馬車
シンが見たのはこん棒だった!小さな村なので雑貨屋といっても、調理器具や農具、そして簡単な武器まで一通りなんでもある店であった。
こん棒を見たのはゴブリンの洞窟以来だったシンは、母や妹のことをより一層深く思い出してしまった。
「勝手に出て行ってしまって、あの後二人はどうしたんだろうか。無事でいるのかな」
シンは胸が締め付けられるように苦しくなった。
「カーン カーン カーン」
村の鐘がなった! 馬車の出発の時間である。
「よし、いくか!」
シンは雑貨屋を飛び出し、馬車の発着場に向かった。
そこにはシンが乗る馬車に同乗する何人かの客が集まっていた。
一人は40代ほどの商人らしい男だ。大きな袋を抱えている。他には70代ほどの老夫婦だ。二人ともそれなりに小奇麗な服装をしている。最後の一人は少し影がある30代の男だ。
「さあ、出発だ! 乗った! 乗った」
シンは急いで馬車に乗った。
馬車はゆっくりと走り出した。
しばらくすると、シンに老夫婦の妻が話しかけてきた。
「ぼく! 小さいのに一人で馬車に乗ってるんだね。偉いね!」
「はい、隣町まで行きます」
シンはなるべく子供らしく応えた。
「そうか、まあ今は魔物もほとんど出ないし、昔に比べるとずいぶんと安全になったからな! 盗賊でも出ない限りは子供一人でも旅はできるな」
商人の男が会話に入ってきた。
シンを含む馬車の乗客たちは、何気ない会話を楽しみながら、ゆっくりとした馬車の旅を楽しんでいた。
2時間ほど進んだとき、突然馬車が止まった。
「何があった?」
商人の男が尋ねた!
「大木が倒れて道がふさがれている!」
その時3人の男が現れた!
「盗賊だ!」
男たちは剣を抜いて馬車を取り囲んだ。
「ゆっくりと降りてこい! 金目の物を置いていけば命は助けてやる。」
「命が大切だ。ここは逆らわずに素直に従おう」
商人の男が皆に話をした。
「待て! お前たちは馬車から降りるな!」
謎の男はそういうと、一人馬車を降りた。
「お前たちに、やるものは何もない! 薄汚い虫けらどもめ!」
男は強い口調で盗賊たちに吐き捨てた。
「おいおい、何勝手なことやってるんだ」
商人の男は馬車の中でぶるぶる震えだした。
「確かに! この馬車には老人も乗っている。あの男の行動は褒められることではないな」
シンは心の中で呟いた。