宿屋
宿屋の部屋に入ったシンは歩き疲れてベッドに倒れるようにはいって眠りについてしまった。
何年も変えてないシーツ、薄暗い部屋、あちこちにシミが広がる部屋であったが、ゴブリンとして洞窟の薄暗い部屋で1年間過ごしたシンにとっては、気にならないどころか、安心感さえ感じられた。
シンは朝までそのまま眠りについてしまった。路地裏の喧騒で目を覚ましたシンは、ベッドに座り今後のことを考えた。
「なんとかここまで来たが、このペースではいつあの洞窟までたどり着くかわからない。せっかくシュバのもらった金貨があるのだ、この金貨を使って時間を短縮できるものはないか調べてみよう」
シンはさっそうと立ち上がり、勢いよく階段を下りた。そこには宿屋の女がニコニコしながらシンを見ていた。
「お早いお立ちですね。お会計はこちらです」
とても雰囲気が良い人だな、見た目で人を判断してはいけないな。シンは昨日の第一印象で、この上なく悪い印象を持ってしまったことを悔やんだ。
「1晩で金貨30枚になります」
宿屋の女はさらにニコニコしながらシンに話した。
「えっ!」
シンは驚きすぎて言葉が出なかった。金貨1枚で転生前の世界では1万円ほどの価値だ。ということはこの女は30万円といっているのか。
「金貨3枚ですよね」
金貨3枚でも非常に高いと思ったが、シンは恐る恐る尋ねた。
「いいえ、当ホテルはこの町で最も歴史のあるホテルでございます。さらにお客様がお泊りになった部屋はこのホテルエメラルドで最も高いプレジデンシャルスイートです。特別セールで金貨30枚にしてあげているのですよ」
宿屋の女はずっとニコニコしながら話している。
シンは言葉が出なかった。しばらく固まった後、金貨の入った袋に手を入れ、女がいるカウンターのテーブルに金貨3枚を出した。
「1晩の宿賃ではこれで十分なはずです!」
シンはそういうと宿屋を飛び出し走り出した。
「まてーーーーーーーーーっ」
宿谷の女は鬼のような形相になり、右手に大きななた、左手には巨大な肉切り包丁をもってシンを追いかけてきた。
「金貨30枚はらえーーーーーーーっ!」
「うわーーーーーーーーっ!」
シンは生きた心地がしなかった。
「走れ! 走れ! 走れ!」
足を止めれば殺される!シンはそう思いひたすらに走った。
町の路地から路地へ1時間ほど走ったころ、やっと女の姿は見えなくなった。
シンは力尽き、どさっと地面に腰を下ろした。
「なんて恐ろしい女だ! ゴブリンの時イタチに追いかけられた時よりも恐ろしかった!」
シンはそのまま1時間動くことができなかった。