではないが、せめて獣を刈るくらいはしたいと思っていたからだ。
そういえば、この1年間不思議に思っていたことが、食事のメニューであった。毎日食べるものといえば、木の実や木の皮等のスープ、たまにネズミの肉等も出ることはあったが、ほぼ毎日質素なスープであった。
この辺りには獣がいないのか?
もっと積極的に狩りにでて食生活を豊かにした方がいいんじゃないか!
前世で、何もないところから、その努力でのし上がったマルオは、ミハエルやほかの大人たちの行動が理解できない。
ましてや見た目が、とてもこの世のものとは思えない恐ろしい外見のゴブリンが木の実をとってる姿は、あまりにシュールであった。
「ミハエルさん、せっかく森にいるんだから獣を狩ったりしませんか!」
マルオは強い口調でミハエルに訴えた。
それを聞いた他のゴブリンたちは驚いた表情でマルオとミハエルを見た。
「馬鹿野郎! 死にたいのか!」ミハエルは激怒しマルオを手に持っていたこん棒で殴りつけた。
周りのゴブリンたちは、それを見てミハエルを全員で止めた。ミハエルは落ち着きを取り戻し、一人森の中に歩いていった。
マルオは殴られながら、その状況が理解できなかった。周りのゴブリンたちにミハエルが去ったあと、質問をぶつけてみたが、誰も何も語ってはくれなかった。
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