酒場
シンは、この世界に転生して1年をゴブリンとして過ごした洞窟を目指した。地図があるわけでもなくこの世界の地理が分かるわけでもないが、向かうべき方角は何故だかわかった。いまだに人間の皮を被るゴブリンとしての本能だろうか。シンはそんなことを考えながら、ひたすら歩みを進めた。
「はっきりとはわからないが、あの洞窟までは、まだまだ距離がある。このままでは数カ月はかかるだろう」
「なぜだか、胸騒ぎがする。急がなければいけない」
シンは理由がわからないが一刻も早く洞窟に向かう必要があると感じていた。
3日3晩ひたすら歩き続けたシンは精魂尽き果て倒れこんだ。5時間は経過しただろう、シンは気絶していた。
いくらシュバとともに毎日のように鍛えていたとはいえ、体は3歳児である。目を覚ましたシンは、数キロ先に村を発見した。
「とりあえずあの村で休むか!」
シンはひとまず村で疲れを癒すため、まずは村の酒場に入った。シンが酒場に入った瞬間、一斉に酒場の客の目がシンに集まった。3歳児が一人で酒場に入ってきたのである!大人たちは、当然に驚いたわけであった。
「そうか、オレは幼児だ! すっかり忘れていた」
シンが自分の置かれてい?状況を再確認していると一人の男が声をかけてきた。身長は180cm程か、山男のような風貌にサンタクロースのようなひげを携えている。
「おう、坊主! こんな酒場に一人で来たのか」
「はい、祖父のいる街に行くところです」
シンは本当のことを話すわけにもいかず、とりあえず当たり障りのない返答をした。
「そうか! そんな年でひとり旅とはえらいな! 店のおごりだ、何でも好きなもの食っていいぞ!」
男は店の主人のようだった。
「ありがとうございます」
シンは主人の好意に甘えて、3日分の食事を無我夢中でとった。
「おいおい、すごい食いっぷりだな! 食ったら今日はもう遅いから、ここに泊まっていけ!宿代はまけといてやる」
どうやら1階は酒場で2階は宿屋になっているようであった。
シンは好意に再び甘えて1晩泊まって疲れを癒すことにした。酒場では有力な情報も手に入った。この村から隣町までは、定期馬車が走っていて、明日出発の便が1席空いていた。
シンは、酒場の主人に馬車の席をとってもらった。
よく朝目覚めたシンは馬車の時間まで村を散策することにした。
「そういえば、何も持たずに旅に出てしまったから、この村で旅に必要なものを購入するか! シュバにもらった金貨もあるしな」
村はそれほど大きくはないため、店はそれほど多くはないが、数店の商店のような建物は村の大通りに並んでいた。
シンは、ぶらぶら村の通りを歩いているとパン屋が目に入った。
「よし!まずは食料だな!」
シンはパン屋に入ると、黒コッペパンを数個購入した。この店にはこのコッペパンしかなかったからだ。まるでこのパンで釘が打てそうな硬さであった。
「次はこの店だな」
次にシンが入ったのは、雑貨屋だった。
「おお、これは・・・・」
シンは思わず声が漏れてしまった。